■第6話「文化祭と4人の合作」──前編 ──副題:言葉をつなぐ、心をつなぐ
【9月上旬/放課後・書道部室】
「さて……ついにこの時期が来ました!」
つばさが白板に書いた大きな文字を、紅葉が読み上げる。
「“文化祭準備会議”!!」
「はい拍手~~!! ……して!!」
(パチパチパチ……)
沙耶が控えめに拍手し、琴音もスッと一礼だけで済ませる。
「というわけで、今年の書道部展示、どうするか決めましょう!」
「去年は先輩たちの“個人作品展”だったんですよね?」
「そう。でも今年は部員も増えたし、なにか“ひとつの大きな作品”をみんなでつくるってのも、ありかなって」
「……合作、ですか?」
琴音の表情がぴくりと動く。
「うん。バラバラな字、バラバラな人間。でも“つながる作品”って、なんかいいなって思って」
「でも合作って、むずかしくないですか?
線の強さも、字のクセも、ぜんぜん違うのに……」
沙耶が不安げに言うと、紅葉が即座に乗っかる。
「しかも私、合作でテンション上がるとだいたい暴走するよ?」
「うん、だから今回は“指揮担当”を決めようと思ってて」
つばさが言った。
「今回は、琴音さんに“構成リーダー”をお願いしたいなって」
「……えっ?」
【少し前の話】
つばさと琴音が部室に残っていたある日。
「琴音さん、最近ちょっと迷ってるでしょ?」
「……どうして、そう思ったんですか?」
「字に出てる。綺麗すぎる線の裏に、“止まってる”部分がある。私、あれにすごく共感した」
「……」
「でも、それでも“誰かの字を支える側”に回るって、ちょっとかっこいいと思わない?」
【現在】
「で、でも私、そういうの慣れてなくて……」
「だからお願いしたいの」
沙耶が前のめりに言う。
「琴音さんが全体を見てくれるなら、私、のびのび書けそうな気がするんです」
紅葉も続く。
「そうそう! 私、暴れ馬タイプだからさ、ちゃんと“手綱”握ってくれる人がいる方が絶対いいと思う!」
「それ褒めてるの?」
「全力で褒めてる!」
琴音はしばらく黙っていたが、やがて小さくうなずいた。
「……わかりました。じゃあ、やってみます。“つなぐ”っていう書道、私にも、必要かもしれないから」
【週末/構成ミーティング】
「というわけで、まず“テーマ”を決めましょう」
琴音がノートを開くと、3人がわらわらと集まる。
「“青春”?」「“日常と爆発”?」「“午前0時の書道部”とか?」
「急にポエムきた」
「でも、それちょっと好き……」
(ばらばらだ。でも、いい。)
琴音は、笑っている自分に気づいていた。
──それから数日。テーマは「ことばの橋」に決定。
4人それぞれの“言葉”を一文字に凝縮し、横に並べていく合作形式が採用された。
「最初と最後の一文字は、誰がやる?」
「私、はしっこのがいいかも……」
「私は真ん中で暴れたい!」
「私……字が揺れるから、二番目くらいがいいです」
「じゃあ、私は最後で“しめる字”を書きます」
構成が、ゆっくりと形になっていく。
バラバラな個性を、琴音が丁寧に繋げていく。
そして。
「……文化祭、楽しみですね」
沙耶のつぶやきに、誰もが同時に頷いた。
(中編につづく)