■第5話「書道合宿と夜の本音会」──前編 ──副題:墨と布団と、知らなかった顔
【夏休み・とある古民家合宿所】
※書道部“初”の一泊二日合宿
「着いたァァァァァ!!」
紅葉が全力で叫ぶ。
蝉時雨が轟く中、築60年の古民家が、4人を迎えた。
「……風情ありますね。いかにも“合宿やってください”って顔してる」
「布団の上に墨を飛ばす未来が見えたんだけど……大丈夫かな?」
「ぜったい誰か一回くらいやらかすよね、それ。だれとは言わんが!」
「紅葉さん、あなた以外にいません」
琴音が即答する。
「でも、こういう“部活イベント”って、青春って感じでちょっとドキドキしますよね」
沙耶はリュックを抱きしめながら、玄関のたたきに立っていた。
「ではさっそくですが──合宿スケジュール、発表します!」
部長・つばさがポケットからメモを取り出し、ぴしっと読み上げた。
【一泊二日 書道部合宿スケジュール】
・午後1時 現地到着、荷物整理
・午後2時 “自然と向き合う書”セッション
・午後4時 個人制作タイム(野外も可)
・午後6時 夕食&温泉(近くの銭湯)
・午後8時 “夜の本音会” in 布団部屋
・午後10時 就寝(予定)
「本音会って何!?」
「“青春イベントで最も女子がこじらせやすいタイム”です!」
「説明がざっくりすぎるんだが!?」
「ま、まあ夜になればわかるわけですね……(ごくり)」
──その後。
【午後2時・縁側の書道会場】
「ふふふ、見よ! この自然光! この湿度! この畳!」
「たしかに、字を書くには最高の環境かも……」
「でも風が強すぎて半紙が飛ぶ! 自然、手ごわい!」
全員が畳に正座して、それぞれのテーマで筆を動かす。
琴音は、古典臨書を無心に。
紅葉は「風林火山」をカオスに描き(3枚目でようやくまとまる)。
沙耶は、ふと窓の外を見て、小さくつぶやいた。
「“ただそこにある夏”って、いいな……」
「今の、それ書いてみたら?」
つばさが言った。
沙耶は照れながらもうなずいて、筆を取る。
──そして一時間後。
全員の紙が、畳の上に並んだ。
それぞれの字から、その人の“らしさ”がにじみ出ている。
「いいねぇ……これ、文化祭に展示したい」
「やば、今ちょっと“部活動っていいな”って思った」
「あなた、今までなかったんですか?」
「部室ではしゃいでる自分しか見たことなかったからね!」
「……私たち、ちゃんと部になってきたのかも」
沙耶がそっとつぶやく。
そして──
【午後8時・布団部屋】
「さあ、来ました夜の本音会!」
「き、来てしまった……!」
「全員、パジャマに着替えて輪になって! 寝る前に語っておくべきあれこれを吐き出しましょう!」
「“語らせる圧”がすごい……!」
「まずは、質問カードを引いていきます!」
つばさが取り出したのは、自作の「本音トークカード」50枚。
紅葉が引く。
「《最近一番ドキドキした瞬間は?》……うおっ! これは……!」
「お、恋バナ来るか!?」
「来ないかもしれない!! でも来るかもしれない!!」
沙耶の目が泳ぎ、琴音は口元を押さえる。
──本音会、始まる。
(中編へつづく)