■第5話「書道合宿と夜の本音会」──中編 ──副題:こじらせ女子、本音を語る
【午後8時半/布団部屋・四人輪になって座る】
「では、次のカード引きまーす!」
「部長、テンション高すぎません?」
「“夜のテンション”です!」
つばさの号令のもと、次々と引かれていく“本音トークカード”。
■《最近一番ドキドキした瞬間は?》
紅葉「最近、通学路でよく会う男子に“あ、今日も元気だね”って言われて、やたらテンション上がった。
……ていうか、彼、どこ見て“元気”って判断してんの?」
■《最近ちょっと落ち込んだことは?》
琴音「課題で提出した作品に、“お行儀が良すぎて感情が見えない”って言われました。
……正しいだけじゃ、だめなんですね」
■《実はちょっと妬ましい部員は?》
沙耶「えっ、そ、そんなの……! 言っていいんですか……?」
紅葉「言おう!!」
沙耶「……こ、琴音さんの“集中力”……です。私、すぐ雑念が……」
琴音「雑念を経て育つ“線”も、ありますよ。私も沙耶さんの“揺れ”には、いつも感心してます」
■《部活で一番救われた瞬間は?》
つばさ「それは……やっぱり、みんなが“入部してくれたとき”かな。
書道部って、もともと幽霊部みたいな存在で……存続すら怪しかったから」
「……それは初耳ですね」
「そうそう。最初は私ひとりで書いてたんだよ? “部活”というより“自習室”だったもん」
「……その時のつばささん、想像できません」
「まさかこんな賑やかになるとは、って思ってるでしょ?」
「思ってます」
「ですよね〜!」
全員が笑う。その笑いは、少しずつ夜の静けさを温かく満たしていく。
──しばらくして。
【午後9時半/談笑からちょっと沈黙へ】
紅葉がふと、枕に顎を乗せながらぽつりと言った。
「ねえ、みんなはさ……“将来も書道続けたい”って思ってる?」
その一言に、空気が少し変わる。
「私は……うーん、“好き”だけじゃ食べていけないって思っちゃってるかも」
つばさが珍しく言い淀む。
「私もまだ、そこまでは考えてません。でも……“今”は書いていたいです」
琴音の声は、相変わらず穏やかだった。
「私は……」沙耶が言いかけて、言葉を止めた。
「……最近、“書くことで誰かに届く”って知って……それが、すごく嬉しくて。
だから、将来のことはまだ決められないけど……“書をやめたくないな”って、思ってます」
その言葉に、つばさがうなずいた。
「……いい言葉だね。それ、“今の私”にも、ちょっと沁みたよ」
「つばささん……?」
「私、たぶん“部長”ってポジションにこだわりすぎてたのかも。
『ちゃんとしなきゃ』『勝たなきゃ』『みんなを引っ張らなきゃ』って」
「でも……この合宿で、なんかふっと抜けた気がする。
“みんなと一緒に書いてるだけで、もういいじゃん”って」
「部長、泣いてる?」
「泣いてないよ! ほこりが目に入っただけ!!」
「昭和のお父さんか」
「いや、でも、たぶん……ちょっと泣いてる」
沙耶が、そっとタオルを差し出した。
「ありがとう……あ〜〜なんか、スッキリしたぁ……!」
そして、そのまま4人は布団にもぐる。
紅葉「ところでさ、この合宿、もう一泊してもよくない?」
琴音「申請通ってません」
つばさ「寝ろ」
沙耶「ふふっ……おやすみなさい」
──雨音も、風の音もない夜。
けれど、静かに、心の奥で何かがつながった。そんな夜だった。
(後編につづく)