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侵入者の正体

 う、嘘……イージス卿はサンクチュエール騎士団の中でも、上位に食い込む実力者なのに。


 『相手は一体、何者なのか』と不安になり、私はバハルを抱っこして立ち上がる。

ローブ姿の人間が侵入というシチュエーションに、どうにも既視感を覚えてしまって。

動揺のあまりゆらゆらと瞳を揺らす中、ルカがこちらを向いた。


「安心しろ、あいつは────もう一人の協力者だ。本当はもう少ししてからグランツ経由で会わせる筈だったんが、待ち切れなかったみたいでな」


 やれやれと(かぶり)を振り、ルカは目元に手を当てる。

『これまでは見向きもしなかったくせに』と毒づく彼の前で、ローブ姿の人物はこちらを見た。


「四季を司りし天の恵みが現れたと聞いて、じっとしていられる訳ないだろう」


 ルカ経由で仕入れたと思われる情報を口にし、その人物はフードを取り払った。

と同時に、私は思わず息を呑む。

だって、この世のものとは思えないくらい美しかったから。

神々しいとすら感じる黄金の瞳に、腰まである緑の髪……また、肌は雪のように白く涼し気な印象を持たせる。

中でも、一番目を引くのは少し先の尖った耳だろう。

『あれって、確か異種族の……』と思案する中、緑髪の美男子は一歩前へ進む────が、


「ベアトリスお嬢様に近づかないでください!公爵様がお怒りになります!」


 イージス卿に行く手を阻まれた。

『今度はちゃんと斬ります!』と宣言する彼に対し、緑髪の美男子は小さく息を吐く。


「人間にしてはやる方みたいだが、私には勝てぬだろう。諦めろ」


「お断りします!第一、俺だけで対抗するとは一言も言ってませんよ!」


 その言葉を合図に、窓や扉からゾロゾロと騎士が現れた。

屋敷の警備として残された彼らは、全員剣を構えて殺気立つ。


「お嬢様に少しでも傷をつけてみろ、首が飛ぶぞ!」


「お前だけじゃなく、俺達の分もな!」


「冗談に聞こえねぇーな、それ」


 騎士達の発言を受けて苦笑いするルカは、『公爵様なら、やりかねない』と肩を竦める。

────と、ここでバハルが僅かに身を乗り出した。


「待ってちょうだい。その者は私の客よ。剣を収めてもらえないかしら?」


「!?」


 バハルがまさか彼を庇うとは思ってなかったため、私は大きく目を見開いた。


 先日協力関係を結んだとはいえ、まだまだ凝りは残っている筈……。

それでも、庇うというのはあの方に対して特別な思い入れでもあるのかしら?

いや、それはそれとして早く事態を収拾しなきゃ。

幸い、バハルが『私の客だ』と言ってくれたおかげで自然に庇える口実を得られたし。


 『さっきの状態じゃ、庇うに庇えなかったのよね』と思いつつ、私はイージス卿へ向き直る。


「私からもお願いするわ。剣を下ろしてちょうだい」


「ですが……」


「バハルの客は私の客も同然。責任はこちらで取るから……お願い」


 そっと眉尻を下げて懇願すると、イージス卿は『う〜ん……』と唸り声を上げる。

緑髪の美男子と私を交互に見やり、悩ましげに眉を顰めた。

他の騎士達も、困ったように顔を見合わせている。

『公爵様がなんと言うか……』と狼狽える彼らを他所に、一人の青年が姿を現した。


「ちょっ……一体、何の騒ぎですか!?まさか、また侵入者……って、エルフ(・・・)!?」


 ユリウスは緑髪の美男子を見るなり、後ろに仰け反った。

『嘘……!?』と叫ぶ彼を前に、バハルは私の腕から降りる。


「貴方、エルフについて知っているの?」


「えっ?あぁ、はい。確か、圧倒的魔力量と数千年単位の寿命を持つ異種族ですよね?文献で何度か読んだことがあります。こうして、お姿を拝見するのは初めてですが……」


 『普段は人目につかない場所でひっそり暮らしている筈じゃ?』と零し、ユリウスは首を傾げる。

訳が分からないと態度で示す彼に対し、バハルは小さく相槌を打った。


「じゃあ、エルフが自然をこよなく愛し、精霊との親和性に優れているのは?」


「い、一応知ってますけど……」


「なら、話は早いわね。どうやら、彼は四季を司りし天の恵みであるベアトリス様に会いに来たらしいの。多分一エルフとして、季節の管理者をつき従える存在にご挨拶したかったんじゃないかしら?」


「な、なるほど……?」


 『まあ、理解出来る理屈ですね』と納得しつつ、ユリウスは姿勢を正す。

と同時に、顎へ手を当てて考え込んだ。


「絶大な力を持つエルフに喧嘩を売るのは、不味い……最悪、遠征どころではなくなる。でも、だからと言って、勝手に屋敷へ招き入れれば公爵様からどのような罰を下されるか分からない……」


 ブルリと身を震わせ、ユリウスは頻りに腕を擦った。

もうすぐ夏だというのに、まだ肌寒いようだ。


「仕方ない……こうなったら────」


 不意に顔を上げたユリウスは、何故かこちらを見る。


「────ベアトリスお嬢様に公爵様を説得してもらおう」


 ある意味丸投げとも捉えられる発言を繰り出し、ユリウスはこちらへ向かってきた。

かと思えば、ガシッと肩を掴む。


「お願いします、ベアトリスお嬢様。あの親バカ……じゃなくて、公爵様をどうにかしてください」


 『貴方だけが頼りです』と熱弁し、ユリウスは少しばかり鼻息を荒くした。

そんな彼の前で、私はチラリとルカに視線を向ける。

が、『頑張れ、お前なら出来る』とサムズアップされるだけだった。


「……が、頑張ってみるわね」


 とても『出来る』とか明言出来ず曖昧に答えると、ユリウスはパッと表情を明るくする。


「ベアトリスお嬢様なら、そう言ってくれると思ってました!では、早速通信用魔道具を持ってきますね!」


 そう言うが早いか、ユリウスは一旦部屋を出ていき、直ぐさま戻ってきた。

毎度お馴染みの水晶を持って。

『直ぐにあちらへ繋げますからね』と述べ、水晶に魔力を流すユリウスはさっさと魔道具を起動させる。

そして父の方に繋がるなり、思い切り顔を背けた。

恐らく、自分の存在を隠したいのだろう。


『ユリウス、何の真似だ』


「あ、あははは……さすがに無理がありますよね、はい」


 諦めたように前を向き、ユリウスは『他のやつに魔力供給を頼めば良かった』と嘆息する。

────と、ここで緑髪の美男子が水晶を覗き込んだ。


「公爵家には、こんなに質のいい魔道具があるのか」


『何者だ、貴様は』


 物々しい雰囲気を放ちながら威嚇し、父は緑髪の美男子を睨みつけた。

かと思えば、僅かに目を見開く。


『……何故、エルフがそこに』

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