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11輪②

「……貴方が、会長の妹さん」

「はい、姉がいつもお世話になってます!」

「そんなことないわあ。私たちこそ、いつも葉月先輩にはお世話になってばっかりで――」

 予期しない訪問者――それも葉月の妹――に、紗耶香と菫は口数が増していた。

「ふふふ、外城さんのおかげで発表会の準備は一歩前進、というところですかね」

「そうなの?」

 弥生から聞かされた朗報に笑みがこぼれる心春。和音もその横で、園内さんがそう言うなら、と期待を膨らませている。


 朗報の正体を突き止めるべく、一同は弥生の先導で校内を歩いていた。そして、ぴたりと足を止めた場所は、1年C組――弥生と心春のクラス。弥生が勢いよく扉を開いた先で、机に頬杖をつき、物憂げに窓の外を眺める女生徒の姿を認めた。

 それが誰であるか理解すると同時に、弥生の企みにおおよその見当がついた若菜の表情が険しくなる。

「るい、お待たせー」

「弥生! あんたいつまで待たせ、れば――」

 振り向きながら返事をする女生徒――るい――の声と動きは途中でぴたりと止まった。ようやく来た友人がクラスメイトと見知らぬ生徒を何人も連れていて、彼女らに揃いも揃って注目されているのだから驚くのも無理はない。

「弥生、若菜……いったいどういうことかしら」

「るい――」

「槇岡さん。私から」

 若菜の声と被ろうがためらうことなく心春が口火を切った。

「な、何、園内さん」

「単刀直入にお願いするです。合唱同好会に力を貸してもらえないですか?」

「……」

「六月一日に発表会があって、そこでピアノ伴奏をしてほしいんです」

 目の前の彼女がピアノを弾ける。その事実に若菜を除く同好会全員が目を輝かせていた。

「わ、私、そういうのは」

「槇岡さん」

「ええと……」

 心春の圧に押され気味でたじろぐるい。そこに畳み掛けるように、柄にもなく本気で困っている素振りをする。

「どうしても、ダメですか?」

「うう、参ったわ」

 るいは観念して溜息を吐くと、やってしまったと言わんばかりの視線を若菜へと向ける。

 心春たちが口々に感謝の言葉を述べる中、若菜だけが無言のまま浮かない表情で立ち尽くしていた。


 その夜。風呂上がりに何気なくスマートフォンを手に取った若菜は、新着メッセージが届いていることに気付いた。チャットアプリ『Kreis』を開きメッセージを確認すると、送り主はるいだった。

『ごめん、若菜。やっぱり私には伴奏はできない』

 るいの事情を知りながら傍観することしかできなかった若菜は返事を入力することができず、そのままスマートフォンを伏せ、瞼を閉じた。暗澹としたものを胸に抱えながら。


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