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同席

◇◆◇◆


「────という訳で、公爵に話を聞きたいんだ」


 久々に我が家を訪れたグランツ殿下は、挨拶もそこそこに皇后陛下からのヒントについて説明した。

『何か分かるかもしれない』と力説しつつ、少しばかり身を乗り出す。

視線をこちらに固定して。


「出来れば、ベアトリス嬢にも同席してほしい。私一人だったら、公爵は口を割らないかもしれないからね」


「……いや、多分大丈夫だろ。デビュタントの一件で公爵は完全に第二皇子を敵認定しているし、快く話してくれるんじゃないか?」


 『お前一人でも行ける』と述べるルカに、グランツ殿下は悩ましげな表情を浮かべる。


「う〜ん……それはそうなんだけど、やっぱり保険は掛けておくべきだろう?」


 顎に手を当てつつ、グランツ殿下は普段と変わらない声量で受け答えした。

今日はバハルとベラーノが、席を外しているからだろう。

『確か、二人とも他の管理者の様子を見に行ったのよね』と思い返す中、ルカは腰に手を当てる。


「なら、まずはお前一人で行って無理そうだったらベアトリスを連れていけばいい」


「それだと、公爵を説得するためにベアトリス嬢を利用したように見られないかい?私、まだ長生きしたいんだけど」


 『公爵の怒りを買いたくない』と身震いするグランツ殿下に、ルカは大きく息を吐く。


「いや、どっちにしろ利用しようとしている点は事実なんだからしょうがないだろ」


「ルカ、ちょっと過保護じゃない?公爵みたいになってきているよ」


 『まあ、ベアトリス嬢を守りたい気持ちは分かるけど』と零しつつ、グランツ殿下はこちらへ視線を向ける。


「ベアトリス嬢自身はどう思っているか、聞いてもいいかい?」


 『本人の意向を確認したい』と申し出るグランツ殿下に対し、私はこう答える。


「私が居ることで何か力になれるなら、同席したいです。何より、私も────ジェラルドのことを知りたい」


 逆行前も今もきちんと見えてなかったジェラルドの本心や素顔を思い、私は強く手を握り締めた。


 正直、まだジェラルドのことはまだ怖い……間接的にであれ、関わりたくないと思ってしまう。

いっそグランツ殿下達に全てを丸投げしたい、とも……。

だけど、そうやって逃げてばかりだと何も解決しない。

実際、ジェラルドはまだ私のことを狙っているようだから……いい加減、覚悟を決めるべきでしょう。


 『それに知ることで恐怖や不安が和らぐかもしれないし』と考え、私は震える体に鞭を打った。

目の前にテーブルへ手をついて立ち上がり、真っ直ぐに前を見据える。


「本当にただ同じ空間に居ることくらいしか出来ませんが、それでも良ければ力に……」


「────何の話をしている?」


 そう言って、開けっぱなしの扉から姿を現したのは他の誰でもない父だった。

護衛騎士のイージス卿に片手を挙げつつ、中へ入る彼は防音結界に気づくなり眉を顰める。

そして、グランツ殿下にチラリと視線を向けると、一も二もなく結界を破壊した。

軽く人差し指で(つつ)いただけなのに。


「マジかよ、この人……物理特化の結界じゃないとはいえ、こんな簡単に……」


 『強すぎんだろ』と零し、ルカは僅かに頬を引き攣らせた。

────と、ここで父が私のことを抱き上げる。


「変なことでも吹き込まれたのか?」


「えっ?いや、そんなことは……」


「では、どんな話をしていたんだ?防音結界まで張って」


「そ、それは……」


 今ここで言っていいのか分からず、私はグランツ殿下の顔色を窺った。

すると、彼は『任せて』とでも言うようにウィンクする。


「もちろん、公爵の話さ」


「……具体的には?」


「一言で言うと、大厄災の活躍ぶりかな?ほら、ベアトリス嬢は当時とても幼かっただろう?だから、私の知っている範囲で君の武勇伝を話してあげたんだよ」


「そうですか」


 少しばかり態度を軟化させ、父は私を抱っこしたまま椅子に腰掛ける。

と同時に、優しく頭を撫でてくれた。


「それくらい聞いてくれれば、いくらでも話したのに」


「じゃあ、今からでも話してあげてよ。所詮、私の知っている話は伝聞に過ぎないからさ。当事者の体験談に比べると、やはり劣る」


 『あと、単純に私も聞いてみたい』と乞い、グランツ殿下はニコニコと笑った。

ここから自然に、ジェラルドの話へ持っていくつもりなのだろう。


 お父様の登場は完全に予想外だった筈なのに、それすらも逆手に取るなんて凄いわね。

きっと、グランツ殿下みたいな人を『ピンチをチャンスに変える天才』と呼ぶんだわ。


 ────と、感心したのも束の間……


「何か知りたいことがあるならそう言ってください、殿下」


 父はあっさりグランツ殿下の思惑を見破った。

話の流れそのものは凄く自然だった筈なのに。

『えっ?何で?』と動揺する私の傍で、父はスッと目を細める。


「このように探られるのは、大変不愉快です」


「ははは……それはすまなかったね。直球で聞いても、答えてくれないと思っていたんだよ」


 口元に手を当て困ったように笑うグランツ殿下は、『公爵相手に駆け引きなんてするものじゃないね』と呟いた。

かと思えば、コホンッと一回咳払いする。


「じゃあ、改めて質問させてもらうよ」


 そう前置きしてから、グランツ殿下は真っ直ぐ前を見据えた。


「ジェラルドについて知っていることがあれば、教えてほしい。特にあの大厄災のときにジェラルド関連で、何か変なことはなかったかい?」

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