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難航《ルカ side》

「我が娘の無念を晴らせるなら、何でもいいが……」


 虚ろな目でそう語り、光の公爵様は勢いよく剣を振り上げる。

と同時に、タビアが俺の腕を強く引いた。


「止まるな。死ぬぞ」


 『棒立ちなんて、いい的だ』と注意を促し、タビアは途中で軌道を変えた聖剣に目を向ける。

そして、火炎魔法で突発的な爆発を引き起こすと、二メートルほど高く飛んだ。

おかげで、聖剣の攻撃範囲から脱することに成功。


 でも、あの規格外のことだ。絶対、直ぐに追いついて……。


 などと考えていると、グランツが風魔法で竜巻を巻き起こした。

その中心には、光の公爵様が……。

『マジかよ、容赦ねぇーな!?』と驚くものの、聖剣の権能により竜巻はあっさり消滅する。


「……マジで勝てる気しねぇ」


 グランツやタビアから、とにかく凄く強いことは聞いていたが……まさかここまでとは思わず、辟易する。

『これは人類の勝てる相手なのか』と思案する中、タビアはグランツの風魔法に乗って着地した。

ついでに、俺も。


「仕方ない……次の作戦に移るか」


 さっさと第一プランを捨てるタビアに、グランツは首を縦に振る。


「そうだね。正攻法で進めるのは、諦めよう」


 『どう考えても無理だ』と割り切り、グランツはこちらを向いた。


「それじゃあ、ルカ。あとは頼んだよ。私達は公爵を牽制しておくから」


「……おう」


 正直、第二プランの方法はあまり気が進まないが……光の公爵様の実力を目の当たりにしたら、『やりたくない』とは言えず決意を固める。

『これも世界平和のため』と自分に言い聞かせ、俺は公爵様の足元へ意識を集中させた。


 グランツとタビアが、上手く公爵様をその場に留めている……やるなら、今だ。


 必死に戦っている二人を一瞥し、俺は風魔法と土魔法で────先日タビアから教えてもらった魔法陣を描く。

と同時に、発動させた。


「これは……精神感応系魔法?」


 さすがは元英雄とでも言うべきか、光の公爵様はあっさり魔法の種類を当てる。

でも、新開発した魔法陣だからか細かい内容までは分からない様子。

『なんだ、この術式は……』と訝しむ彼の前で、俺はそっと眉尻を下げた。


「悪いな、公爵様────アンタの過去はもらっていくぜ」


 この魔法の効果は一言で言うと、記憶の抽出。

今の今まで積み上げてきた全ての思い出を奪う、というもの。

なので、本人は自分が誰なのかもそのうち分からなくなる。


 過去の記憶を……娘を忘れれば争う理由も意味もなくなると思って、このような手段を講じたんだ。

ぶっちゃけ邪道だが、今の俺達ではこういう手しか使えない。


 『格が違い過ぎるからな……』と嘆息し、俺は奥歯を噛み締めた。

己の無力さを呪う俺の前で、魔法陣は発動を終える。

これで光の公爵様は全てを忘れ去る────筈だった。


「あれ……?公爵様の記憶が流れ込んでこない?」


 魔法の効果はあくまで、記憶を吸い取ること。

なので、頭に一切情報が入ってこないのはおかしかった。


「まさか、失敗した……?魔法陣を書き間違えたのか?」


 ゆらゆらと瞳を揺らして狼狽える俺に対し、タビアは小さく首を横に振る。


「いや、魔法陣は完璧だった。発動だって、スムーズに行った筈だ」


「ルカに落ち度はないと思うよ。恐らく、失敗した原因は────公爵にある」


 僅かに表情を強ばらせつつ、グランツは銀髪の美丈夫を見据えた。

かと思えば、どこか呆れたように溜め息を零す。


「多分、最愛の妻や娘のことを忘れたくなくて……その想いが強すぎて、魔法を打ち破ったんだ。通常なら有り得ないことだけど、魔法で作った竜巻や炎の中に居てもピンピンしている公爵なら有り得る」


「はぁ……体のみならず、心まで強靭って訳か。マジで規格外だな」


 『超人すぎる……』と項垂れ、俺は目頭を押さえた。

先程まで神妙にしていたのが、なんだか馬鹿らしくなり……苦笑を漏らす。

でも、大切な思い出を奪わずに済んで少しホッとしている自分が居た。


「何はともあれ、一旦仕切り直しだ。撤退するぞ」


 ────というタビアの号令により、俺達は一時退却。

もう一度作戦を練り直し、光の公爵様に戦いを挑んだ。

が、見事に敗北。

その後も幾度となく公爵様の無力化を目論んだが、全く歯が立たなかった。


「なあ……そろそろ、別の方法を考えた方がよくね?さすがにあの規格外をどうこうするのは、無理があるって」


 皇城の一室で弱音を吐き、俺はソファに寝転ぶ。

一向に解決の糸口が見つからず辟易し、大きく息を吐いた。

『いつまでこんなことを続ければいいのか?』と。


「てか、公爵様の要求を叶えることは出来ないのか?」


 『娘の仇を連れてくるか、娘を生き返らせるか』という滅茶苦茶な言い分を話題に出し、俺は身を起こす。

いくら魔法のある世界と言えど、不可能なことがあるのは分かっている。

でも、『もしかしたら……』という可能性に縋りたかった。


「私達もその方向で、考えてみたことは何度かあるよ。でも、ベアトリス嬢の殺害は他殺ということしか分かってなくてね……魔法か何かで痕跡を完璧に消されていたんだ。しかも、ご遺体は今、公爵の方にあるし……」


 『調べようがない』と主張し、グランツは額に手を当てた。


「あと、ベアトリス嬢を生き返らせるのは普通に無理。一応、死者蘇生に関する文献は粗方読み漁ったけど、どれも死霊術みたいなやり方で……公爵の望むような蘇りじゃない」


 『逆に神経を逆撫でするだけ』と述べるグランツに、俺は小さく肩を落とす。

何となくそんな気はしていたが、こうもハッキリ断言されると落胆してしまって。

『まあ、出来るなら最初からやっているよな』と納得する中、タビアが不意に顔を上げた。


「確かに死者蘇生は無理だが、ルカの協力を得られれば────公爵の娘は間接的に生き返るかもしれない。いや、死を回避出来ると言った方が正しいか……」


「はっ?どういうことだよ?」


 訳が分からず聞き返すと、タビアは神妙な面持ちでこちらを見据えた。


「公爵の娘が死ぬという過去を覆すんだ────時間を巻き戻して」


「「!?」」


 逆行という新たな選択肢を前に、俺とグランツは大きく目を見開いた。

いつも、『これから(・・・・)どうするのか』ばかり考えていたから。

一からやり直すなんて、思いつきもしなかった。


「そ、そんなこと可能なのか……?」


「ああ────この世界の理に縛られないルカなら、出来る筈だ」


 『私達はこの世界の住民だから難しいが』と補足しながら、タビアは両腕を組む。

何かを思い悩むように。


「ただ、時間を巻き戻せば当然────ルカは元の世界へ帰ることになる」


「マジかよ……」


 あからさまに嫌な顔をする俺は、後ろへ仰け反った。

すると、タビアが風魔法で紙とペンを引き寄せた。


「でも、方法がない訳じゃない」


「えっ!?マジで!?」


 『それを早く言えよ!』と叫び、俺は身を乗り出した。

グランツも興味津々といった様子でタビアを見つめ、少しばかり前のめりになる。

────と、ここでタビアが魔法陣を描き始めた。


「ただ、様々な制約を受けることになる。本来干渉出来ない場所へ来たというだけでも異例なのに、お前の存在しない時間軸へ行くのだからな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] おとーさまの壊れっぷり、性能も精神も。これだけ力があっても、何にもできなかった無力感で八つ当たり・・・哀れですね。 [気になる点] すごいな、こんな状況になってさえ、「自分です」と自首しな…
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