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エピローグ

俺は人生負け組不登校高校生だ。

とは言っても、二ヶ月ほど前までは不登校ではなく

普通に高校に通い、数少ない友人と昨晩見た

アニメの話をし、高校が終わり次第すぐ家でゲームをするために帰路に着く。


そのような陰キャ高校生あるあるのような生活をしていたのだ。

決して充実してるとは言えないが、

まあまあ楽しく高校生活を過ごしていた。


そんな僕にも転機が訪れた。

誰もが一度は思い描く陰キャな自分が実は

学校のマドンナ的存在の子に好かれており、

一気にリア充人生が訪れるアレだ。

俺は学校一番の陽キャであり、マドンナ的存在である女の子から告白をされたのだ。


今考えてみれば嘘告白と丸わかりなのだが、

恋は盲目という物なのだろうか、それともアニメの見過ぎだったのだろうか、俺はそれを本気にしてしまい、告白をOKしてしまったのだ。


その当時は、「やっとモテ期がやってきたか」「俺自身顔は悪くないと思ってたんだよね〜」「お前らとは違うんだよ」と数少ない友人を小馬鹿にし、だんだんと疎遠になっていった。


当たり前だが、嘘告白をしてきた彼女が俺を好きであると言うような事実は全くなく、ただただATMとして使われていた。


彼女は「俺くんのために綺麗でありたいの」

「俺くんも彼女がブスになったら嫌でしょ?」「化粧品ってお金がかかるんだよ?」などと言い

浮かれていた俺をより沼に引きずり落とした。


そしてまんまと沼にハマった俺は、お金を毎週のように渡していた。それが男の甲斐性だと思っていた。

なんなら終盤は、彼女に嫌われないためにお金を渡していたんだと思う。


家に帰りゲームをするだけだった人生が

いつしか彼女のためにお金を稼ぐ人生へとなり、

バイトに明け暮れる毎日へと変化した。


もちろんお金を渡す頻度はどんどん増していき、

最初は一週間に一回だったのが、4日に一回

3かに一回、2日に一回とどんどんスパンは早くなっていき、バイト代だけではお金が足らなくなっていった。そして俺は母が働いて稼いでいたお金へと手を出した。


俺の家は母子家庭だ。父は早くに亡くなった。

父はトラックの運転手をしていた。かなりの激務だったと言えるだろう。朝は4時くらいに出ていくのは当たり前。帰ってこない日もあった。だから俺自身父の記憶があまりないのだ。そして父は死んだ。俺が4歳の時だった。交通事故だったらしい。3日連続の夜勤が重なり、眠気や疲労が限界だったのだろう。居眠り運転だったらしい。幸い、父以外の被害者はゼロだった。それから父のいない生活が始まった。


母は朝早くに出ていき、夜遅くに帰ってくる。

お金を取る機会は十分過ぎるほど何度もあった。

タンスの隅に服で隠すように置かれているお金を何度も手に取った。


今考えてみれば母はすぐに気がついていたのだろう。だが、俺自身そんなことを気にするような心の余裕はなかった。上り詰めたカーストの上から転落するのは嫌だ、などと思っていた覚えがある。実際は全く登ってなんかいなかったのに、登った気になっていただけだったのに。


一ヶ月ほどそのような生活が続いた時、母はとうとう口を開いた。「あんた、ほぼ毎日お金取って行ってるけど、何に使っているの?」

俺は口を噤んだ。なんて返したらいいかわからなかったのだ。その時は薄々勘付いていた。俺はATMとして使われていることに。彼女は全く俺のことなんて好いていないと言うことに。

口を閉ざしていると、母が「あんたいじめられてるの?」と言い出した。そのあと母が発した言葉はほとんど記憶に残っていない。


気がつけば数日経っていた。母は何度も部屋の前に立ち、「話をしよう」「なにか辛いことがあったんでしょ?」と話かけてくれていた。

だが一週間、二週間と経つうちに、声をかけてくれなくなった。その時は、彼女のことなんてどうでも良かった。それよりも、母にいじめられているなんておもわせてしまったのが本当に悔しくて悔しくて仕方がなかった。


それから数日して、精神的にも落ち着き、しっかり高校に行こう。と思えるくらいの精神状態になった。

彼女はもう相手をしてくれないだろうが、いつも話をしていた陰キャ仲間は話してくれるだろう。そう思い、高校へと足を運んだ。不思議と怖くなかった。怖くなかったというか、アニメの主人公の気分だった。

今までのアニメで培った経験がそうさせたのだ。

きっとだれかは認めてくれる、きっとだれかがわかってくれる、そのようなことを信じ切っていた。


大丈夫だと考えているうちに高校に着き、自分のクラスに入った。なぜかみんな俺を汚いものを見るかのように見てくるななどと思いながら、陰キャ仲間に話しかけた。だがだれも口を聞いてくれなかった。


感じの悪い奴らだなどと思い、席に着きホームルームが始まるまで突っ伏して寝たふりをしていた。俺についてのひそひそ話のようなものが聞こえるが、そんなの気にしてられるか。もう母を悲しませない。そう誓ったんだ、などと厨二病チックなアニメキャラが言うようなセリフを脳内で考えていた。


そうこうしているうちにホームルームが始まり、何事もなかったように終わった。様に思えた。俺は担任から呼ばれ、職員室の奥に通された。まあいじめがあったのかとかそう言う話だろうと思っていた。だが、そこには校長、教頭がおり、なぜか俺の母まで居た。

なんの話しかと思っていると担任が口を開いた。

「君、盗撮をしていたそうじゃないか」

俺は頭が真っ白になった。

どうやら俺の彼女がそのデマを流したらしい。


振られては居ないんだから彼女と呼んでもいいだろ?


流石に俺の担任はその1人の情報だけでは信じていなかったようだが、多くの彼女の周りからの証言などに騙され、俺が犯人となったそうだ。

さすがは陽キャ筆頭だ、交友関係が広い。


そして俺はまんまと犯人に仕立て上げられ、母を泣かすハメになった。もちろん反論はしたのだが、俺の言い分なんて受け入れて貰えるはずもなく、あっさり俺は盗撮犯となった。

そこからのことなんて俺は覚えていない。思い出したくもない。だが、心がポッキリ折れた音がしていたのは覚えている。


気がつけば、母と口を聞かなくなっていた。

最初は俺を貶めた奴らに仕返ししようと考えていたが

だんだんと仕返ししたいなんて考えなくなっていた。


本当に最初は考えていたんだよ?


そして全てが面倒臭くなり、また以前の生活の様にゲームにのめり込んでいった。

バイトもしていない。母が仕事に行った音を聞き、タンスからお金を盗み、近くのコンビニに課金用のカードを買いに行く様になっていた。

自分で言うのもなんだが、相当なクズに成り下がったもんだ。ここまでのことは今までしでかさなかったのに。




あれから何年経ったんだろうか。

毎日惰性に生きていた気がする。

どんなことしていたんだっけ?聞かれてもゲームしか答えられない。

まともに目標を持って生活していない。

俺は今何歳なんだ?それすら知らない。


今日も朝メシを食おうと思い、一階に降りた時珍しく母が居た。少し面倒くさいなと思いながらメシを食べようとイスに腰掛けると、母が口を開いた。


「あんななんか本当に産まなきゃ良かった。」


その言葉は俺の心に深く傷をつけ、口論となった。

そして俺は


「居ない方がいいよなぁ!出ていってやるよ!」


と啖呵を切り、家から飛び出した。



ああ思い出してきた。俺はあれから20年経ったんだ。


あの一件以来、コンビニ以外に家から出なくなったんだ。なんならもう15年はコンビニにも出てないな。

母のクレカを登録して、そこから課金してたんだっけ


家から出たら、なんか冷静になってきた。


普通に俺、やばくね??


とりあえずどうしようか考えよう

まずはお金を稼がないといけない、でも待てよ。

20年職歴無しで風呂も2日入ってない人間を雇うところがどこにあるんだ?


そもそも履歴書ってどうやって書くんだ?

今1円も持ち合わせてないし、ペンも買えないじゃん。住所もないんだけど。



詰んだ。まじで詰んだ。今気がついた。普通に人生終わった。戻りたい。「出て行ってやるよ!」

なんて言わなきゃ良かった。頑張るから家に居させてくださいって言えば良かった。



俺は考えるのをやめ、トボトボと歩き出した。



どのくらい歩いただろうか。

運動なんて20年近くしてないし、太りすぎて体が重い。足が痛く、鉛のように重い。

帰りたい。普通に帰りたい。てかここどこだよ。

気がつくと、あたりはかなり暗くなっていた。


「....んぁ?なんだ..?」


なんか、地面揺れてね?

そう考えたのも束の間。大きな地震が起きた。


「ちょ..普通の地震かこれ..?大丈夫なのか..?」


あまりの大きさに周りの家が大きく揺れているのがわかる。こんなの初めてなんだけど。


地震は止む気配は全くない。むしろ段々と強くなっていってる気がする。


屋根から瓦が落ちてきてるし、まじで危ない。

まだ死にたくない。


前方に人が見える。危なくて家から出てきたのだろうか。隣の外壁が崩れてきているのにパニックで気がついてないようだ。


「...ちょお、い..あぶねえ、ぞ..」

親以外の人に話しかけるなんて久しぶりすぎて全然声が出ない。


おれはその人に声をかけるので夢中で自分の隣の家が崩れかけているのに気がつけなかった。


なんで今までクズでやり通して来たのにこんな時だけ人の心配をしているのだろうか。


気がついた時にはもう遅かった。


以前の俺なら走り、回避できたであろう。だが今の俺は20年走ってすらいない35歳ニートのおっさんだ。

しかも結構な時間歩き、走る体力なんて残ってない。


「..うぁ..ちょ..あぅ..」

情けない声を出して、家が崩れてくるのを見ている。

死ぬのは確定だ。

崩れて来た瓦礫が俺の体に触れる瞬間、おれは今までのことを思い出した。

生まれた時から高校の時の話まで。

不思議と不登校になってからの話はほとんどなかった。あまりにも薄かったのだろう。

そりゃ思い出せないわけだ。


おれは倒れてくる瓦礫に潰された。


「ぐぅエ..かっハ..!」


肺が押し潰され内臓が破裂する様な感覚に襲われる。

  痛い。


圧迫され息ができない。



そして俺は息ができないまま、倒れてくる瓦礫に押し潰された。



どうせならエッチなことしとくべきだったなぁ..


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