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17輪①

 泣きたかった。なのに、泣けなかった。

 自分にとって大切な世界が頭ごなしに否定された時、私は心の底から泣きたかった。

 アニメなんて、アニソンなんて――私の好きな世界がそうやって冷徹に突き放された時、私はただ背を向けることしかできなかった。

 あの時の私には、確かに欲しい何かがあった。目標があった。夢があった。夢を叶えるには、目標の達成を重ねなければならない。目標を達成するには、いつでも必要な何かがある。

 小学生だった私がそれを知り、憧れたあの大切な世界で、そこに住まう人たちは必死に何かを追い求め、何かをやり遂げ、何かを叶える。夢と希望に溢れたその世界は、私の幼心をいとも容易く魅了していった。

 それからというもの、私は数多くの世界を目の当たりにしてきた。時には救いがなかった世界について密かに引き摺りつつも、そうであろうと光を見失わないように足を進める人物にはどんな時も心打たれた。私はいつしか、そんな幾多の輝ける世界をもっとたくさんの人に知らしめたいと夢に見るようになった。

 なのに、夢の前段階として聳え立つ目標を達成するためには、ずっと足りないモノがある。それは何かと言えば、私のやりたいことをやるための居場所だ。

「自分の居場所を大切にね、はる」

 中学までの幼馴染と違う進路を選んだ日、そんな励ましを私は受けた。彼女は私にとって、何でも話し合える数少ない相手であり、居場所を共にし続けた唯一と言って良い親友だ。

 それにしても……「居場所」か。

 私だって、取り留めもなく私の好きな世界の話をできる親しい人がもっといたらと願わなくもなかった。もちろん彼女が私の近くにいてくれて確かな居場所があったのも、それが私にとってこの上なく嬉しかったのも事実だ。けれど、私がやりたくてやってきたのは合唱。もっと広い居場所に、大きなステージがなくては始まらない。彼女だけでなくもっとたくさんの人が同じ夢を見てほしい、それに心を震わせてほしいと私は願ってきた。加えて、例え彼女と離れざるを得なくなったとしても――いや、寧ろそうならなければいけない時がいつか来る可能性に怯えたから、私は私の好きな世界を一緒に好きになってくれて、一緒に伝えようとしてくれる仲間を必要としていた。

 そしてその幼馴染は実際に、私の側にはもういない。経緯こそ予期しなかった形ではあれ、私自身が既に覚悟していたことだった。あの日覚悟した通り、中学を卒業してから離れた場所に移り住み心機一転、そこにある高校で私は私の居場所を追い求めた。

 それでもまた私は失敗した。彼女から渡されたプレゼントである、この髪飾りに込められた想いに、私は応えられなくなった。

 全ては私が、私の世界が最初に拒絶されてから歯車が狂い出した。なのに今更何を話せば良いのだろう。

 いや、そもそも何か話したとして、私やここにいる他の四人が何か変わるのか?


 小学校に上がる前から私の幼馴染でもある、親友の佳奈。彼女はいつだって私を受け止めてくれた。

「すみません、お待たせしてしまって」

「お待たされー。これ、読み終わっちゃったよ」

「二十二周目……でしたっけ」

「二十四、ね。戦いの悲惨と虚しさに実感がこもってるからやめられないよ、『終わりなき戦い』」

「私はしばらく読みたくないです……魅力的ではありましたけど」

「やっぱり戦車道みたいなのがいいの?」

「かなさん、もしかして見てくれたんですか」

「まだテレビのやつだけだけどね、はるが好き好き言うもんだから。自分のいる場所を守る戦いも、なかなかカッコよかったじゃん?」

「いいえ!」

「うおっ、何!?」

「テレビシリーズは――確かにそれもあるかもしれませんが、あれは堅苦しいだけの格式に立ち向かう物語です!」

「はははっ、そっかそっか。じゃあ、映画の前にもう一周見てみよっかなー」

「よくぞ言ってくれました! 明日でテストも終わりですし、絶好のチャンスですよ!」

 自分の好きな物事で譲るつもりなんてない。

 だから私の好きな物に幼馴染が違う見方をしていたら、いつだって私の見方を伝えてきた。

 一方で私をよく知る幼馴染だからこそ、時に彼女は私の頭の中に焼き付くような言葉を口にするのも事実。

 居場所のための戦い……確かにあの世界には、完全に居場所のための戦いを主として描いた未来がある。流石鋭い目をもつ幼馴染だからこそ、既に先の展開を予期していたのかもしれない。

 ただ、放課後の教室を出て、取り留めのない会話を交わしながら廊下を歩く私の頭から、その言葉が全く離れなかった原因は別にあった。

「そういえば、どうして遅くなっちゃったの? ちょっと職員室行ってただけなのに」

「それは――」

「はる?」

「――途中であの人たちとすれ違って、自由曲の件で」

「また何か言われたってことか」

「ええ」

「そっか……それも、テスト明けの部活でちゃんと伝えなきゃだ」

「……」

「気になることでもあるの?」

「いえ」

 これぞまさに、私自身の居場所のための、そして古びた固定観念に対抗する『終わりなき戦い』とでも言うべきか。同じ合唱部の同級生メンバーと対立している私にとって、この幼馴染は大きな救いと言える存在でもあった。

 ――そんな彼女の話をするか? 今、ここで?

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