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厄介なやつ

「あの……ところで、どうしていきなり魔物が現れたんですか?」


 ずっと気になっていた疑問を投げ掛け、私はティーカップを手に持つ。

『魔物って、普通郊外に居るんじゃないの?』と思案する私の前で、グランツ殿下は小さく肩を竦めた。


「それは私にも分からない」


「一つ確かなのは────自然発生したものじゃないってことだな。これは俺の予想だが、恐らく」


 そこで一度言葉を切ると、ルカはおもむろに窓の外を見た。


「魔物を皇城に連れ込んだ存在が居る」


「!?」


 ハッと息を呑む私に対し、グランツ殿下は困ったような表情を浮かべている。

恐らく、彼もルカと似たような考えを持っているのだろう。

『ルカも同じ意見か……』と肩を落とし、嘆息していた。


 そりゃあ、この騒動を企てた人物が居るなんて考えたくないわよね。

私だって、偶然が重なった結果の事故と思いたいわ。


 『誰がこんなことを……』と眉を顰める中、グランツ殿下は不意に顔を上げる。


「まあ、とりあえず死者は出なかったんだし、いいじゃないか」


「そうですね────って、あれだけ大騒ぎになっていたのに死者0だったんですか?」


「ああ、公爵の迅速な対応のおかげだよ。護衛として来ていたサンクチュエール騎士団の者達も、尽力してくれたようだし」


 我が家の馬車の警備に当たっていた騎士達を示唆し、グランツ殿下は『凄く助かった』と褒めた。

その瞬間────私はあることに気づく。


「で、殿下……」


「ん?なんだい?」


「馬車にバハルを残してきたんですが、無事ですかね……?」


 精霊と言えどあんな怪物に襲われれば、無事では済まないんじゃないかと不安になる。

サァーッと青ざめる私を前に、グランツ殿下とルカは顔を見合わせた。


「いや、多分……というか、絶対に無事だと思うよ」


「お前は精霊の力を甘く見すぎだ」


「サンクチュエール騎士団も一緒に居ることだし、命の危機に瀕するようなことはないんじゃないかな?」


「そう、でしょうか……」


 不安を拭い切れず言葉を濁すと、グランツ殿下はおもむろに席を立った。


「もし、不安なら連れてくるよ。ちょっと待っていて」


「あっ、それなら私も……」


「いや、ベアトリス嬢はここに居ておくれ。魔物は粗方片付いたけど、まだどこかに潜んでいるかもしれないからね。それに瓦礫だってあるし」


 『女の子を出歩かせるのは危険だ』と話し、グランツ殿下は部屋を出ていく。

追い掛けようか、どうか迷っている女性騎士を目で制しながら。

『あれ?護衛は?』と思ったものの、心配無用のようで……廊下に居る騎士達を引き連れて、歩いていった。


「あいつもお前に甘いよな。精霊なんて、放っておけばいいのによ」


 『どうせ、無事なんだから』と零し、ルカは小さく肩を竦める。

でも、こういう行動に出られたのはきっと彼のおかげだ。

だって、ルカが私を守ってくれると信じてなかったら、グランツ殿下はここに残った筈だから。

私のワガママを叶えたのは、ある意味ルカとも言える。


 まあ、本人は『そんな訳ないだろ』と言って認めてないだろうが。

『屁理屈にも程がある!』と喚くルカを想像し、私は少しだけ頬を緩めた。

その瞬間────部屋の明かりが消え、何かの倒れる音がする。


「な、何……!?」


 ビックリして思わず席を立つと、直ぐに明かりがついた。

おかげで、少しホッとするものの……私は辺りの光景を見て、固まる。

だって────警護のため残された女性騎士が、床に倒れていたから。


「ど、どうして……」


 まさか、魔物の仕業?いや、それにしては随分と手が込んでいるけど……。


 知性や理性のない生物だと聞いていた魔物が、このようなことをするとは思えず……困惑する。

────と、ここで黒いローブに身を包む人物が目に入った。


「あ、暗殺者……?」


「いや、違う。それよりも、もっと厄介なやつだ」


 かなり小柄な侵入者を前に、ルカは軽く舌打ちする。

『そうくるか』と苦々しく吐き捨てる彼の前で、侵入者は深く被ったフードを取り払った。


「驚かせてしまい、すみません。僕は────第二皇子のジェラルド・ロッソ・ルーチェです」


 ルビーのように真っ赤な瞳をこちらに向け、ジェラルドはお辞儀する。


「このように手荒な手段で訪問したこと、謝罪致します。申し訳ございません。でも、こうでもしないとゆっくり話も出来ないと思って……」


 『あっ、騎士は寝ているだけです』と付け足し、ジェラルドは殺していないことをアピールする。

人畜無害な子供を演じながら。

でも、私にはこの世の何よりも恐ろしい存在に見えて……反射的に扉へ足を向けた。

とにかく、この場から逃げたくて。


 ど、どうしてジェラルドがここに居るの……?まさか、逆行前(前回)のように私を殺そうと……?


 全く予期してなかった展開だからか、私は『話がしたい』というセリフも忘れて最悪の結末ばかり考える。

そして必死に扉へ向かうものの、恐怖のせいか上手く体を動かせず……逸る気持ちとは裏腹に、とても歩くのが遅かった。

そのため────


「あっ、お待ちください」


 ────あっさりとジェラルドに行く手を阻まれる。

出入り口を塞ぐような形で立つ彼に、私は大きく瞳を揺らした。


 ど、どうしよう……?どうすればいい……?どうしたら、ジェラルドから逃げられるの……?


 恐怖のあまり声も出せず、ただただ震えることしか出来ない私は今にも腰を抜かしそうになる。

────と、ここでルカが私を守るように前へ出た。

まるで、『お前は一人じゃない』と示すように。


「ベアトリス、大丈夫だ。お前は俺が守る」

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― 新着の感想 ―
自分を殺した相手だと思うからこそ身がすくむんじゃないかな。 理不尽な暴力を受けたり恐怖が過ぎると体は固まってしまうことはよく聞くし、子供の体に精神も引っ張られるかなとも思うので私はマイナスなイメージは…
[一言] 7歳児以下のベアトリスちゃん18歳は死んで当然では?いつまでもお父様に守ってもらってルカや殿下に手厚く守られるつもりか?お勉強足りてないんじゃないか?相手は自分を殺した相手だと分かっててこれ…
[一言] ヤバすぎるやろこんな7歳児
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