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15輪②

「ねえ、そういえばNコンがどうとかって」

 発表会の件が一段落したのを受け、再び葉月は話を切り出した。

「ひょっとして、参加するの?」

「そのつもりです」

「頑張るわね。私も生徒会の身として、することはしなくちゃってところかしら」

「よろしくお願いするです」

 力強く告げる心春とは対称的に、葉月はふと思い出したように呟く。

「――規則とか手続きのほうは大丈夫かしらねえ」

「Nコンの応募要項はしっかり確認しているので、心配は無用だと思うです」

「ううん、そうじゃないの。こっちの話で……」

「どういうことですか?」

 眉間に皺を寄せ、少し不服そうに尋ねる。

「参加申込書に、『学校長署名』ってあるでしょう。ああいうの、同好会には許可が下りにくくて」

 その言葉に眉を吊り上げる心春。

「そんなことがあるんですか? 流石に納得いかないです。校則に書いてあるとかなら話は別ですが」

「念のため後で確認してみるけど、多分記載はないと思うわ。でも、いわゆる不文律なのかしらね……。同好会は大会とかには参加しないで、まず地道な活動を内外にアピールするところから始めてほしいみたい」

「それはまた、誰がそんなことを?」

「先生方はもちろん、私より前の代の生徒会の先輩方も言っていた話なの」

 説明を終え、申し訳なさそうに目を伏せる葉月。一方の同好会メンバーは、困惑の色が表情にはっきりと表れていた。昨年同好会を立ち上げようとしていた菫や紗耶香も初耳であったことが窺える。

「活動をアピールするなら、尚更私たちはコンクールに参加するのが一番なのに」

 落ち着いていられない様子の心春が急ぎ足で第二音楽室を出ていこうとする。しかし、若菜がその手を引き、足を止めさせた。

「園内さん!? どこに行こうとして――」

「決まってるじゃないですか。校長室ですよ」

「いきなり行ったって何にもならないだろ……」

「行かないほうが何にもなりませんよ」

 若菜と心春が言い争いかねない雰囲気になり、右往左往する和音を他所に、菫がゆっくりと二人に近づく。

「こはるちゃん、流石の行動力ねえ。ふふっ、すごいわあ……!」

 睨み合う二人に抱き付き、張り詰めた空気を打ち壊した。

「ぎゃっ!? だから抱き付くなって言ってるです! 先輩はそうやって何度も何度も……!」

「せ、先輩……私まで……」

 突然の出来事に驚いたことに加え、自分が巻き込まれた理由に見当がつかない若菜。

「わかなちゃんも、そうやって落ち着いて物事を考えられるんだもの、すごいことだわ」

「はあ……」

 いつものことだと言わんばかりに紗耶香はため息をつき、事態への関与を諦めた。一方で、葉月は目の前の光景に笑顔を浮かべたまま、また思い出したように呟くのだった。

「そうだわ。部門参加はできなくても、もしかするとフリーなら……」

「本当ですか!? 背に腹は代えられません、この際フリー参加でもいいです!」

 一向に解放される気配がなく、やけになった心春はそう叫ぶ。

「分かったわ。申込書の準備ができたら私も一緒にかけ合ってみるから」

 今日も練習頑張って、と付け足し、もみくちゃになっている三人を意に介さないまま、葉月は第二音楽室を後にした。

「……葉月先輩も、全くああいうところは……」

「一ノ瀬先輩! それより三人をどうにかしないと……!」

 後ろ姿を見送ってぼやく紗耶香に、和音はあたふたしながら協力を仰ぐ。

 結局、時間を浪費していつもの半分ほどしか練習できなかったが、ただ一人、菫だけは満足気に微笑むのだった。


 翌日の放課後。メンバーが集まり練習を始めようとしたところ、昨日と同じように心春が呼び止めた。

「皆さん。ちょっとお話が」

「園内さん、どうしたの?」

 昨日の分まで頑張ろうと意気込んでいたところに水を差された和音は、語気に若干の不満を含ませて尋ねた。

「発表会のことなんですが、早速曲を決めてきたのでぜひ聞いてもらおうと」

「……随分と早いのね」

 昨日の今日で割り切れない様子だが、紗耶香はひとまず否定的な言葉を飲み込んだ。そして四人は揃って心春に注目する。

「橋留さんはもう知っている曲かと思いますが」

 スマートフォンで音楽を再生する心春。和音はその言葉をすぐには理解できずにいたが、曲が進むにつれて表情を緩めた。

「これって、昨日歌ってた――」

「そうです。『piece of youth』という曲です」

 歌詞とメロディのあたたかさに、うっとりとする和音。若菜と菫も素敵な曲だと呟いていた。

 ただ一人、どこか煮え切らない表情の紗耶香。思いついたようにスマートフォンを取り出し、操作を始めたのも束の間。何かを理解した顔つきで心春をじっと見据えた。

「……そういうことだったのね。こんな素敵な曲をどこで知るのかって、気になって調べてみたら」

 紗耶香は心春を除く三人にスマートフォンの画面を見せる。

「カテゴリ『アニメ』……アニメの曲なの!?」

 驚いて声を上げた和音に、心春は血の気が引いたような表情を見せた。しかしすぐに居直り、強い口調で返す。

「何ですか。だからどうしたって言うんです?」

「いや、その……でもすっごく意外で……」

「前の発表の時だって――」

 そう言いかけ、ハッとする心春。それを見逃さなかった紗耶香は再びスマートフォンを操作する。

「……なるほど、『風の声を聴きながら』もそうだったのね」

 紗耶香もまた語気を強めるが、依然として心春は引き下がらない。

「アニソンってことがそんなに問題ですか? 皆さんだって素敵な曲だと感じてくれたんじゃないですか?」

「……それとこれとは話が別。第一、あの曲もこの曲もどうして合唱曲版が……」

「私が編曲したんです、それで十分でしょう」

「……なら尚のこと、合唱曲として適切とは言えないわ」

「原曲がポピュラー音楽の合唱曲だって、今はたくさんあるじゃないですか――」

「――ストップ、ストップ!」

 二人の言い合いを収めようと、割って入る若菜。

「何ですか、中篠さん」

「一ノ瀬先輩も和音も疑問に思ってるじゃんか」

「だから私は、その疑問自体がおかしいと――」

「それに、何もそこまでアニソンに拘らなくてもいいんじゃないか?」

 その一言が逆鱗に触れたのか、心春は目の色を変えた。

「――そうですか」

「そ、園内さん……?」

「みんな、そうやって私の好きなものを否定するっ……!」

 心春は突然そう叫び、第二音楽室を飛び出していく。同好会の面々は呆気にとられ、その背中をただ見つめることしかできなかった。

ただ一人、若菜を除いて。

 心春に続き、走って出ていった若菜はしばらくすると第二音楽室へと戻ってきた。その隣に人影はない。

「若菜ちゃん! 園内さんは――」

「――その、しばらく一人にしてくれって」

「きっと、きっと戻ってくるよね……?」

 誰にともなく零した和音の問い掛けは、誰の答えも得られないまま宙に消えた。

 心春がその日、第二音楽室に帰ってくることはなかった。


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