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捜索と遠征

◇◆◇◆


 応接室でずっとルカとグランツ殿下の帰還を待っていた私は、『遅いわね……』と心配になる。

なんせ、相手は魔物を作り出した存在かもしれないから。

一筋縄では、行かない筈だ。


 ジェラルドの性格からして、素直に言うことを聞くとも思えないし……最悪、戦闘に発展していてもおかしくない。


 ティーカップをギュッと握り締め、私は『三人とも(・・・・)無事だといいけど……』と考える。

────と、ここで部屋の扉をノックされた。


「公爵、ベアトリス嬢。入ってもいいかい?」


 扉越しにグランツ殿下から声を掛けられ、父は反射的に顔を上げた。

かと思えば、


「どうぞ」


 と、即座に返事する。

多分、父もどうなったのか凄く気になっているんだと思う。

帝国の今後にも関わることだから。


「失礼するよ」


 グランツ殿下はゆっくりと部屋の扉を開け、中へ入ってきた。

もちろん、ルカも引き連れて。


 なんだか、二人ともお疲れの様子ね。

精神体のルカはさておき、グランツ殿下はちょっとボロボロになっているし。


 『やっぱり、戦闘になってしまったのか』と眉尻を下げる中、グランツ殿下はソファへ腰を下ろした。

と同時に、大きく息を吐き、背もたれへ寄り掛かる。

未だ嘗てないほどダラけた姿を見せる彼に対し、父はスッと目を細めた。


「お疲れのところ申し訳ありませんが、結果を聞いても?」


 『それによって、今後の対応も変わりますので』と言い、父は報告を催促した。

すると、グランツ殿下はゆっくりと体を起こす。


「あぁ……何も言わずに寛いでしまって、すまないね」


 居住まいを正してこちらに向き直り、グランツ殿下は一つ息を吐く。

と同時に、表情を引き締めた。


「まずは結論から言うね」


「はい」


「ジェラルドには────逃げられた」


「そうですか」


 こうなることはある程度予想していたのか、父は大して驚きもせず相槌を打つ。


「やはり、イージスを同行させるべきでしたね」


「いや、公爵家の人間も一緒だったら物的証拠となる剣を見つけても、『公爵に嵌められた』だのなんだの言って白を切り通していたと思うよ。だから、ここで待機してもらうのが最善だった」


 ソファの後ろで待機するイージス卿を一瞥し、グランツ殿下は足を組む。


「それと────ジェラルドを取り逃したのは、魔物を使われたからだ」


「「!?」」


 ハッと息を呑む私と父は、『ここでソレを使うとは……』と驚いた。

ジェラルドなら、意地でも隠し通すと思っていたため。


「私も驚いたよ。でも、こちらの策略により追い詰められて、『もうこれしかない』と判断したようだ」


「せっかく、あんな大掛かりな結界まで張ったのに全部パーだぜ」


 やれやれと(かぶり)を振り、ルカは『結構いいところまで行ったのにぁ』とボヤく。

その横で、グランツ殿下は苦笑を漏らした。


「一応、騎士達に皇城周辺を探すよう指示したけど……多分、見つからないだろうね。ジェラルドは転移魔法を使って、逃げたから」


「行き先は不明ということですか」


「そうなるね……一応、騎士団を投入して探すつもりではあるけど、見つかるかどうか……」


 『せめて、魔法陣を確認出来ていたらなぁ……』と零し、グランツ殿下は力無く首を横に振った。

どこに行ったのか皆目見当もつかないので、困り果てているのだろう。

『あまり戦力を分散させると、今度は捕縛のとき手間取るし』と嘆き、彼は小さく肩を落とす。

────と、ここで父が顔を上げた。


「良ければ、サンクチュエール騎士団からも何人か派遣しましょうか」


 本当に魔物を生み出せる存在と分かった以上、対処に慣れていない皇国騎士だけで対応するのは不安なのか、父はそう申し出た。

すると、グランツ殿下は少し考え込むような仕草を見せてからコクリと頷く。


「是非お願いするよ。でも、元々溜まっていた遠征の方は大丈夫なのかい?」


「そちらは私の方で対処するので、問題ありません。何より、元凶をどうにかしなければ根本的な解決にはならないでしょう。なので、今は多少無理をしてでも第二皇子の捕縛に労力を割くべきです」


 合理的見解を示す父に、グランツ殿下は『それもそうだね』と賛同を示す。

と同時に、少し身を乗り出した。


「それじゃあ、詳しい段取りを決めていこうか」


 そう言って、作戦会議に興じること五時間……ようやく全ての話し合いが終わり、私達は皇城を後にした。

一旦公爵領に戻ってユリアスやサンクチュエール騎士団に状況を説明すると、翌朝直ぐに家を出る。

中止した遠征を再開するために。

例の如く、私も一緒だ。


「すまないな、ベアトリス……本来であれば、こんなところにお前を連れてくるべきじゃないんだが」


 空を飛ぶ馬車に乗って移動する父は、膝の上に載せた私をじっと見つめる。

どこか、申し訳なさそうな様子で。


「いえ、お気にならさないでください。私はお父様と一緒に居られて、とても嬉しいです。遠征の度に長期間お父様と離れ離れになっていたので、余計に」


 仕方のないことだと割り切ってはいたものの、やはり寂しかったため、私は心から同行を喜ぶ。

もちろん、魔物と間近で対峙するのは恐ろしいが、ルカやバハル達も一緒だからか不安はあまりなかった。

『武器型魔道具だって、持ってきたし』と思案する中、父は僅かに目元を和らげる。


「そうか。実は私もベアトリスと一緒に居られるのが、嬉しくて堪らないんだ」


 『ちょっと不謹慎かもしれないが』と零しつつ、父は優しく私の頬を撫でた。


「娘との外出は私にとって、至福のひとときだ」


「これから、魔物を狩りに行くやつのセリフとは思えねぇーな」


 『さすが、親バカ』と肩を竦め、ルカはやれやれと(かぶり)を振る。

と同時に、父がふと窓の外へ視線を向けた。


「そうだ、出来るだけ早く魔物を片付けて少し街でも見に行くか。住民に家から出ないよう通達して……」


「えっ?」


 思いもよらない言葉に驚いて目を丸くすると、父はスッと真剣な顔つきになる。


「ベアトリスはこの世の誰よりも愛らしいから、変な輩に目をつけられるかもしれない。だから、ある程度自衛しておかないとな。無論、そんな奴らは全員叩き切るが」


「あー……力づくで聖剣を抜いている公爵様の姿が、目に浮かぶわ~」


 額に手を当てて嘆息し、ルカは『マジやべぇ……』と呟く。

が、向かい側の席に座るバハルとベラーノは父の意見を支持していた。


「ベアトリス様を不埒な目で見てくる輩は、全て敵よ」


「マグマへ引きずり込んでやる」


「ふ、二人とも落ち着いて」


 冗談とは思えないバハルとベラーノの物言いに焦りつつ、私は苦笑を漏らす。

と同時に、父の方を見た。


「あの……お気持ちは嬉しいんですが、私は街へ行くよりも────お家へ帰りたいです。それで、お父様とゆっくり過ごしたい」

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