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実の父《ジェラルド side》

「あぁ、でも……死ぬ前に一度、本当の父親と会ってみたかったな」


 結局最後まで不明だった実父の存在を思い浮かべ、僕はそっと目を伏せる。

と同時に────目と鼻の先まで迫った怪物の手が、光となって消えた。


「……えっ?」


 一体何が起きているのか分からず、僕は目を丸くする。

『こういう習性の怪物なのか……?』と困惑する中、光の中から銀髪碧眼の美丈夫が姿を現した。

立派な鎧に身を包むその御仁は、僕を見て少しばかり目を見開く。


「……子供?」


 怪訝そうな表情を浮かべ、銀髪の美丈夫は眉間に皺を寄せた。


「何故、こんなところに居る?親はどうした?」


「え、えっと……」


 さすがに『殺してきました』と白状するのは憚られて、僕は下を向いた。

どう答えるのが最善なのか思い悩む中、銀髪の美丈夫はスッと目を細める。

と同時に、僕を小脇に担いだ。


「とりあえず、じっとしていろ。安全なところまで連れていく」


 そう言うが早いか、銀髪の美丈夫は来た道を引き返そうとするものの……怪物を目にするなり、迂回を決意する。

僕というお荷物を持って、戦うのは不利と判断したらしい。

もしくは、子供()の精神状態に配慮したか……。


「────ん?死体?」


 いつの間にか父を殺した現場に戻ってきていたらしく、銀髪の美丈夫は腐敗した死体を眺める。


「後で回収班を派遣しないといけないな」


 懐から円柱型の何かを取り出し、銀髪の美丈夫はマッチで先っぽに火をつけた。

すると、緑色の煙が天高く舞い上がる。

『発煙筒……かな?』と思案する僕の前で、彼はソレを地面に突き立てた。


「これなら、いい目印になるだろ」


 目いっぱい土の中に押し込んで固定し、銀髪の美丈夫は身を起こす。

と同時に、再び駆け出した。

が、直ぐに足を止める。


「今度は小屋か……」


 僕の家を見て『誰か住んでいたのか?』と首を傾げ、銀髪の美丈夫は中へ入った。

かと思えば、立ち止まる。

その視線の先には、あの女の死体があった。


「何故、ここにあのお方が……?」


 死体の横で膝をつき、銀髪の美丈夫はどことなく表情を強ばらせる。


「皇城でたまたま一度だけ見掛けたことがある程度の間柄だが、この顔・この髪・この体つき……間違いない────ルーナ・ブラン・ルーチェ皇妃殿下だ」


「!?」


 カッと目を見開く僕は、あの女の死体と銀髪の美丈夫を交互に見つめた。


 こ、この女が皇妃……?じゃあ、僕の本当の父親ってまさか……いや、もしそうなら何でこんなところに居るんだ?

普通、皇城で何不自由なく暮らしている筈だろう?


 多くの疑問が脳裏を過ぎり、僕は何がなんだか分からなくなる。

帝国をまとめる一族が実父の候補として上がるなんて、夢にも思わなかったから。

『死のうと考えていた矢先にこんな展開……』と衝撃を受ける中、銀髪の美丈夫はチラリとこちらを見た。


「……よく見ると、この子供────ルーナ皇妃殿下とエルピス皇帝陛下に似ているな」


「!!」


 『エルピス皇帝陛下』という単語に反応し、僕はギュッと胸元を握り締める。

もう期待なんてしちゃダメだと分かっているのに……この高鳴る鼓動を止められなかった。

『もしかしたら、僕の実父は……』と思案していると、銀髪の美丈夫が立ち上がる。


「念のため確認するが、お前はこの方の息子か?」


 手であの女の死体を示し、銀髪の美丈夫は『どうなんだ?』と問い掛けてきた。

それに対し、僕は


「は、はい……!親子です!」


 と、首を縦に振る。

すると、銀髪の美丈夫は直ぐさま踵を返した。


「分かった。では、一先ずお前は連れて帰る」


 という宣言通り、銀髪の美丈夫────改め、リエート・ラスター・バレンシュタイン公爵は実父候補の居る帝都まで連れていってくれた。

そこで最上級のおもてなしを受け、皇城近くの別邸で待機する。


 公爵は今、陛下に会いに行っているって聞いたけど……いつ、帰ってくるかな?

いい知らせを持ってきてくれると、いいな。


 などと考えているうちに、公爵が帰ってきて服を着替えるよう指示された。

『お忍びで陛下もここに来ている』と述べる彼に、僕は目を輝かせる。

ついに実父……と言っても、まだ可能性の段階だが。でも、陛下に会えるのはとても楽しみだった。

『どんな人なんだろう?』と浮かれながら正装に身を包み、僕は陛下の居る部屋まで足を運ぶ。


「廊下で待機するなり、中に入るなりお好きにどうぞ」


 『自分は何も関与しない』と主張し、公爵は数歩後ろへ下がった。

壁に寄り掛かって腕を組む彼の前で、僕は扉と向き合う。


 出てくるまで、待った方がいいかな……?いや、でもいつになるか分からないし……それに────僕は今すぐ、会いたい。


 グッと手を握り締め、僕は一つ深呼吸。

そして、何とか気持ちを落ち着けると、部屋の扉をノックした。


「────なんだ?」


 扉越しに聞こえてきた声は酷く冷たく、ぶっきらぼうで……僕はハッと息を呑む。

と同時に、身を縮めた。


「す、すみません……僕の本当のお父さんが来たって聞いて、会いに来たんですが……お邪魔みたいなので、出直します」


 半ば早口で捲し立てるようにそう言い、僕は『ごめんなさい』と頭を下げる。

────と、ここで勢いよく部屋の扉を開け放たれた。

『えっ……?』と困惑する僕を他所に、扉の向こうから現れた御仁は目を潤ませる。

食い入るように僕の顔を見つめながら。


「────余とルーナの子だ!」


 堪らずといった様子で歓喜の声を上げ、御仁は力いっぱい僕を抱き締めた。

感極まって涙を流す彼の前で、僕はキュッと唇を引き結ぶ。

ようやく本当の家族に出会えたのかと思うと、嬉しくて。


 この人なら……本当のお父さんなら、僕のことをちゃんと見て、考えて、大切にしてくれるかもしれない。


 そんな淡い期待を抱き、僕は少しばかり表情を和らげた。

『死ななくて良かった』と目を細める中、御仁は肩の力を抜く。


「よく生きて、ここまで……そなただけでも、余のところへ帰ってきてくれて本当に良かった……」


 安堵の息を吐く彼は少しばかり体を離し、じっと顔を覗き込んでくる。

どことなく熱を帯びたその眼差しに、僕は一瞬だけ頬を引き攣らせた。


 あれ……?これって……。


 何とも言えない不快感と嫌悪感が全身を駆け巡り、僕は奥歯を噛み締める。

スゥーッと頭が冷えていく感覚を覚える僕に対し、彼は柔らかい表情を浮かべた。


「これからは余の元で、そなたの面倒を見よう。いきなり皇族として生きるのは難しいかもしれないが、こちらで最大限サポートする。だから────」


 そこで一度言葉を切ると、彼はこちらへ手を差し伸べてきた。


「────余と一緒に皇城()へ帰ってほしい」


 懇願するような声色で頼み込んでくる御仁に、僕はニッコリと笑う。

と同時に、差し出された手をそっと握った。


「はい、よろしくお願いします」

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― 新着の感想 ―
全く情報無いのに嫌悪感あるってことは養父のせいなんかな? 大体全部あの人のせいなのがなんとも言えない感じになる
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