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13輪①

 るいが伴奏を承諾した翌日の夜、メッセージアプリ『Kreis』の同好会のグループにメッセージが送信された。送信者はるい。

『発表会について詳しいことを聞いていないので、どなたか教えて頂けますか?』

 これに心春が返す。

『発表会は、来月の1日の午後からの予定です。曲は"風の声を聴きながら"と、"そのひとがうたうとき"です』

『2曲なら、数日あれば皆さんと合わせられるレベルにはなると思います。ところで、音取りとかは大丈夫なんですよね? 合唱のことはよくわからないので、練習の方は期待をされても困るので』

『それは問題ないです』

『なら良かったです。それでは、全体練習をすることになったら声をかけてください』

『わかりました。よろしくお願いするです』

 全員の既読表示がつく中で二人のやり取りは続いた。

『あれ? るい、毎日練習に来る訳じゃないのか?』

 若菜が沈黙を破り、るいに問いかけた。

『ええ。そうした場合、あなたたちが練習している間、私はただ突っ立ってるだけになるもの』

『そっか、確かにそうだな……』

『そういう訳なので、皆さん改めてよろしくお願いします』

 それぞれが改めて歓迎の意思を示して眠りに就く。


 放課後。和音が第二音楽室に入ると、少しそわそわした様子の菫と、いつも通り冷静な紗耶香の姿があった。

「先輩方、早いですね」

「そうね。今日はホームルームが少し短かったからかしら」

「……それもあるけど、すみれ、いつもより歩くのが速かった」

「あら、そうだった?」

「……ええ」

 そんな二人のやり取りの少し後に心春が、また少し後に若菜がやって来た。

「皆さん揃ったですね。それでは練習を――」

「ちょっと待って!」

「何ですか?」

 眉を寄せる心春に菫は「ごめんね」と小声で言ってから話し始めた。

「この前言ってたバイトのことなんだけど、私の叔母さんがやってる喫茶店で一日だけバイトさせてもらえることになったの! 今度の日曜日にみんなで行かない?」

 菫がそわそわしていた理由に合点がいった和音は心の中で頷きつつも、接客する自分を想像して不安そうな表情を浮かべる。

「私は構わないです。言い出したのは私ですし」

「私も大丈夫です」

「……高校生ができるバイトなんて限られてるわよね」

「が、頑張ります……!」

「わかったわ。それじゃあ、後で『Kreis』で詳しい内容を送るわね」

 良い返事が得られて満足そうに微笑みながら、菫は話が終わった合図として心春に手を差し出した。心春は頷き、口を開く。

「それでは、改めて、練習を始めるです」


 迎えた日曜日。

 五人は駅で待ち合わせをし、バイトを行う店まで歩いて向かう。

「うぅ……緊張する……」

「気持ちはわかるけど、今から緊張してたらもたないぞ」

 緊張どころか楽しみにさえしている様子の若菜に菫が続く。

「大丈夫よ、かずねちゃん。みんな一緒なんだから」

「そうですね……!」

 そして、目的地に到着した一同は声を上げる。

「ここが働かせてもらうお店よ!」

「わあ……!」

「素敵ですね!」

 暖色系でまとめられた外観は周りの景色と合わさりながらも、それに埋もれない個性を放っている。

 アンティーク調の杉の扉を開けて店内に入ると、少し暗い色の壁と、それと対比させたような明るい色のテーブルが目に映る。全体的に落ち着いた雰囲気を出しながらも随所に遊び心を感じさせる、そんな内装に和音と若菜のみならず、心春までもが目を輝かせていた。

「菫ちゃん、待ってたわよ! 紗耶香ちゃんも久しぶりね!」

「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします!」

「……ご無沙汰しております。よろしくお願いします」

 カウンターの奥から現れた女性が菫や紗耶香と親しげに話すのを見て、彼女が菫の叔母であると三人は認識した。

 挨拶と自己紹介を済ませると制服に着替えて来るよう促され、菫の先導で更衣室へと向かう。

 手書きのネームプレートが付けられたロッカーの中から制服を手に取る五人。丈の長い漆黒のワンピースと、純白のエプロンとキャップに心春が声を漏らす。

「ヴィクトリアンメイド服……。良いセンスですね……」

 先に着替え終えた菫がタイミングを見計らい声をかける。

「みんな、サイズはどうかしら?」

「ぴったりです!」

 和音が返事をしながら周りを見ると、若菜と紗耶香もまた頷いていた。

「良かったあ。事前に身長とかを大まかに伝えて、いくつかあるサイズの中から準備してもらったの」

「私は大きいです」

 胸を撫で下ろす菫に、心春が語気を強めて告げた。スカートは床に触れる寸前で、袖は心春の腕を覆いつくし、指先さえ隠れてしまうという有り様である。

「ごめんね、それでも一番小さいサイズらしいの。でも可愛いから問題ないわあ!」

「やめるです!」

 抱き着こうとした菫の手を払いのけ、わなわなと肩を震わせる心春。

「いつもいつも先輩はそうやって私に抱き着くですが、私がその度にどう思っているかわかるですか? “小さい”“可愛い”って今まで何回言われたかわかるですか?」

「こはるちゃん……?」

 想定外の反応に少し怯えた様子で名前を呼ぶ菫。

「そ、園内さん! 今はそれくらいにして、また今度ゆっくり話さない? 宝条先輩だって悪気はなかったと思うし、あんまり遅くなると宝条先輩の叔母さんに心配も迷惑もかけちゃうだろうしさ……」

 心春を諭す若菜もまた腰が引けていた。

「……わかりました」

「ごめんね、こはるちゃん……」

 そして更衣室を後にする五人。灯りの消えた更衣室はひりついた空気が停滞しているようだった。

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