駒《ジェラルド side》
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────皇室主催のパーティーの翌日。
僕は皇帝からも厳しく叱責され、無期限の謹慎を言い渡された。
どうやら、公爵が僕のことを強く非難したようだ。
最悪の場合、このまま一生離宮に閉じ込められるかもしれないな……一刻も早く、手を打たなければ。
でも、あの男のせいで警備も厳重になってしまったし、あまり下手に動けない。
扉や窓を中心に配置された騎士達を見やり、僕は『どうしたものか』も頭を悩ませる。
一応、この警備を掻い潜り密かに脱走する手段は持っているものの……バレた時のリスクを考えると、軽い気持ちで使うことは出来なかった。
『ちゃんと計画を立ててから、動かないと』と自分に言い聞かせ、僕はソファの背もたれに寄り掛かる。
と同時に、テーブルの上へ置かれたチェス盤をじっと見つめた。
目先の目標は以前と変わらず、ベアトリス嬢を手に入れること……でも、そのためにはまず好感度を上げないといけない。
どうやら、僕は彼女にとって恐怖対象でしかないようだから……。
顔面蒼白で震えていた銀髪の少女を思い浮かべ、僕は内心溜め息を零す。
道のりは長そうだ、と辟易しながら。
目下の問題はどうやって、ベアトリス嬢と接触を図るか。
無論、正攻法は使えない。
というか、あの男や公爵がソレを良しとしないだろう。
だから、もっと別方面から攻めないと。
トンッと黒のポーンを前へ動かし、僕はナイトを蹴散らす。
が、白の駒の配置からしてこちらは劣勢。
白のキングは依然として、強力な守護者に守られたまま。
これでは、どう頑張っても手を出せない。それどころか、こちらがやられてしまう。
「やっぱり────邪魔だな」
キングの絶対的守護者とも言えるクイーンを見つめ、僕はトントンと自身の膝を指先で叩く。
最終的にこの者の力は必要になるが……というか、ソレを狙ってベアトリス嬢に近づいているんだが、とにかく今は邪魔だ。
一旦彼女の傍から、居なくなってもらいたいな。
「強すぎる駒は扱いに困るな」
やれやれと頭を振りつつ、僕はおもむろに足を組んだ。
そして、白のクイーンを掴み上げると、チェス盤の外へ出す。
仮に公爵を排除出来たとして、僕はどのようにベアトリス嬢へ接触すればいいんだ?
普通に訪問は論外として……屋敷に忍び込んでこっそり会うのも、ダメだよね。
絶対、前回の二の舞になるから。
あとは街中で偶然会うくらいしか、思いつかないけど……彼女は基本外出しないため、まず実現出来ない。
『八方塞がりだな』と嘆息し、僕は白のキングを手に取る。
と同時に、気づいた────何故、僕は首取りゲームのように考えていたのか?と。
ベアトリス嬢に王様は似合わないのにね。
どちらかと言うと、彼女は────お姫様の方が似合う。
ゆるりと口角を上げる僕は、手に持ったキングを強く握り締めた。
脳内によくある恋愛小説の展開を思い浮かべ、『悲劇のヒロインは定番だよね』とほくそ笑む。
「そうなると、僕の配役は────ピンチを救う王子様かな」
『騎士でもいいけど』と思いつつ、僕はチラリと窓の外を眺める。
決行するタイミングや公爵の排除方法、外出した言い訳を一気に考え、スッと目を細めた。
僕の命綱であり、踏み台のベアトリス・レーツェル・バレンシュタイン……今度こそ、君を手に入れてみせる。




