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約束《ルカ side》

「ただ、様々な制約を受けることになる。本来干渉出来ない場所へ来たというだけでも異例なのに、お前の存在しない時間軸へ行くのだからな」


 『今までのように過ごせるとは思わない方がいい』と告げ、タビアは不意に手を止める。


「まず、過去に戻ったらお前は精神体になる。肉体は持てない」


「えっ?」


 ピシッと固まり、頬を引き攣らせる俺は『つまり、目に見えないってこと?』と混乱する。

早くも雲行きの怪しくなってきた逆行に不安を覚えていると、タビアはペンを置いた。


「安心しろ。一生そのまま、という訳ではない。ルカを召喚した日時、場所、魔法陣でお前の肉体をまた呼び出せば元に戻る。ただ、その間は肉体なしで生活しないといけないだけだ」


「全然、『だけ』ではないけど……まあ、最終的に元へ戻れるならいいか」


 『そこまで贅沢は言えないよな』と何とか自分を納得させ、俺はポリポリと頬を搔いた。


「でも、精神体でどうやってお前らに接触すればいいんだ?まさか、俺だけ肉体を取り戻すまで待機……じゃないよな?」


 遡る日数にもよるが、下手したら何年も精神体の状態で過ごす羽目になる。

なので、出来れば何かの役割と仲間への接触を持ちたかった。


 元の世界へ戻るよりマシだけど、何年も孤独に暮らすのはちょっとな……。

肉体なしだと、出来ることは限られてくるし……それこそ、ボーッとするくらいしか。


 『めちゃくちゃ暇を持て余しそう』と思案する中、タビアは突然自身の髪を一本抜いた。


「特定の人物とは、普通に接触出来るよう取り計らう。あと、こちらの世界の力である魔法は自由に使える筈だから、きっちり働いてもらうつもりだ」


 『公爵の娘の護衛とか、な』と語り、タビアはグランツの髪へ手を伸ばした。

かと思えば、一も二もなく乱暴に引っこ抜く。

『こいつ、遠慮ってもんを知らないのか……』と苦笑する俺を他所に、タビアは二本の髪の毛を魔法陣に載せた。


「一応、公爵の娘とも接触出来るようにしておいた方がいいか。殺した犯人を特定するためにも、記憶は残すようにして……あっ、公爵の娘の髪って持ってないか?」


 不意に顔を上げたタビアは、『体の一部であれば、何でもいいんだが』と補足する。

恐らく、効果対象を指定するために必要なんだろう。


「えっと、確か犯行現場にあった血液なら採取してあるけど」


「じゃあ、ソレを持ってきてくれ」


「分かった」


 コクリと頷いて席を立つグランツは、一度隣室に引っ込むと、小瓶を持って戻ってきた。

魔道具の一種なのか、中に入っている血液は新鮮なまま保管されている。

少なくとも、凝血している様子はない。


「はい、どうぞ」


「ああ」


 グランツから受け取った小瓶を魔法陣の上に置き、タビアは『これで材料が揃った』と呟く。

でも、まだ細かい調整は必要みたいでグランツに何かの計算を任せていた。


「あぁ、そうだ。ルカにもう一つ伝えなければ、ならないことがある」


 『かなり重要なことだ』と前置きし、タビアは真っ直ぐにこちらを見据えた。

どことなく、重苦しい雰囲気を放ちながら。

『な、なんだよ?改まって』と狼狽える俺を前に、タビアはスッと目を細める。


「逆行後、自分の肉体に戻るまでの間────ルカを視認出来る私、グランツ、公爵の娘以外に存在を悟られてはいけない」


「何でだ?」


「世界に異物として認識され、存在を拒絶されるからだ」


「はぁ?」


 意味が分からず眉を顰める俺に対し、タビアはこう言葉を続ける。


「いいか?何度も言うように、ルカはイレギュラーな存在だ。世界の理に反する。故に、この世界はお前を追い出したがっている筈だ。でも、これまでは肉体が……実体があったから、お前を受け入れざるを得なかった」


「……つまり精神体の状態なら楽々追い出せる、と?」


「ああ」


 間髪容れずに首を縦に振り、タビアは真剣な面持ちでこちらを見据えた。


「だから、他のやつにお前の存在を認識されてはいけない。一人、二人なら気づかれないかもしれないが……それでも、確証はない。出来るだけ、隠し通した方がいいだろう」


 『用心しろ』と注意を促すタビアに、俺はコクリと頷く。

と同時に、自身の手のひらを見下ろした。


「ちなみにこの世界から追い出された(拒絶された)場合、俺はどうなるんだ?」


「恐らく、元の世界へ帰ることになるだろう」


「ふ〜ん?じゃあ、もう一個確認。仮に追い出されたとして、またお前らに召喚してもらえばこっちへ戻ってこられるのか?」


「ああ、多分……きちんと日時、場所、魔法陣を守っていれば」


 『そこは責任を持って私が監督する』と言い、タビアはこちらの反応を窺った。

グランツも計算の合間、チラチラと俺の顔を見る。

恐らく、断られる可能性を危惧しているのだろう。

この方法を使うには、俺が絶対不可欠だから。


「オーケー、オーケー。そういうことなら、まあいいや────逆行に協力してやるよ。ただし、どんな結果になったとしても召喚魔法を使ってまた俺を呼び出すこと。いいな?」


 『約束だぜ』と言い含める俺に、タビアとグランツは大きく頷いた。

と同時に、肩の力を抜く。

ホッとしたように少し表情を和らげる二人の前で、俺はソファの背もたれへ寄り掛かった。


「ところで、何年くらい遡るつもりなんだ?」


「一応、一年くらいを考えているけど……逆行魔法なんて初の試みだし、正直どうなるか私達も分からないんだよね」


「まあ、多く遡る分には全然構わないがな」


 『やり直しの幅が広がり、余裕を持てる』と主張するタビアに、俺は


「それも、そうか」


 と、相槌を打った────が、


「十一年も遡るなんて、聞いてねぇーよ!!!」


 記憶にある姿よりやや若々しいグランツへ、俺は不満をぶちまけた。

逆行魔法を発動した途端、体は透明になるわ、迷子になるわで散々だったため。

『初っ端から、前途多難すぎるわ!』と叫ぶ中、グランツは困ったように笑う。


「まあまあ。逆行には成功したんだし、いいじゃないか。このくらいのミスは誤差だよ、誤差。本当に失敗したら、もっと酷い目に遭っていたよ。それこそ、時空の狭間で塵になったりとか」


「はっ……?おい、待て。それは初めて聞いたぞ」


 『そんなリスキーなことだったのかよ』と青ざめ、俺は後ろへ仰け反る。

せいぜい、別の次元へ行く程度のことだと思っていたため、俺は逆行魔法の使用を少しだけ後悔した。

『絶対、二度と使わねぇ……』と固く心に誓う俺の前で、グランツは机の引き出しから地図を取り出す。


「とりあえず、ルカはベアトリス嬢のところへ行ってくれる?多分、逆行したことに気づいて混乱しているだろうから。軽く事情説明と護衛をお願い」


 皇城から公爵家までの道順を教えながら、グランツは『ついでに仲良くなってきてよ』と指示した。

平気な顔で無理難題を押し付けてくる彼に対し、俺はゲンナリする。


 誰もがお前みたいに、人たらし……じゃなくて、フレンドリーじゃねぇーんだよ。ふざけんな。

それに幼女()の公爵令嬢からすれば、俺は大きく……そして、威圧的に見えるだろうし。

正直、打ち解けるとは思えない。


 逆行前と変わらない自身の容姿を思い浮かべ、『せめて、俺も若返っていればなぁ……』と嘆いた。

と同時に、大きく息を吐く。


「まあ……善処はする。でも、あんま期待するな」


 そう言って地図から視線を上げると、俺はベランダから飛び立った。

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