■第11話「卒業制作、最後の合作」──前編 ──副題:この一年の、言葉を探して
【2月・放課後/書道部室】
「“卒業制作”? 私たちが?」
紅葉が思わず声を上げた。
「そう。校舎の渡り廊下の壁に、書道部の代表作を展示するって。
それが、今年の“卒業制作”らしいよ。……3年生の先輩たちのために」
つばさが、配られた企画書を机に置く。
「わーお、急に“公式イベント”感……!」
「でも……“先輩たちのために”って、すごく素敵だと思います」
沙耶が、少し頬を赤らめながら言った。
「私たちの言葉で、先輩たちに“ありがとう”を伝えられるってことですよね」
「でも、なに書く? “感謝”とか“門出”とか、“旅立ち”とか?」
紅葉が腕を組んでうーんと唸る。
「書くのは4人でひとつの作品。しかも卒業展示ってなると……
ちょっとやそっとの“いい言葉”じゃ足りない気がする」
「誰かの言葉を借りるんじゃなくて、
自分たちの言葉を見つけたいですね」
琴音のそのひとことに、部室が静かになる。
【数日後/話し合いが続く部室】
「“旅立ち”って言葉、きれいだけど……私たちが旅立つわけじゃないしな」
「“門出”も似てる。“巣立ち”はちょっと鳥っぽすぎるし……」
「“ありがとう”はシンプルだけど、それだけじゃ、なんか物足りない気もする」
話し合いは毎日続いた。
でも、言葉は決まらない。
みんなで何かを考えるたび、それぞれの気持ちが少しずつズレていくような気がして。
「言葉」が、「結びつけるもの」じゃなくて「分けるもの」に思えてくる。
【放課後の帰り道/坂道】
「……もしかしてさ、“合作”って、向いてないのかもね、私たち」
紅葉がぽつりとつぶやく。
「こじらせ4人が、一つの文字を書こうってのがそもそも無茶だったのかも」
「そんなことないよ」
つばさが、きっぱり言った。
「何を書けばいいかわかんなくても、
“誰と書きたいか”はもう、迷ってないもん」
「つばささん……」
「それだけは、すっごくはっきりしてる。だから、もうちょっとだけ悩みたい。
“一緒に書けてよかった”って思える文字、絶対あると思うから」
雪がちらつく帰り道。
坂をくだりながら、4人の背中は、ほんの少しだけ近づいた。
(中編につづく)