■第11話「卒業制作、最後の合作」──中編 ──副題:わたしたちが書きたかったもの
【2月・ある昼休み/廊下】
卒業式まで、あと2週間。
「3年生って、ほんとにいなくなるんだね……」
紅葉が空を見上げるように言った。
「先輩たち、全然実感なさそうに笑ってるけど……あれ、きっと平気なふりなんだろうな」
「私……書道部に入ったとき、先輩に初めて“上手ですね”って言われたの、すごく嬉しかったんです」
沙耶が、懐かしむように言う。
「“上手”じゃなかったのに、“見てくれた”っていうだけで、
ここにいていいって思えた」
「……私も、先輩に“その字、紅葉っぽい”って言われたの、
たぶん一生忘れないかも」
紅葉が照れたように笑う。
「……“ありがとう”だけじゃ足りないね」
つばさがぽつりとつぶやいた。
【その夜/部室】
壁には白紙の巨大な半紙。
その前で、琴音がひとこと言う。
「“ありがとう”のあとに、もう一歩。私たちの“声”で届けたい」
「でも、うまくまとめられる言葉が……」
沙耶が言いかけたとき。
紅葉が、ポツリと言った。
「“いてくれて、ありがとう”ってどう?」
「……え?」
「なんていうかさ。卒業って“いなくなる”ことでしょ。
でも私たち、ずっと“ここにいた”先輩たちを見てきたわけで」
「……“いた時間”を大事にしたいってことか」
つばさがゆっくりうなずく。
「うん。“何してくれた”とかじゃなくて、
ただ“ここにいてくれたこと”が、嬉しかったって……伝えたい」
「それ、すごく……いいと思います」
沙耶が目を細める。
「言葉のなかに“時間”がある」
琴音も、小さく微笑んだ。
そして、部室の空気がふっと変わる。
「じゃあ、決まりだね。卒業制作の言葉は──」
4人の声が重なった。
「ここにいてくれて、ありがとう」
(後編につづく)