表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

■第10話「初詣と、未来のこと」──前編 ──副題:書けない夢、書いていいですか  

【1月3日/初詣・古い神社の境内】


 


「うわーっ、おみくじ中吉だったー!」


 


「私は小吉……。でも“学業:地道な努力が報われる”って書いてます」


 


「ってことは私たち、まだ地道に努力しなきゃいけないのか~……」


 


紅葉が境内の石段でストレッチしながらぼやく。

冬晴れの空。4人はマフラーぐるぐるで、息も白くて、だけど笑っていた。


 


「はい、これ。絵馬、もらった」


 


つばさが手渡したのは、神社の絵馬4枚。


 


「“今年の目標”とか“進路”とか、自由にって言ってた」


 


「うっ……出た、“進路”ワード」


 


「高校2年の終わりって、なんかもう“将来”って言葉がうるさいくらい来るよね……」


 


沙耶が苦笑する。

紅葉は絵馬を握ったまま、小さくつぶやいた。


 


「……正直さ、書道って将来になるのかな」


 


「……それ」


 


琴音がぽつりと同調する。

3人の空気が、少しずつ重たくなっていく。


 


「わたしも、思ったことある。“書道部って、大学の推薦とか就職に役立つの?”って」


 


つばさが、少しだけうつむいたまま言う。


 


「でも、なんか……辞めたくないとも思ってる。

 “意味”とか“将来”とか、考える前に、“好き”って言いたい自分もいる」


 


「……そうか。じゃあ、“好き”を絵馬に書いてみよっかな」


 


沙耶が微笑む。


 


「未来のこと、今の自分じゃ決めきれないなら、

 今の“好き”をちゃんと書ける人が、一番強いのかも」


 


「なんかそれ、詩っぽいね」


 


紅葉がそう言って笑った。

4人は、それぞれ無言で、絵馬に向き合い始める。


 


──誰もまだ、筆を動かさない。

でもその沈黙は、いつか書きはじめる勇気を育てていた。


 


(中編につづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ