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■第6話「文化祭と4人の合作」──後編 ──副題:ことばの橋、わたしたちの線

【文化祭当日・午前9時/展示教室】


 


「よし……パネル、よし。間隔、よし……!」


 


「紅葉さん、その“よし”は口癖ですか? それとも祈りですか?」


 


「両方かな!!!」


 


書道部の展示教室は、普段は理科室。

消毒液の匂いと白壁の中に、書道部4人の合作《ことばの橋》が――正面中央にでーんと展示されている。


 


来場者が最初に目にする、文字たち。


 


沙耶「結」──あたたかく、心をむすぶ線

紅葉「跳」──勢いとリズムで空気を跳ね上げる線

つばさ「進」──重さと確信をこめた、前へと導く線

琴音「響」──静けさの中に広がりを持たせた、余韻の線


 


「……うん。バランバランなのに、変にまとまってるのが、私たちっぽい」


 


紅葉が手を腰に当ててにやっと笑う。


 


「私たちの合作、ですね」


 


琴音がぽつりと呟いた。


 


「ねえ、来場者の人、何て書くかな?」


 


「“書道部、意外と良かったです”とか、“紅葉さんの字だけ爆発してる”とか?」


 


「どっちも事実だから否定できないのが悔しい!」


 


 


──そして午前10時。文化祭開場。

一般客や生徒、保護者がぞろぞろと書道部展示に足を運んでくる。


 


「え、あれ全部、同じ学年の子が書いてるの!?」


 


「なんか、4人の性格出てていいよね……わたし、跳の字、好きかも」


 


「私、“響”って字、こんなに綺麗に書ける人いるんだ……」


 


 


展示前では、4人が交代で説明係に立つ。


 


「こちらの作品は、“ひとりひとりの字”を“つなげて”一つの言葉にした合作です」


 


沙耶が少し緊張気味に説明すると、客の一人が言った。


 


「これ、ほんとに高校生が書いたんですか? “プロの作家さんみたい”」


 


沙耶がきょとんとして、それからふわっと笑った。


 


「いえ、ただの“こじらせた4人の女子高生”です。でも、がんばりました」


 


 


──そんな中、思わぬことが起こる。


 


「え、取材!? ほんとに!?」


 


紅葉が絶叫する。

校内放送部のミニドキュメンタリー企画が、「書道部の合作」特集として紹介したいと名乗り出たのだ。


 


「いやちょっと待って無理ムリ私そういうの無理目立ちたくない」


 


「自分から“目立つ字書くぞ〜!”って吠えてた人が何を……」


 


「まって琴音さんその静かなるツッコミがいちばん刺さる!」


 


「でも、いいチャンスです。字だけじゃなく、私たちの“声”も、誰かに届くかもしれません」


 


琴音のその言葉に、つばさが小さくうなずいた。


 


「……じゃあ、私たちで“ことばの橋”をもっと広げよう」


 


「言ったな部長!?」


 


「ひえええええ……でも、なんか……ちょっとだけ、楽しみかも」


 


 


──そして午後3時、文化祭も終盤。


 


4人は展示教室の隅で、それぞれの感想ノートを読みながら座り込んでいた。


 


「“字を見て、ちょっと泣きそうになった”……って書いてる人、いましたよ」


 


「それ、沙耶ちゃんの“結”のせいだろうな……」


 


「“どの字も違うけど、それがすごくよかった”……これ、合作やってよかったって思える言葉だね」


 


「……部長、目がうるんでる」


 


「ちがうよ! これは疲労と達成感の相乗効果で……!」


 


「はいはい、はいティッシュ〜」


 


沙耶がティッシュを差し出し、4人は目を合わせて、くすくす笑った。


 


 


──教室の外に日が傾く。


 


文化祭という“舞台”で、ひとつの線をつなげた4人のこじらせ女子たち。

それは、きっと彼女たちの心の中にも、小さな“橋”をかけたに違いない。


 


(第6話・完)

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