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■第6話「文化祭と4人の合作」──中編 ──副題:ぶつかる線と、つながる想い  

【9月中旬・放課後/部室】


 


「よし、じゃあ……今日から本格的に“合作制作”始めましょう!」


 


琴音の合図で、4人の女子たちは一斉に半紙の山に向き合う。


 


テーマは《ことばの橋》。

それぞれが自分の“一文字”を持ち寄り、それを横一列に並べて「一つの作品」にする。


 


構成は、こうだ。


 


1番目:沙耶(やわらかく、心に寄り添う線)

2番目:紅葉(勢い重視・爆発系)

3番目:つばさ(バランスと品格)

4番目:琴音(全体を“締める”静かな芯)


 


「まずは全員、“自分の一文字”を完成させてください。全紙で、本番と同じサイズでお願いします」


 


「ええい、やってやるぜ!!」


 


「……気合い入ってますね」


 


「いやもうプレッシャーよ。だって私、前が沙耶ちゃんで、後ろがつばささんだよ!? 文字の波に飲まれる未来しかないんだけど!」


 


「飲ませません。そこを“紅葉らしさ”でぶち抜いてください」


 


琴音はメガネをくいっと押し上げた。


 


「たしかに、こういう合作って、“前の字”に引っ張られるよね」


 


「わかる。バランス取りに行っちゃって、“自分らしさ”がなくなっちゃう感じ」


 


「でも、それを超えたところに、ほんとの“つながり”が生まれる……と思います」


 


琴音のことばに、みんなの背筋がピンと伸びる。


 


──そして沈黙の“書”タイム。


 


(沙耶)


(……一文字で、伝える。あったかくて、でも甘すぎない、“声にならない声”)


筆の先に、そっと想いを込めて。


 


(紅葉)


(前が沙耶ちゃん、後ろがつばささん。なら私は……“火花”を散らす字にする!)


墨を大きく吸い上げ、勢いよく筆を振る。


 


(つばさ)


(二人の間をつなぎ、まとめて、“前に進む”流れをつくる字に……!)


呼吸を整え、筆の先に重さを乗せていく。


 


(琴音)


(最後に控える私の一文字で、すべてが決まる)


(でも、私はもう“整える”だけじゃない。“ここにいる”っていう線を、ちゃんと残したい)


静かに、けれど強い意志で、紙と向き合う。


 


 


──数時間後。


 


部室の畳に、四枚の半紙が並んだ。


 


「……おおっ、なんか、ちゃんと“つながって”見える!」


 


「紅葉の字、前より大胆になってない?」


 


「へっへっへ。昨日、墨ぶちまけて開き直ったら筆が止まらなくなりまして!」


 


「それ、開き直りっていうか事故じゃない?」


 


「でも、すごく“らしい”字でしたよ。私、あの字の横で書けて、ちょっと嬉しいです」


 


沙耶の言葉に、紅葉が少し照れた顔で笑う。


 


「つばささんの字も、前より“優しさ”がにじんでるというか……」


 


「えっ、それ……褒めてる? “前は怖かった”ってこと?」


 


「そうは言ってません!」


 


琴音は、全体の配置を見直しながら、ゆっくり頷いた。


 


「……これで、いけると思います。本番、この4枚でいきましょう」


 


「……これが、うちの“文化祭作品”かぁ……」


 


「まだ始まったばかりだけど、なんか……ちょっと泣きそうかも」


 


「早い! まだ展示してないよ!」


 


 


──だがそのとき。


 


「……ひとつだけ、問題があります」


 


琴音が、声を潜めて言った。


 


「この4枚、“紙の高さ”がそれぞれ微妙にズレているんです」


 


「えっ、ちょ、やだよ!? 私のだけ斜めとか超やだよ!? 恥ずかしいよ!?」


 


「“字の並びは揃った”のに、“紙の位置でバラけて見える”っていう、最悪の罠です」


 


「えっ、それ、どうするんですか……?」


 


「明日、4人で“再提出版”を一斉に書き直します」


 


「出たー!! 合作名物“全員リテイク地獄”!!」


 


「つながるって、しんどいですね……」


 


 


──合作は形になりかけている。

けれど「ひとつに揃える」には、あともう少しだけ、壁がある。


それでも彼女たちは、進み続ける。


 


(後編につづく)

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