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転生したら、オカンも転生していたのだが 前編

 神様は、人間ひとりひとりの区別なんてついていない。

 まるで人間が、雀の区別なんてついていないように。

 そしておそらく、その数すらも、神様は気にしていないのだ。



 気がつくと、俺は荒野に倒れていた。

 空は赤黒く、変に白っぽい岩の大地が見渡す限りに広がっている。目の前の景色、匂い、気温や湿度。何もかもがいつもと違う。



 ここは日本じゃないな…。



 目覚めて5秒で、俺はその事に気づいた。

 そして周りには死体、死体、死体だらけだ。何かファンタジーゲームに出てくる雑魚兵士のような、金属の胸当てをした兵士たちが俺の周りに何十体も倒れているのだ。



 倒れているのは人間だけではなく、魔物のような死体も一緒に倒れている。



 ここは地球じゃないな…。



 ゲームに出てくるオークみたいな死体を見つめながら、俺はそう思った。



 戦争でもしてるのか?



 そういう俺の服装も兵士と同じで、右手には金属の剣を握っている。



 さっきまで、家族で朝ごはんを食べていたのに…。



 好物の卵かけ御飯を頬張りながら、ふと意識を失ったかと思うとこんな格好で、こんな所に倒れていたのだ。



 転生したのか?



 俺も一般的な男子高校生。大人気の転生モノは、ひと通り嗜んでいるつもりだ。



 ふーむ。



 大概、転生前には神様的な存在が、いろいろナビゲートしてくれるのがお約束なのだが。

 


 「おい、生き残りがいるぞ!」

 遠くで誰かの声がした。振り向くと、俺と同じ格好をした兵士数人が俺のところに駆け寄ってくるのが見えた。



 こうして俺の異世界ライフは、右も左もわからない状態から始まったのだ。

 

 ◆◆◆◆◆◆


 「ヒャハハハ!切り刻んでやるぜええええ!!」



 そんな異世界転生の日から一年。

 俺は試験会場で殺気だった男と立ち会っていた。



 俺が転生したこの世界は、封印されていた魔王が蘇り、魔物たちを引き連れて各国に戦争を仕掛けているらしい。



 この世界が、昼でも夕方のように赤いのは、魔王の出す闇の瘴気が原因だという。



 動物たちは闇の瘴気で凶悪化していき、魔物と呼ばれるようになった。そんな魔物たちで編成された魔王軍は強大で、数多くあった国は次々と滅ぼされ、ここヴァリス王国と同盟を結んだ数国が抵抗しているがかなり苦戦しているという状態だ。

 

 俺の転生パターンは、元々この世界にいた人間に転生するというものだった。ヴァリス軍に所属するアベルという名の少年兵に転生したのだ。

 


 こちらに転生してから、魔王軍との戦争で危ない目にもたくさんあったが、アベルはかなり強い。



 いや、アベルを元々知っていた周りが驚いていたから、俺が転生した事で強くなったのだろう。転生ボーナスというやつなのか、魔力の量がこの世界の人間のそれよりかなり多いのだ。



 周りと同じように、目が大きくて鼻が高い西洋人ぽくなっていたのは嫌だったが、すぐに慣れた。



 得意の風魔法を駆使して魔物を倒し、周りから称賛を受ける。



 俺tuee(ツェー)状態である。

 平凡な高校生からヒーローへ。

 まさに理想通りの転生生活なのである。

 楽しくないわけがないじゃないか。




 そんな中、まだ若い俺は軍幹部の目に止まり、この試験への挑戦を命令された。



 俺が挑戦するヴァリス王立学校とは軍の精鋭を養成する、国で1番入るのが難しいとされる学校だ。



 この学校では高度な魔法の使い方や戦闘技術など、さまざまな訓練を受ける事ができるらしい。かなりの実力がないと、受験することすら出来ないエリート校だ。



 こうして今日、試験当日を迎えたのだ。試験といっても他の受験者と対戦して実力を示せばいいらしい。前の世界みたいに、筆記試験とかなくて本当に良かった。



 試験のルールは相手をなるべく傷つけず、まいったと言わせるか、気を失わせれば勝ちだ。

 ただし、相手を殺せば即失格。



 なんとしてもこの学校に入学し、本格的な訓練を受けてさらに強くなってやる。



 試験官や通りがかった観客たちが見守る中、俺は目の前の相手に集中した。




「ヒャハハハ!切り刻んでやるぜええええ!!」



 俺の対戦相手は、かなりヤバいやつだった…。



「イザム様ー、頑張って〜!」



 若い女たちが、イザムに向けて黄色い声援を飛ばしている。試合前に、イザムが周りにはべらせていた女たちだ。



 女たちからイザム様と呼ばれていたこの男は見るからに軽薄そうな面構えで、年は俺より少し上っぽいがそんなに変わらないだろう。目が吊り目で、少し顔が長めなのだが前髪を片方だけやたらと伸ばし、雰囲気イケメンを狙っていた。全身黒一色のスティール製プレートアーマーを装備しており髪型と装備だけはやたらとカッコいい。



「ヒャハハハ!俺のファイアソードを見て、恐怖に震えるがいい!」



 イザムはスティール製の片手剣を左手で構え、その剣に右手を当てがうと何やら呪文を唱え始めた。



 こいつ、左利きなのか。剣の間合い等を計算し直さないと。左利きは身体の右にしか無い臓器である肝臓を攻撃しやすいため、注意しないといけないのである。



 そして、ファイアソードだと?



 剣に炎をまとわりつかせる魔法は魔力効率が極端に悪く、莫大な魔力が必要なはずなのだが…。



 こんなかませ犬っぽい奴にそんな芸当ができるわけ…。



「見よおおおおお!俺のファイアソードをををををををを!」



 イザムの握る剣は、確かに燃え盛る炎を帯び、刀身もその熱で赤くなっていた。



 こいつ、本当にファイアソードを作りやがった!なんて魔力してやがる…。



「ヒャハハハ!死ねえええええ!!」



 イザムはファイアソードを頭上に掲げながら俺に突っ込んできた。



「だから、殺しちゃダメなんだって。」



 そうつぶやきながら、俺は剣を持っていない方の左手をイザムに向け呪文を唱えた。



「なにいいいい!?」



 俺の手のひらから突風が放たれると、イザムの剣から炎が吹き消された。剣を見つめ、呆然としているイザムの後ろに回り込み、俺は剣の柄でイザムの背中を強く突いた。



「ガフッ。」



 あっけなく気を失ったイザムはその場に倒れ、白目をむいた。



「イヤーン、イザム様〜!」



 イザムを応援していた女たちがハンカチを噛んでいる。



 弱い…。



 魔力の量は確かにハンパなかったが、それに頼りすぎて剣の稽古もろくにしてないみたいだ。剣の進行方向を読み、向かい風を当てる要領で魔力を込めた風を吹きつければ、剣から炎を剥ぐことくらい簡単なことなのだ。



 女にうつつを抜かしてるからだぜ。

 まあとりあえず、勝てて良かった。

 これで試験も合格だ!




「おおおおおお!!」

 その直後、大きな歓声が聞こえてきて、俺はそちらの方を振り向いた。一瞬俺への歓声かと思ったのだが、どうやら隣の会場のようだ。



 そういえば、こちらと並行して、隣の試合会場でも他の受験者が対戦していたな。



 そんな事を考えながら隣の会場を見て俺は目を疑った。



 その試合会場の中央には高さ10メートルくらいの、巨大な樹木のような氷柱ができていたのだ。



 その上の方に、氷の枝に絡みとられるようにしてやや大きめのハンドアックスを装備した若い男が宙吊りにされていた。



 その男は恐怖に怯えながら、逆さになった顔をひきつらせている。



 男に向かって対戦相手らしき若い女がなにやら叫んでいるのが見えた。その女性はミスリル製の胸当てに黄金を細部にあしらったスカートがついたドレスアーマーにミスリルのレイピアと、かなり高価な装備だ。左手は魔法のために素手だが、魔力を高めるためのバングルもこれまたミスリル製だ。 

 


 そして彼女自身も、かなり美人だった。年は俺と同じ16.7歳くらいだろうか。長い栗色の髪は豊かに波打ち、大きくキレイな青い目がとても印象的だ。



 かなり好みかも…。



「あんた、そんな実力で、試合中によう私を口説こうおもたな!」



 その女の子は、吊るされた男に向かってそう怒鳴っていた。



 んん?関西弁!?

 今この子、関西弁喋ってなかった?



 この世界に転生した俺は、もちろんこの世界の言葉を話せるはずもない。



 しかし、最初からこの世界の人々は日本語を話し、俺の話す日本語も相手に普通に通じていた。



 俺が転生してきたから、この世界の言語が日本語に切り替わった?そんなふうに考えたこともあったが、神様でもあるまいし、そんなむちゃくちゃな事が起こるはずもない。



 考えてもわからなかったのでそんな事も忘れていたけど。



 こんなバリバリ西洋ファンタジー世界で関西弁を聞けるなんて。



 しかも、なにを隠そう俺も関西人だったのだ。周りが標準語で話すので、東京に来た地方人みたいに標準語で話すようになっただけなのだ。



 あれ? 



 この女の子は、俺と同じ転生者なんじゃないのか?



 関西人は関西弁に誇りを持っているのだ。関西から転生してきて、関西弁を捨てずに過ごしている可能性はかなり高い。



 相手が降参し、悠々と試合会場を降りるその女の子に、俺は近づいて行った。



「あの、突然ですが、もしかして転生者の方ですか?」



「え?もしかして、あんたもなん!?」



 その女の子は驚きつつも、嬉しそうに微笑みながら俺の手を握ってきた。



「えー!めちゃうれしい!他にも転生者がおったなんて!わたしもいきなり転生してきたかおもたら、えらい強なってるし、魔物もあるわで、もうメチャクチャやってん。あんた、元々どこの人なん?あたしは…」



「お嬢様…。」



 後ろから白髪の、見るからに執事っぽい人に声をかけられて、まくしたてるようにしゃべっていた女の子は舌をペロリと出した。



 かわいい…。



「あかんあかん。この後社交会あるんやったわ。私、この世界でお嬢やねん。笑うやろ?ほんま、メチャクチャやでな。私、ティナっていうねん。あんたは?…アベルな。覚えとく!また、学校でよろしくな!」



 ティナは2人とも試験を合格する前提で話を進めると、ダッシュで去っていった。



 他にも転生者がいたのか…。



 てっきり転生者は俺だけだと勝手に思っていたのだが。



 しかも、あんな美人だと…。

 おいおい、転生生活、美味しすぎるだろ。

 これからの学園生活、バラ色の予感しかしないわ…。

 俺はウキウキした気分で、合格発表の日を待ち構えたのだった。




「てめえも合格してたのかよ…。」



 見事王立学校に合格した俺は、入学初日にイザムに声をかけられた。



 それはこっちのセリフだ…。



 まあ、試験官も勝敗が全てではないと言っていた。イザムも俺にボロ負けだったが、魔力の高さが評価されたのだろう。



 それにしても人格に問題ありだろ。



 今日もこの学校の生徒ではない女たちを侍らせているし…。ここ、一応学校だよな。



 なんでこんなやつを合格させたんだ…。



「あれ?アベルやったっけ?やっぱりあんたも合格してたんやなぁ!」



 そう声をかけてきたのは、ティナだった。今日のティナは、俺もそうだが学校指定の制服姿だ。



 明るい緑色を基調とした制服だが、けっこう日本の学生っぽいデザインだ。生足がとても眩しいぜ。

 ドキドキ…。



 ティナが近づいて来ると、なぜかイザムは下を向き、離れていった。



「あれ!あの男。あんたに負けたのに合格してるやん!えらい女好きやし、ほんま、ムチャクチャやで…。あの垂らし前髪も好かんわ…。」



「垂らし前髪…。そんなことより、ティナさん、これからよろしくお願いします!」



「こちらこそ、よろしくな!てゆうか、お互い呼び捨てでいいんちゃう?同じ転生者なんやし、仲良くしようや。」



 ああ、なんていい子なんだ…。異郷の地で出会い、こうやってどんどん仲良くなっていき、いずれは…。



 でも、何か喋り方とかが聞き覚えあるような気がするんだよな…。



「あれ、ティナさん、いや、ティナ…手に何持ってるの?」



「ああ、これさっき道で拾った、空の麻袋。」



「道で拾ったんだ…。あれ、そういえば、カバンに大量の麻袋がはみ出そうになってるけど、それどうするの?」



「どうもせえへんよ。家に置いとくだけ。だってもったいないやん。」



「もったいないやんて…。何でも集めてたら家の中ゴミ屋敷になんで…あ。」



 思わず関西弁が出てしまった。元いた世界で何度もこのやり取りをしていたのでつい…。



 俺の言葉を聞いて突然顔色を変えたティナは、俺の顔を覗き込むように見つめた。



 俺も同じようにして、ティナ…いや…その女の顔をまじまじと見つめ返した。



 側から見ると、2人で近距離で見つめ合い、いい感じなのかと思えるが、実際にはそこにロマンティックな雰囲気は微塵もなかった。



 何でもかんでももったいないと言っては拾って持ち帰ってしまう、そんなもったいないモンスターに俺は心当たりがあった…。



 そして事あるごとにメチャクチャやでとグチる口癖…。



「もしかして、史彦(ふみひこ)か?」


「もしかして…オカン?」


「「えええええええええええ!?」」



 2人で同時にお互いを指でさし合って大声を上げ、周囲の生徒たちが皆こちらを振り向いたのだった。




「なんで?なんでこんな所におるん!?」


「オカンこそ!」


「顔が外国人やから、全然わからんかったわ…。」


「それはオカンもだろ!しかも何で若くなってるんだよ!?もう完全に別人じゃん…。」


「それは私もわからん…。」


 どうやらオカンも朝ごはんを食べていたら急に意識が遠くなり、ティナという若い女の身体で目覚めたのだという。



「なんかこの子、流行りの病気で死にかけてたみたいでな。急に元気になったんで、みんなびっくりしてたわ。」



 オカンも俺と似たような状況で転生してきてるようだが、環境が全然違っていた。



俺の転生先であるアベルは元々の故郷を魔王軍に攻め込まれ、家族も亡くしている。


 一方、オカンの転生先であるティナは貴族の一人娘だそうだ。


 もともとのティナは名門女子学校に通っていたのだが、オカンが転生した後に異常な魔力の高さを見出され、半ばむりやりこの学校の試験を受けさせられる事になったらしい。


 魔王との戦いは本当に厳しく、少しでも戦力になりそうな者は女子供、そして貴族も兵士に駆り出される状況とは聞いていたけど、本当に余裕がないんだな…。


 

「それより、あんたもう帰り。ここは魔物もおって危険な場所やで。」


「いや、帰れって言われても…。大阪行きのバスでもあるのかよ。」


「何でやねん!て、あんたさっきからしゃべり方キモいで。関西弁忘れたんか?」


「オカンこそ、転生してからもなんで関西弁なんだよ…。オカンだけだぞ…。」


「私は一生関西弁や。って、生まれ変わっとるがな〜。」


「…。」


「今ツッコまなあかんとこやで。私は生まれ変わっても関西弁や。最初はティナがいきなり変な話し方になったーって、家族はびっくりしてたけどな。」


「そんなことより、史彦も転生してるってことは…。お父さんも転生してるんじゃないん?」


「確かに…。」


 俺が転生する前…


 俺は家で朝ごはんを食べていた。その時、オカンとオヤジも一緒に朝ごはんを食べていたのだ。オヤジもこの世界に転生している可能性は充分にある…。


「もし大阪に1人で残ってるんやったら、私のパート先に欠勤の連絡してくれてたらいいけど。あの日、シフトの日やってん。まあしてないやろなぁ…。あの人、気いきかんからなぁ。」


「前世のことは忘れろよ…。まあ、オヤジのことは俺も気をつけておくよ。」


「お願いな。あの人、ぼーっとしてるからこんな所来たら即死亡やで。それよりあんたも気いつけて…。私も人のこと言われへんけど、息子が兵隊さんになってしもて…心配やわ…。」


「そんな心配すんなって。俺ってこの世界じゃけっこう強いんだぜ。」


「やめてぇ、そんな死亡フラグ立てるような発言…。」


「…。」



 その日の訓練が終わった後も(初日から地獄のようなものだった。)ティナ(オカン)は私の屋敷に住めとしつこく言ったきたが、そんな事できるわけないだろとなんとか断ってその日は別れた。



 あたりはすっかりと暮れ、俺は部屋を借りている宿へとクタクタになった身体を引きずるように歩いていた。この世界はアパートのようなものはなく、宿にまとまった金を払って住むシステムなのだ。日本と違って宿泊代がバカ高いわけではないので充分払える額なのだが、一階が居酒屋みたいな場所のため騒々しく、ぐっすり眠ることが出来ないのが残念すぎる…。

 


 しかし、オカンまで転生しているとは…。


なんか、萎えるというか、異世界感みたいなものが半減した気分だわ…。



 そしてさようならティナ…。好きになりかけていたけど、オカンとわかったとたんティナがオカンとしか思えなくなってしまった…。



 ところで、オヤジは今どこに?もしオヤジも転生してきてるなら、無事に生きているだろうか?年齢も顔も変わってるだろうし、オヤジはオカンほどキャラが濃くないから見つけるのは大変だぞ…。



史彦(ふみひこ)…。」



 そんな事を俺が考えていると、後ろから俺の前世の名前を呼ぶ声がした。



 この名を知っているのは、この世界にはオカンしかいないはず…。


 まさか!?


 読んでいただきありがとうございます!

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