表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

■第2話「“自由”と“伝統”のあいだ」──中編

【数日後/書道部室】


 


部室には、いつになく静かな空気が漂っていた。

沙耶がひそひそ声でつぶやく。


 


「……こ、こわいです。二人とも、完全に“無言の筆モード”です……」


 


紅葉は、スピーカーから流れるインストのBGMを背に、

半紙ではなくキャンバスサイズの紙に、大きく筆を走らせている。

墨は、なんと三種類を混ぜた特注ブレンド。


 


「“書道界の違法調合”とか言われてそう……」


 


一方の琴音は、古典的な机と筆置きで、

硯で丁寧に墨をすり、筆を何度も何度も試し書きしながら、一文字に魂を込めていた。


 


部長・つばさは、ふたりの“書き姿”を眺めながら、ポツリ。


 


「……いいですね。これぞ、青春って感じです」


 


「これ、青春……ですか……?」


 


「血が騒ぐっていうか、もうね、作品でケンカしてるって感じです!」


 


沙耶が冷や汗をぬぐう。


 


「怖いなぁ、書道部って静かな部活じゃなかったんですか……」


 


 


──そして、その日。


ついに、ふたりの作品が仕上がった。


 


最初に完成を告げたのは、琴音。


 


「……終わりました。これが、私の“伝統”です」


 


彼女が差し出したのは、端正にして大胆な楷書の一枚。

墨の濃淡を計算しつくし、余白すら美しい。

そこに書かれていた文字は――


 


「『りつ』……?」


 


つばさがつぶやく。


 


「“律する”の律。己の書に、型に、心に。全てに誠実であれ、という意味です」


 


沙耶が小さく感動の息をもらす。


 


「……凛としてる。きれい、だけじゃなくて、なんか、強い……」


 


「よーし、じゃあ私もいくよ」


 


紅葉がニッと笑い、紙を広げる。

そこに描かれていたのは――


 


「……『ちょう』?」


 


「そう。“跳ぶ”の“跳”。

 型を飛び出して、枠を飛び越えて、自分で意味を決める。そんな文字が書きたかったの」


 


その文字は、まるで筆が踊っているようだった。

力強い曲線。あえて乱したバランス。

だが、そこには明確な“熱”があった。


 


「め、めっちゃ破天荒だけど……なんか、すごいですこれ……」


 


「でしょ? あえて線を“はみ出す”ことで、逆に言葉の輪郭が浮かび上がるのよ」


 


琴音は一瞬、目を見開いたあと、ふっと目を細めた。


 


「……私の書とは、真逆。でも、確かに……これは、あなたにしか書けない“跳”ですね」


 


「褒めてる?」


 


「認めてるんです。少なくとも、“真面目なふざけ方”をしているとは思いましたから」


 


「なにそれ! それめっちゃ褒めてるじゃん!」


 


ふたりが見つめ合って、クスッと笑う。


 


(……よかった。ぶつかったままじゃなくて)


沙耶は、胸をなでおろした。


 


「じゃあ、これ……展示します?」


 


つばさが言うと、琴音と紅葉が声をそろえた。


 


「「別々に展示で!」」


 


「まだ決着ついてないし!」


 


「見た人が、どっちを“書”だと思うか……それを見てみたいですし」


 


「というわけで!」


つばさが、ばんっと両手を叩いて立ち上がった。


 


「今週末、書道部・ミニ展示会、開催決定です!

 テーマはもちろん――『自由と伝統』!」


 


沙耶がぽつり。


 


「……わたし、どうしよう。どっちにも入れない気がする」


 


つばさがにっこり笑う。


 


「じゃあ沙耶ちゃんは、“その間”を書いて。

 自由でも伝統でもない、君だけの“中間”が、きっとあるよ」


 


「……うん。書いてみます。私なりの、なにか」


 


こうして、それぞれの“信じる文字”を胸に、

4人の女子たちは、作品を携えて週末へと向かう――。


 


(後編につづく)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ