■第3話「部室に咲く妄想とリアル」──前編
【放課後/書道部室】
「──ふぅ……今日の空気、すごく部室って感じですね……!」
入室してすぐ、沙耶がぽそりとつぶやいた。
大きく深呼吸。部室に漂う、ほんのり墨の香りと、ちょっと古い木の机の匂い。
「わかる~。“静寂に包まれた聖域”って感じ」
紅葉がゴロンと畳に寝転ぶ。
「ここでなら詩が浮かぶ、ってやつ」
「いえ……私が言いたかったのは、その、えっと、“ここで青春が始まる気がする”みたいな……その、漫画で見たような……」
「おぉ、沙耶ちゃん……もしかして“部室ラブコメ脳”だな?」
「ちが……違くないかもしれません……!」
「なるほど。では、検証しましょうか。“理想の部室像”とやらを」
琴音が眼鏡をクイッと持ち上げながら、白紙を一枚出してきた。
「ではまず、“部室ラブコメ的日常”の必須イベントを列挙します」
「ま、また始まったー! 琴音の“ガチ検証シリーズ”!」
「項目一、“掃除中にふたりきり”イベント」
「はい! “消しゴム拾おうとして手が触れる”やつ!」
「“棚の上のものを取ろうとして、背中に密着”も王道ですね」
「ちょ、ちょっとぉぉぉぉ!? なんでそういう話に!? わたしそんなつもりじゃ――!」
「項目二、“雨の日の閉じ込め”イベント」
「あるある! 雷で停電も追加で!」
「項目三、“何かの表現に本気になって惚れられる”イベント。書道ならまさに詩の朗読とか、墨まみれで筆を振るう姿とか」
「……それ、わたしの“跳”のときの話じゃない!?」
「紅葉さんは現実にやってのけたんです。“部室ラブコメの住人”ですね」
「よっしゃあああああ!」
「なんで喜ぶんですかっ!?」
部室はすっかり、**“理想の妄想部室談義”**で盛り上がっていた。
しかし──そんな中、部長・つばさがひとこと。
「……でも、現実のうちの部室って、ほぼ“書いてない”ですよね……?」
「「……あっ」」
全員の動きが止まった。
「……あの、最近、作品作ってないです……よね」
「書いてるより、しゃべってるか寝てるか妄想してるか……」
「わ、私たち、活動……ちゃんとしてないのでは……?」
しーん、と空気が凍る。
「……というわけで! 来週の月曜から“強化週間”に入ります!!」
「うわあああ部長が本気出したあああああ!」
「“理想と現実のバランス”を取るには、現実側のレベルアップも必要です! 妄想だけでは部活は成立しません!」
「でも! でも部室ラブコメは捨てがたいの!!」
「ならばラブと書の両立を目指せばよいではありませんか!!」
「ええぇぇぇぇ!? 無理ぃぃぃ!」
こうして――
こじらせ4人組の“現実強化週間”が、突如始まるのであった。
でもその裏で、沙耶の中にはひとつの“気持ち”が芽生え始めていた。
(こんな風に、笑って、筆を持って……
もしかしたら、“今”が私の理想だったんじゃ……)
(中編につづく)