■第10話「初詣と、未来のこと」──後編 ──副題:いまの気持ちで、未来を描く
【神社・絵馬掛け前】
4人の絵馬が、並びはじめていた。
琴音の「書いてたい」、沙耶の「誰かの文字に寄り添いたい」、
紅葉の「自分の字で、生きのびる」。
そして最後に、つばさがペンを走らせた。
「信じたい」
「……これが、いまのわたしの気持ち」
つばさは、絵馬をそっと手に取って言った。
「“書道で食べていけるか”とか、“夢が叶うか”とか、わからない。
でも、いまの自分が書きたいと思ってる気持ちを、
信じてみたいって思った」
「信じたい、か……」
紅葉が静かにうなずく。
「うん、それって、きっと“勇気”なんだね。
書けない未来を、今の言葉で少しでも塗っていくっていう」
「たとえ間違っても、信じた分だけ前に進めそうな気がします」
沙耶の言葉に、琴音も静かに笑った。
「私たち、書道部だけど“未来を書く部”でもいいかもしれませんね」
「なにその肩書き。かっこよすぎでしょ」
紅葉が吹き出しながら、4人の絵馬を並べて木に結ぶ。
白い息。冷たい空気。
だけど、指先と心はほのかに熱い。
──その帰り道。
4人はいつものように、並んで歩いた。
「進路、どうなるかな」
「わかんない。でも、まだ“決めない”って選択もアリだよね」
「うん。焦らなくても、私たちには“筆”があるし」
「“書いて迷う”ってのも、悪くないよね」
──その夜。部室に戻ってきた4人は、
初詣で書いた“自分の字”をもう一度、半紙に書いて貼った。
●琴音:「書いてたい」
●沙耶:「寄り添う」
●紅葉:「生きのびる」
●つばさ:「信じる」
部室の壁に、4人の文字が並ぶ。
そのすぐそばに、小さく書かれた言葉が添えられていた。
“いま書いた文字が、未来につながる”
その言葉に、誰からともなく「ふふっ」と笑い声がもれた。
きっと、大丈夫。
きっと、自分たちの“未来”は、まだ白紙で、でも温かい。
(第10話・完)