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誇ってほしい

◇◆◇◆


「────あとのことは、ベアトリスも知っての通りだ」


 包み隠さず全てを話し終え、ルカは『だから、こんな格好な訳』と肩を竦める。

どこまでも淡々としている様子の彼に、私はそっと眉尻を下げた。

だって、ルカの歩んできた道は……選択はきっと何度も彼を苦しめてきた筈だから。


 ルカは平然としているけど、いきなり別の世界に呼び出された挙句、戦いを強いられて……その上、逆行による制約や負担を一人で背負うなんて。

並の人間では、耐えられない筈よ。


 『どんな気持ちで今まで過ごしてきたのか』と考え、私はギュッと胸元を握り締める。


「ルカのことについて教えてくれて、ありがとう。おかげで色々腑に落ちたわ」


 黒い瞳を真っ直ぐに見つめ返し、私は少しだけ表情を和らげた。


「ルカの強さはきっと、その優しさから来ているのね」


「……はっ?優しい?俺が?」


「ええ」


 間髪容れずに頷くと、ルカは思わずといった様子で仰け反る。


「いやいや、何言ってんだよ……!?俺様は超利己的だぜ!?」


「そんなことないわ。だって、この世界のために色々力を貸してくれたじゃない」


「そりゃあ、そういう取り引きだからな!第一、これから住もうとしている場所が滅んだら困るだろ!」


「だとしても、普通はそこまで尽くさないと思う。自暴自棄になったり、他の方法を模索したりしてリスクを避けるんじゃないかしら?少なくとも、即決はないわね」


 『本当に利己的な人なら、もっとワガママに振る舞っている』と主張し、私はベッドから降りた。

そして、窓辺で静止しているルカの元へ足を運び、スッと目を細める。


「それに今日のことだって、そう。ルカは『ベアトリス()を死なせないため』じゃなくて、『誰一人命を落とさないようにするため』に戦おうとしてくれたでしょう?」


「それは……まあ、そうだけど。でも、結局自己満足だし……」


 目の前まで来た私から視線を逸らすように天井を見上げ、ルカはガシガシと頭を搔いた。

『クソッ……調子が狂う』とボヤく彼を前に、私は小さく笑う。


「ルカからすれば自己満足かもしれないけど、私からすれば優しさよ。だから────もっと、自分のことを誇ってあげて」


「あ゛?俺はいつでもどこでも自分が一番だけど」


 『何を言っているんだ?』と眉を顰めるルカに、私はこう答える。


「ええ、確かにルカは自分の能力や特技を誇っているわね。でも────自分自身を褒めてあげることは、あまりないように見えるわ」


「!!」


 図星だったのか、ハッと息を呑むルカはゆらゆらと瞳を揺らした。

こちらを凝視して固まる彼の前で、私は自身の手のひらを見つめる。


「ルカはどこか、自分のことを軽く見ていて……卑下しているように感じる。まるで、自分は生まれちゃいけない存在だったみたいな……そんな感じ。私も前まで同じことを思っていたから、何となく分かるの」


 グッと手を握り締め、私は視線を前に……ルカに戻した。

そして、どこか泣きそうな……でも怒ったような表情を浮かべる彼に、私はふわりと柔らかく微笑む。


「ねぇ、ルカ。私は貴方にこうして出会えて、とても嬉しい。たくさんの優しさと勇気をもらえて、凄く凄く感謝している。貴方のおかげで、今とっても幸せ。だから、ね……私なんかが、こんなことを言ってもいいのか分からないけど────」


 そこで一度言葉を切ると、私はお祈りのときみたいに両手を組んだ。


「────生まれてきてくれて、ありがとう。私は貴方の誕生を心の底から祝福します」


 神官様が洗礼の際に使う言葉を真似て、私は精一杯の想いを伝えた。

貴方は誰かに必要とされて生まれてきたのだと……望まれない子供なんかじゃないんだと、分かってほしくて。

他の誰がルカの誕生を呪っても、私だけは貴方の誕生を心から喜ぶ。

その決意の表れでもあった。


「……あー、クソ。こんなんで……チッ」


 目元を手で覆い隠してそっぽを向くルカは、何故か少し涙声だった。

また、いつものような覇気もない。


「ベアトリス、てめぇ……後で覚えてろよ。肉体を取り戻したら、速攻で頭をグシャグシャにしてやるからな」


 ビシッとこちらを指さして宣言し、ルカは身を翻した。


「んじゃ、さっさと寝ろよ。俺は建物の周りをグルッと回ってくる」


 そう言うが早いか、ルカは床へ沈むようにしてこの場を去る。


 珍しいわね、パトロールなんて。

もしかして、魔物の襲撃を警戒しているのかしら?


 などと思いつつ、私はコテリと首を傾げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルカとベアトリスは実は似たもの同士だったのか。 寂しさや己の歪みを理解し合える人が側にいるというのは幸せですね。 前回の生では、優しくされる事で依存したけれど、理解しあう事は決してなかっ…
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