10輪②
「私がおすすめする場所はここです」
そう言って心春が紹介したのは。駅を出て東に少し歩いた先のビルの中にある、服や小物を多く扱っている店だった。
到着するとすぐに若菜が驚きの声を上げた。
「ここって、割とよく見るお店だ! 私も来たことあるんだけど、園内さんのおすすめなんだなあ」
「そんなに有名なお店なんだ……」
「和音は知らなかったのか。チェーンだからそれなりに有名なんだよ」
「中篠さんも来たことがあるんですね。なら、案内は任せても大丈夫ですか? 私は案内があまり得意ではないですし、小物などにはあまり興味がなくて知らない物も多いので」
「そういうことなら任せてくれ。それと、和音の雑貨屋でのリアクションを考えると、ここは今日は見るのがメインになるかな」
「うっ、うん……」
図星を突かれて口ごもる和音。十代向けの品物を揃えた店ということもあり、少し見て回っただけでも目を惹かれているのが見透かされていた。
「あ、それとちょっと私はお手洗に行ってくるです」
心春はそう言い残すと、そそくさと店を出て行った。
それからしばらく店内を回っていても心春が戻ってくる様子はない。見るのがメインと言っていたものの、心春のことが気がかりで品物を見ても思うように頭に入らない二人。
「まさか、迷子……?」
「ははは、ま、まさか」
「そ、そうだよね。私でも小学生のときが最後だし……」
案内もそこそこに笑う若菜。二人は一度店を出てみることに。
するとすぐさま、向かいのスペースに何やら見覚えのある人影が――。
「ねえ若菜ちゃん、あれってもしかして……」
「で、でもあそこって」
その場所には、『アニマート』という看板が大きく掲げられている。最近ではアニメショップとして耳にする名前だが、和音はもちろん、若菜も入ったことがないと言う。
「ど、どうする? 若菜ちゃん」
「とりあえず、行ってみようか……」
覚悟を決めて中へ足を踏み入れてみると……。
「あっ、橋留さん、中篠さん」
人だかりの中で目を輝かせる心春が居た。
「ええと、お手洗いに行くと言ってここで現を抜かしてしまってすみません」
それだけ矢継ぎ早に口にし、バツが悪そうな表情でしばらく沈黙を続けていた心春が重い口を開いた。
「さ、次の場所に行きませんか、お二人とも」
「ううん! せっかくだし、案内して! 私、園内さんの趣味のこともっと知りたい!」
「え……」
「私も和音に賛成。園内さん、今日はそういう機会なんだから」
「――分かりました、では案内するです」
一度目を閉じ、腹を括ったかのように息を吐く心春。
なぜか趣味を隠そうとした様子が気になったこと。今まで知らなかったどころか、聞かせてすらもらえなかった趣味の話が表出したのが嬉しかったこと。それらが重なって思いのほか大きな声が出てしまい、小さくなろうとする和音。若菜の賛同もあり、二人は心春からアニマートの案内を受けることとなった。
「ここはアニマート、アニメ関連の物を扱うショップです。普段は外向きに多数の雑誌が並べられている……はずなんですが、どうやら今はいくつかの作品のグッズをメインにプッシュしているようです。主に扱われている作品は三つで、どれも数年前にアニメ化されて大人気になった物ですね。まず一つはとにかくキャラが可愛いと評判の日常系作品で、私も一クールのうちの四話と九話は、そのほのぼの具合で特に記憶に残っているです。もう一つの作品は感動的なストーリーが話題になった二クールのお仕事モノで、特に二十三話で主人公の一人が――」
「ええっと!? ちょっと待って園内さん!」
あまりにも喋るスピードが速く、慌てて若菜が待ったをかけた。和音もまた、聞いた内容の半分も入ってこず、頭と耳がいっぱいいっぱいといった様子。
「なんですか? お話したいことは山程あるですし、まだこの店の三分の一も見てないですよ」
「できればもう少しゆっくり案内してもらいたいんだけど……」
「仕方ないですね。でしたら、解説しながらまわって時々じっくり見る時間を入れたらいいですかね」
「じゃ、じゃあ私たちがストップしてほしいと思ったところでストップかけさせてくれ!」
これほどまでに心春が忙しなく喋る様子を目にするとは思いもよらず、これが今まで自分たちの知らなかった姿なんだと、何とも言えない驚きを隠せない二人だった。
気を抜くと聞き逃してしまいそうな勢いでアニメや漫画の話を繰り広げながらアニマートを案内し、それを必死になって追いかけるうちに空腹となった三人。
ファミリーレストランで昼食をとった後、ボウリングをしたり、楽譜のある楽器屋を見て回ったりと、あれこれするうちに流れるように時間は過ぎていった。
そして、最後に和音から一つリクエストがあった。
「ねえ若菜ちゃん、園内さん。実は、私も一つ行ってみたいところがあるんだ」
それは街を歩きまわりながら、隙を見て密かに調べていた場所。
「いいと思うです」
「うん。今日はそういう日だからな」
二つ返事で応えた二人を連れ、夕暮れの街を歩いて到着した場所は、県民会館。今は夕方ということもあり、しんと静まり返って落ち着いた空気であるが、ジャンルを問わず催し物が定期的に開かれ、そういった日は非常に賑わい、活気あふれる場所となる。
「へえ。でも和音、どうしてここに?」
「あのね、ここって合唱の大会とかでも使われるんだって。外から見ただけでも大きくて素敵な場所だけど、千人を軽く越える数の人たちが見に来れるホールまであるみたいで、いつかここで歌えるかもって思ったら来たくなっちゃった」
「なるほど、そういうことか」
「とてもいいセンスですね。私も気合を入れないとです」
「そうだな、私も合宿で合唱初心者としての一歩は踏み出せたし、ここが一つの目標になるんだと思うと気が引き締まるよ!」
「色々大変なこともあるかもしれないけど、みんなで頑張ろうね!」
二人のことをより知ることができたという意味でも、今まであまりなかった遠出の機会としても大切な思い出になった日。そんな日の最後に三人は思い思いの言葉を交わし、改めてこれからの活動に向けての決意を固くするのだった。




