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異世界《ルカ side》

◇◆◇◆


 ────逆行前の時間軸にて、俺はグランツとタビアの召喚魔法でこの世界に呼び出された。

ラノベっぽく言うと、異世界転移である。


「────ふ〜ん?つまり、その光の公爵様とやらを止めるために力を貸してほしいんだな?」


 凄く大きい建物の一室で茶をいただく俺は、『テンプレ展開だなぁ』と呟く。

まあ、世界滅亡を企むのが元英雄というのはなかなか見ないパターンだが。

『そこは魔王じゃないのか』と思案しながら、俺は向かい側の席へ腰掛けるグランツとタビアを見据えた。

と同時に、グランツが口を開く。


「ああ。過去の文献によると、異世界人はかなり優れた能力を持っているらしいからね。是非、力になってほしい」


 真剣な面持ちでこちらを見つめ、グランツはアメジストの瞳に強い意志を宿した。


「無論、君一人で戦わせる気はないよ。私達も参戦する」


「いくら異世界人と言えど、あの規格外には敵わないと思うからな」


 タビアは窓越しに見える荒れ果てた帝都を眺め、一つ息を吐く。

『短期間でこの有り様だ』とボヤきながら。

どことなく表情を強ばらせる彼の前で、俺は紅茶へドバドバと角砂糖を入れていく。


「話は大体分かったけどさ、それって俺にメリットある訳?」


「もちろん、それ相応の謝礼は支払うよ。地位でも権力でも、好きなものを言うといい」


「とか言って、光の公爵様を倒したら即刻お払い箱にするつもりじゃねぇーの?」


「いや、そんなことはないよ。君の生活はきちんと保証するし、出来る限りの補填はさせてもらう」


 『誓約書を交わしたっていい』と強気に出るグランツは、何とか俺の信用を勝ち取ろうと必死だった。

が、その隣に居るタビアはどこか冷めた様子。


「お前……ルカとか言ったか?かなりのイレギュラーな事態なのに、随分と落ち着いているな」


「まあ、こういう展開はラノベの鉄板だからなぁ」


「本当にそれだけか?」


 どこか訝しむような素振りを見せるタビアに、俺はフッと笑みを漏らす。


「多分、お前の考えているようなことじゃねぇーよ。俺はごくごく普通の高校生だからな。他人と違う点としては、幼い頃に両親を亡くして親戚中をたらい回しにされたことくらい?おかげで、多少のイレギュラーでは動揺しない強心臓を手に入れたぜ」


 本当はもっと色々あったのだが、初対面のやつに説明してやる義理はないため適当に誤魔化す。

でも、タビアやグランツは何となく辛い経験をしたことが分かったのか、少しばかり表情を曇らせた。


「……野暮なことを聞いた」


 どことなく暗い声色で謝罪するタビアに、俺は小さく肩を竦める。


「いいよ、別に。それより、謝礼についてなんだけど」


 話を本筋に戻し、俺は僅かに身を乗り出した。

黒い瞳に確固たる意志を宿しながら。


「────俺をこの世界に住まわせてくれ。元の世界へ帰らなくて済むようにしてほしい」


「ここに骨を埋める、ということか?」


「ああ」


 間髪容れずに首を縦に振ると、タビアは『……本当に余計なことを聞いたようだな』と反省する。

思ったより元の世界への拒絶反応が強くて、先程の発言の無神経さを実感しているらしい。


 まあ、普通は『元の世界に帰りたい』って言うものだからな。

少なくとも、ここへ来た初日に『帰りたくない』と駄々を捏ねるやつは居ないだろう。

だって、まだこの世界の常識や自分への扱いも分からないんだぜ?

とりあえず様子見するのが、賢い選択だ。


 『我ながら、とち狂っているなぁ……』と苦笑しつつも、迷いはなかった。

またどこかへ売り飛ばされるかもしれない不安や『臓器を一つ寄越せ』とゆすられる恐怖を思うと、戻る気なんて微塵も湧かなくて。


 無論ここでもそういう扱いを受ける可能性はあるが、こいつらの言う通り俺に凄い力があるなら何とかなるだろう。

いざとなれば、逃げればいい話だし。

見たところ、この世界に戸籍の類いはなさそうだからな。

労働基準も甘そうだし、その気になれば一人で生きていけるだろう。


 子供ゆえに自立出来なかった元の世界のことを思い返し、俺は『やっと自由になれる』と安堵した。

まあ、その前に光の公爵様とやらを倒さないといけないらしいが。

『一体、どんなやつなんだろう』と想像する俺の前で、タビアは紅茶を一口飲んだ。


「分かった。元の世界へ帰らなくて済むよう、取り計らおう」


「この世界で生きていけるように、爵位や領地も用意してあげるね」


 『生活は保証するよ』と申し出るグランツに、俺はニヤリと笑う。


「あと、金もな。それらを確約してくれるなら、全面的に協力してやる」


 『異世界を満喫する前に滅んだら困るし』と言い、俺は角砂糖たっぷりの紅茶を飲んだ。

決意の表れとして。

『この世界に順応する』と示す俺に対し、グランツは柔和に微笑む。


「もちろん、手配しよう。一生遊んで暮らせるような大金を、ね」


 ウィンクしてそう答えると、グランツはおもむろに席を立つ。


「じゃあ、話もまとまったことだし────早速、ルカの強化訓練を始めようか」


 という言葉の通り、俺はタビアやグランツから様々なことを習った。

と言っても、あくまで付け焼き刃なのでところどころ偏ってはいるが。

でも、魔法に関してはエルフのタビアも舌を巻くほど急成長した。


 これなら、光の公爵様にも余裕で勝てるかもしれない。


 ────と、意気込んだものの……その幻想は見事に打ち砕かれた。


「っ……!なんつー強さだよ……!?規格外にも程がある……!」


 初めて光の公爵様────リエート・ラスター・バレンシュタインと対峙した俺は、ひたすら圧倒された。

だって、こちらの攻撃をことごとく切り裂いた挙句、強く正確に急所を突いてくるのだから。

幸い、グランツやタビアのおかげで大きな怪我はないが、それでもかなりギリギリの戦い。

『しかも、あっちは無傷だし……』と辟易しつつ、俺は魔力をここら一帯に拡散した。


 通常の魔法は基本、魔力そのものに込められた属性を具現化して発動するため。

なので、範囲魔法を使う際はいちいち魔力を散りばめなければならなかった。

面倒だが、魔法陣に比べれば全然マシ。

グランツやタビアは『事前に準備しておけば、魔力を込めるだけなので楽』と言っていたが、こちらの言語に精通していない俺からすれば手間でしかなかった。


 いちいち辞書を引くのも面倒くせぇーし、その説明文も読めるか自信ねぇーし。

ったく、何で会話は出来るのに文字は読めねぇーんだよ。

異世界人特典で、そこは何とかしておいてくれよ。


 などと思いつつ、俺はここら一帯の天候を魔法で狂わせた。

まず厚い雲で空を覆い、冷たく重い雨を降らせる。

そして、すかさず雷を落とした。


「愛娘を失って失意のどん底に居るのは分かるが、だからって他人に当たり散らすなよ!」


「別に当たり散らしている訳ではない。ただ、ベアトリスの仇を討ちたいだけだ」


 落ちてきた雷を一瞥し、光の公爵様はその身で受ける。

本来であれば、黒焦げになっていてもおかしくない状況だが……彼は実にピンピンしていた。

『嘘だろ……』と絶句する俺を前に、光の公爵様はスッと目を細める。


「まあ、でも……やっていることは変わらないか」


 暗く冷たい声色でそう語り、光の公爵様はゆっくりとこちらへ歩を進めた。

その(かん)、何度も雷が落ちるものの……相変わらず無傷。

『マジかよ……!?』と叫ぶ俺を前に、光の公爵様は雨に濡れた髪を掻き上げた。


「我が娘の無念を晴らせるなら、何でもいいが……」

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