同類《ベラーノ side》
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寝室として宛てがわれた部屋で、我は夜空を眺める。
この胸に広がるどうしようもない感情と向き合いながら。
「……バハル」
「何よ?」
隣に座るピンク色のキツネは、チラリとこちらに視線を向ける。
テシテシとベッドのシーツを尻尾で叩くバハルに、我はスッと目を細めた。
「我はベアトリス様の口から逆行前の出来事を聞いた時、第二皇子を殺したいと思った。ベアトリス様の安全を確保するという意味でも、前回の報復をするという意味でも……だが、第二皇子の境遇を聞いて分からなくなった。いや、そもそも────」
前足で自身の顎を突き、我はそっと眉尻を下げた。
「────我らに第二皇子を責める資格など、あるのだろうか」
「!!」
ハッとしたように息を呑み、バハルは強く唇を噛み締める。
明らかに苦い表情を浮かべるキツネの前で、我はこう言葉を続けた。
「『目的のためなら、手段を選ばない』という点では、我らも第二皇子と大差ないように思える。ベアトリス様の仇を討つために、一度世界を滅ぼしかけたのだからな。同胞に汚れ仕事をさせてまで……」
自然災害を巻き起こした際、我々は他の精霊に人間を襲うよう命じた。
季節の管理者には、それぞれ土火風水の同胞を操る能力があるから。
ソレを最大限利用したのだ。
我々単体で動くより、精霊全体で動いた方が効果的だと考えて……。
『実に残酷なことをした』と過去の所業を振り返り、我は眉間辺りに前足を当てる。
苦悩を前面に出す我の前で、バハルはそっと目を伏せた。
「そうね……世界滅亡の後押しをした時点で、私達も第二皇子と同類だわ。でも……だからこそ、彼を止めないといけない。報復のためではなく、私達と同じ轍を踏ませないために」
嫣然と顔を上げ、バハルは黄金の瞳に確固たる意志と覚悟を宿す。
『取り返しのつかない事態へ発展する前に何とかしよう』と主張するキツネに、我は迷わず頷いた。
「そうだな。ベアトリス様もきっと、そうなることを望んでいる」
「まあ、またベアトリス様の命を狙ってきた時は容赦なくあの世へ送るけどね。ここだけは譲れないわ」
『ベアトリス様の安全と幸福が一番』と述べるバハルに、我は賛同の意を示す。
そんなの当然のことだから。
『とにかく、第二皇子の安全は二の次』と思案しつつ、我は軽く伸びをした。
「それはそれとして────世界を滅ぼしかけた責任はどこかで取らねば、ならんな」
『逆行してなかったことになったから、何もしなくていい』というのは、さすがにどうかと思い……我は償いの機会を窺う。
すると、バハルは悩ましげに眉を顰めた。
「だけど、きっと自傷行為はベアトリス様が許さないわよ」
『物凄く心を痛めると思う』と述べるバハルに、我は相槌を打つ。
ベアトリス様と付き合いの長いバハルが言うなら、間違いないと思って。
「では、この世界が……人々が危機に陥った際、ベアトリス様の安寧を妨げない限り守ることにしよう」
『もちろん、巻き込んだ精霊も』と付け足し、我は自分のするべきことをしっかり定めた。
バハルもそれに賛同するかのように、大きく首を縦に振る。
「皆を救うために、私達の力を使いましょう」
「ああ」
『今度こそ、力の使い方を間違えない』と胸に決め、我は真っ直ぐ前を見据えた。




