表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/36

■第8話「一人、書けない」──後編 ──副題:見えなくても、届く

【数日後/書道部・放課後】


 


「うおっ……部長が、筆を動かしてる!」


 


紅葉が目を丸くして叫ぶ。

琴音は静かに筆を走らせ、白い半紙に言葉をのせていた。


 


「テーマは……“光”?」


 


つばさがそっと口にする。


 


「……光は、見える人のためだけにあるものじゃありません。

 “あそこにある”と分かるだけで、心があたたかくなることもある」


 


琴音の言葉に、3人は静かに頷く。


 


「私も書こうかな。“あそこの弁当屋の明かりがついてる安心感”っていうテーマで」


 


「紅葉さん、それは“食いしん坊の安心”です……」


 


「でも、なんか分かるかも……光って、心にもある気がします」


 


沙耶がふっと微笑む。


 


 


──その日、琴音は一枚の詩をしたためた。

それは、“誰か”への返事のような、静かな答えだった。


 


 私が書けなくなっても

 あなたが言葉をくれる

 私の沈黙に

 そっと墨を置いてくれた人へ

 “ここにいる”という言葉を

 受け取りました

 ありがとう

 だから、今

 書きはじめます


 


この詩は、どこにも飾られない。

けれど、それを読んだ沙耶の瞳に、そっと涙が浮かんでいた。


 


「……もしかして」


 


「いいえ。これは、誰にも見せないつもりでした。

 でも、“誰か”が見てくれるかもしれないと、思ってしまったんです」


 


琴音は、沙耶にだけ聞こえる声でそう言った。


 


「……ありがとうございます。わたし、あのとき、書けてよかったです」


 


「私も。あの詩がなかったら、書道部を“部”として守ることだけに、必死なままだった」


 


「“誰かのために書くこと”と、“誰かの目のために書くこと”は、違うんですね」


 


「……はい。だから、私はこれからも書きます。

 “読まれる”より先に、“思う”ことから始めます」


 


 


【夜/帰り道・校門前】


 


秋の風が少しだけ冷たく、けれど心はどこか温かかった。

言葉が届いたとき、人は筆を持つ理由を思い出す。


 


4人のこじらせ女子たちの“書道”は、またひとつ深くなった。


 


(第8話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ