表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/97

エルフの特性

「これで、会話を聞かれる心配はない。この風によって、声の振動は掻き消される」


 『だから、何も気にするな』と告げる緑髪の美男子に、私は目を見張る。

だって、こんな自然に……何の予備動作もなく、精霊魔法を使えるなんて知らなかったから。


「契約精霊にどうして欲しいのか伝えなくても、魔法って使えるのね」


 『凄い』と素直に感心していると、緑髪の美男子は不思議そうに首を傾げる。


「私の使用した精霊魔法は厳密に言うと、別物なんだが……」


「えっ?そうなんですか?」


「ああ。まず先に宣言しておくと────私はどの精霊とも契約していない」


「……はい?」


 『精霊魔法を使える=契約精霊が居る』という前提を崩され、私は目を白黒させた。

理解が追いつかず悶々とする私を前に、緑髪の美男子は手を組む。


「精霊に自我のある者とない者があることは、知っているか?」


「は、はい」


「なら、話は早いな。結論から言うと、私は────自我のない精霊を操って、魔法を使ったんだ」


「えっ……?」


 ますます訳が分からなくなり、私はパチパチと瞬きを繰り返した。

すると、すかさずバハルが口を開く。


「あのね、ベアトリス様。精霊との親和性が高いエルフは仮契約を取り付けて、少しの間力を借りられるの。もちろん、様々な制約はあるけれど」


「そうなのね。でも、どうやって精霊を見つけたの?だって、彼の話が正しければ自我のない精霊から……本来視えない筈の存在から、力を借りたことになるわよね?」


 『当てずっぽうでやったのか』と思案する私に、バハルはこう答える。


「エルフはその親和性の高さから、あらゆる精霊を視認出来るの。だから、自我のない精霊からも力を借りられるのよ」


「というか、それが主流だな。自我のある精霊は意思や感情を持っているため、反発されやすいんだ」


 『視えるからといって、操ることは出来ない』と語る緑髪の美男子に、私は相槌を打つ。


 私の思っている以上に、エルフという種族は凄いのね。

道理で、ユリウスが焦る訳だわ。


 『敵対しなくて良かった……』と改めて安堵し、私はホッと胸を撫で下ろす。

────と、ここで緑髪の美男子がティーカップへ手を伸ばした。


「結論、お前に私と同じ芸当は出来ない。それより、契約精霊との絆を深めて……」


「さっきから思っていたのだけど、ベアトリス様を『お前』呼ばわりするのはいい加減やめてくれる?無礼よ」


 我慢出来ないと言わんばかりに、バハルは厳しい目を向けた。

すると、緑髪の美男子は小さく肩を竦める。


「それは失礼。ベアトリスで構わないか?」


「『様』を付けなさ……」


「ば、バハル。私は呼び捨てで大丈夫だから。というか、『様』呼びなんて恐れ多いわ」


 相手は逆行に手を貸してくれた恩人でもあるため、私は慌ててバハルを止める。

『気持ちは嬉しいけど』と苦笑し、優しく頭を撫でた。

その途端、バハルは態度を軟化させる。


「ベアトリス様がそう言うなら……」


「ええ。折れてくれて、ありがとう」


 私はふわりと柔らかく微笑み、膝に載せたバハルを抱き締めた。

嬉しそうに尻尾を振るバハルを前に、スッと目を細める。

と同時に、顔を上げた。


「あの……ところで、貴方のお名前は?」


 『言いたくなければいいんですけど』と述べつつ、私は相手の顔色を窺った。

すると、彼はピタッと身動きを止める。


「そういえば、まだ名乗ってなかったな」


 『すっかり忘れていた』と言い、緑髪の美男子は居住まいを正した。


「私は逆行に協力したうちの一人────エルフのタビアだ。呼び捨てで構わない。改めて、よろしく頼む」


「こ、こちらこそよろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げて応じ、私はタビアをじっと見つめた。

『意外とフレンドリーなのね』と驚きながら。


 エルフは基本人前に姿を現さないと聞いていたから、てっきり人間のことが嫌いなのかと思っていたけど……そんなことはなさそう。

私が四季を司りし天の恵みだからかな?


 などと思っていると、タビアがおもむろにティーカップを置く。


「先に言っておきたいんだが、基本こちらは人の世に干渉しない。力を貸すのはあくまで、ベアトリスの身の安全が脅かされた時……つまり、世界滅亡の危機に瀕した時のみだ。それ以外の要請は受けない。だから、エルフを味方にしただのとゆめゆめ思わぬように……」


「お前、もうちょっと言い方ってもんがあるだろ」


 思わずといった様子で口を挟み、ルカはやれやれと(かぶり)を振る。

『これだから、エルフ様は』と言い、腰に手を当てた。


「あのな、ベアトリス。エルフの力は絶大だから、世の均衡を崩さないために干渉しないよう心掛けているんだ。この対応はお前に限った話じゃないから、あんま気にすんなよ」


 誤解を生まないようフォローし、ルカは大きな溜め息を零した。


「まあ、それはそれとしてこいつの態度はめっちゃムカつくけどな。何度、殴り飛ばそうと思ったことか……」


 どこか遠い目をしながら強く手を握り締め、ルカは『何でこんなに偉そうなんだよ』とボヤく。

────と、ここでバハルが前足をテーブルに叩きつけた。


「別にエルフの力なんて、必要ないわよ!我々季節の管理者はもちろん、リエート・ラスター・バレンシュタインだって居るもの!」


 フンッと顔を反らし、バハルは『何様なの』と文句を零す。

明らかにムスッとしているキツネの前で、タビアは


「そうだな。あの規格外が居れば、我々の力なんて必要ないだろう」


 と、共感を示した。

とてつもない鈍感なのか、はたまたわざとなのか……彼はバハルの嫌味を軽く受け流す。

そして紅茶を飲み干すと、おもむろに席を立った。


「用事は済んだから、もう帰る」


「えっ?も、もうですか?」


「ああ、四季を司りし天の恵みが……ベアトリスが精霊を使って悪さ出来るほど、度胸のあるやつじゃないと分かったからな」


 『それだけ確かめたかったんだ』と語り、タビアはベランダへ直行した。

慌ててあとを追い掛ける私に対し、彼は黄金の瞳をスッと細める。


「ベアトリスのように無垢で純粋な者が、四季を司りし天の恵みになってくれて良かった」


 そう言うが早いか、タビアは手すりを乗り越えてベランダから飛び降りた。

『えっ!?ここ、二階……!』と慌てる私を他所に、タビアは風に乗ってどこかへ行ってしまう。


「あいつは本当に……自由すぎだろ」


 深い深い溜め息を零すルカは、『せめて、玄関から出入りしろよ』と呆れる。

いつも床や天井を通り抜けて、行き来している自分のことは棚に上げて。

『まあ、もう慣れたからいいんだけどね』と思いつつ、私は小さく肩を竦めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ