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【書籍二巻発売記念SS】ホワイトデー《ルカ side》

 ────ベアトリスにバレンタインチョコをもらってから、約一月。

俺はひたすら、手作りお菓子の練習に励んでいた。


 普通のお返し(正攻法)では、間違いなく公爵様に劣る……っつーか、霞むからな。


 別に競い合っている訳じゃないものの、さすがに『ヘボい』『印象に残らない』となるのは避けたい。


「────まあ、こんなもんだろ」


 グランツより譲り受けた屋敷の厨房にて、俺はゆるりと口角を上げる。

出来上がったお菓子を見つめながら。


「んじゃ、早速お届けに行きますか」


 後片付けもそこそこに出掛ける準備をして、俺はバレンシュタイン公爵家に足を運んだ。

そして、使用人に案内されるままベアトリスの元に向かうと────大量のお菓子に囲まれる彼女の姿を目にする。

しかも、その隣には公爵様も居た。


「いらっしゃい、ルカ」


「用件が済んだら、さっさと帰れ」


 笑顔で出迎えてくれるベアトリスに反し、公爵様は相変わらずの塩対応だ。

それでも、訪問を受け入れてくれるだけまだマシである。


 大抵の奴らは門前払いで追い返されるし、かく言う俺も以前まで訪問を拒絶されていたからな。

でも、ベアトリスと恋仲になってからはさすがに公爵様も折れたって感じだ。

ただ、『来るのはいいが、妙な真似はするなよ』という圧力は度々掛けられている。今だって、そう。


 射抜くような眼差しを前に、俺は内心肩を竦めた。


「よっ、ベアトリス!公爵様も、お邪魔してまーす。約束通り、バレンタインのお返し持ってきたぜ」


 お菓子の入った箱を軽く持ち上げ、俺はベアトリスに近づく。

おもむろに彼女の隣に腰を下ろし、俺は改めてテーブルの上に並べられたお菓子の山を見た。


「にしても、このお菓子の量やべぇーな。全部、公爵様から?」


 やっぱ、正攻法にしなくて正解だったな。

こんなん敵う訳ねぇーわ。


 量も質も段違いなのは素人目からでも分かり、俺は内心苦笑いする。

『手作りにした俺、英断すぎる』と自画自賛する中、ベアトリスがニッコリと笑った。


「ええ────全部、お父様の手作り(・・・)なの」


「へぇー、手作り……はっ!?手作り!?」


 思わず聞き返す俺は、テーブルの方に勢いよく身を乗り出した。


 これ、どう見ても店に並ぶレベルのやつだよな!?それも、貴族様御用達の高級店!


 プロお手製スイーツだと思い込んでいただけに、衝撃が大きい。


「ま、マジでこれ全部公爵様が作ったの……!?」


「ああ」


 公爵様は少し煩わしそうにしながらも、首を縦に振った。


 公爵様に限って、他人の作ったものを自作だと偽ることはないだろうし、マジで本気で冗談抜きで手作りしたんだろうな……!


 ちょっと現実を直視出来ず、俺は額に手を当てる。

まさか、被るとは思わなかったので。


「嗚呼、クソッ!何でだよ!?公爵様なら、高級菓子とか宝石とか山ほど貢ぐもんかと思っていたんだけど!?」


手作り(真心)には、手作り(真心)で応えるべきだと判断しただけだ。それに、高級菓子やら宝石やらは常日頃から与えているため特別感がないだろう」


「あぁ……」


 普段から貢いでいる事実を思い出し、俺は納得した。

と同時に、頭を抱える。


 つーか、その思いつきで手作りにしてこのクオリティかよ。

初めての筈だよな?

練習していたとしても、せいぜい一ヶ月くらいだろ?

それで、ここまで上手くなるもんなのか?

天才肌にも、ほどがあるだろ。


 プロ顔負けの技量といい材料で作られたお菓子を再度見下ろし、俺は溜め息を零した。


「こんなのと比べられたら、俺の立つ瀬がねぇ……」


 今からでも市販品を買ってきた方がいいんじゃないかと真剣に悩んでいると、ベアトリスが首を傾げる。


「何を言っているの?ルカ。贈り物は比べるものじゃないでしょう?」


「いや、まあ……それはそうだけど」


「私はルカの手作りという事実だけで凄く嬉しいし、えっと……そう────神。最高。満足」


 バレンタインのときに俺が言ったセリフを真似し、ベアトリスは微笑んだ。


「このお菓子に掛けた思いが、時間が、努力が何より代え難い贈り物よ」


 そっと胸元に手を当てて、ベアトリスはうんと目を細める。


「もちろん、味や出来栄えも素敵に決まっているけどね。だから、これもらってもいいかしら?」


 箱に向かって両手を差し出すベアトリスに対し、俺はフッと肩の力を抜いた。


 本当、ベアトリスには敵わねぇーな。

まあ、あの光の公爵様でさえ太刀打ち出来ねぇーんだから当然か。


 ベアトリス最強伝説を心の中で唱え、俺は顔を上げる。


「どうぞ、お納めください」


 照れ隠しついでにちょっと茶化すような態度を取り、俺は箱を手渡した。

ベアトリスは『もう、ルカったら』と苦笑しつつ、膝の上に箱を乗せる。


「ありがとう。今、いただいてもいい?」


 この場で食べたい旨を口にするベアトリスに、俺は


「おう、ベアトリスの好きにしろ」


 快く承諾した。

ソファの肘掛けに軽く寄り掛かって様子を見る俺の前で、ベアトリスは箱を開ける。


「あら、これは……ブラウニー?でも、それにしてはちょっとツヤが違うわね」


「ベアトリス、得体の知れないものを食べるのは危険だ。これは処分しよう」


 公爵様はここぞとばかりに不安を煽り、シレッと箱を回収しようとする。

なので、俺は慌てて身を乗り出した。


「これは生チョコ!歴としたお菓子だ!こっちの世界では馴染みのねぇーもんかもしんないけど、俺の元居た世界ではわりとメジャーなやつだから!」


 変なものじゃないと弁解し、俺は公爵様から箱を守るように手を伸ばす。

まあ、こんなことしたって公爵様が本気出したら呆気なく突破されるだろうけど。


「異世界の菓子か。尚更、怪しいな」


「何でだよ!?俺、何度も味見したけど、何ともなかったぞ!?」


「それはお前が異世界人だからだろう」


「ああ言えば、こう言う!」


「ベアトリスの安全のためだ、妥協は出来ない」


 相変わらずの過保護っぷりを発揮する公爵様。

だが、一理ある。


 この世界にある極々普通の材料を使っているとはいえ、食い合わせの問題もあるし……。

今回は贈り物を受け取ってくれたというだけで、満足すべきか?


 『次はブラウニーにでもしよう』と半分諦めの気持ちになる中、ベアトリスが公爵様の方を向く。


「お父様、どうしてもダメですか?」


 どこか悲しそうな……縋るような表情で、ベアトリスは尋ねた。

すると、公爵様は僅かに迷うような仕草を見せる。

少なくとも、俺のときみたいに即座に却下はしない。


「……少し待て」


 たっぷり三十秒ほど悩んでからそう言い、公爵様は生チョコを一つ掴んだ。

かと思えば────おもむろに口に含む。


「「えっ?」」


 想定外の行動に、俺もベアトリスも目が点になった。

『た、食べた……?』と困惑する俺達を前に、公爵様はゆっくり喉を上下させる。


「毒はないな。味もそこまで酷くはないだろう。食べてもいいぞ」


 いや、まさかの毒味!しかも、味の感想が失礼すぎるんだけど!絶対、悪意あるよな!?

でも、これで────ベアトリスに食べてもらえるんだな!


 ゆるりと口角を上げ、俺は膝の上で頬杖をつく。

じっとベアトリスのことを見つめる俺の前で、彼女は穏やかに微笑んだ。


「ありがとうございます、お父様────じゃあ、改めていただくわね、ルカ」


 フォークを手に取って、ベアトリスは生チョコの一つを口に運ぶ。


「!」


 僅かに目を見開き、ベアトリスはそっと頬に手を添えた。


「美味しいわ。滑らかな舌触りで、とっても濃厚で」


「ん。口に合って、良かった」


 心から喜んでいるベアトリスを見て、俺は妙な達成感と充実感を得た。


 その言葉が聞けただけで、もう全てが報われたわ。


 ここ一ヶ月の頑張りを振り返り、俺は一人しみじみとする。

────と、ここで公爵様が自作のマカロンを手にした。


「ベアトリス」


 彼女の口元にマカロンを差し出す公爵様。

所謂、『あ〜ん』というやつである。


「お父様、自分で食べられますから」


「私が食べさせたいだけだ。迷惑か?」


「い、いえ……いただきます」


 迷惑云々と言われると強く出られないようで、ベアトリスはおずおずと口を開く。

そこにすかさず、公爵様がマカロンを差し込んだ。


「美味しいです、お父様」


「そうか。では、これは?」


 今度は自作のチョコケーキを一口分フォークで切り分け、公爵様はベアトリスの口に運んだ。

────その後もずっとあ〜んの繰り返し(公爵様のターン)で、俺作の生チョコが全然彼女の口に入らない。


 ぜっっってぇ、わざとだ。公爵様、大人気ねぇ〜〜〜。


 ベアトリスが生チョコを褒めるのが面白くないのか、ただ単に恋人同士の時間を邪魔したいだけなのか……なんにせよ、疎外感半端ない。


 まあ、でも────一口食べてくれただけで、俺としては充分だ。

多分本来なら、手作りお菓子なんてベアトリスの口どころか、視界にも入らない筈だからな。

親バカ公爵様にしては、かなり譲歩した方だろう。


 食べるとき少し揉めたものの、それは知らないお菓子だったからで手作りそのものを拒否した訳じゃない。


「なんだかんだ、認められているってことなんだろうな」


 超絶分かりにくいが、確かにある他との違いに、俺はスッと目を細めた。

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