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魔力のおさらい

 まあ、他の人に比べれば大分友好的ではあると思うけど。

精霊から見て、父は上司の大切にしている人に当たる存在だもの。

無下にはしない筈。


 『それなら、娘の私も……』と少しだけ希望を見出す中、ルカはガシガシと頭を搔いた。


「あー……実はな、光の公爵様が闇堕ちしたとき────精霊が積極的に手を貸したんだ」


「えっ?」


「『手を貸した』というより、アレは自滅に近いけどね」


「そ、それはどういう……?」


 ますます訳が分からなくなり質問を重ねると、ルカとグランツ殿下は顔を見合わせた。

かと思えば、どちらからともなく頷き合い、苦笑を浮かべる。


「光の公爵様が世界を滅ぼそうとしていた話は、もうしたよな?」


「ええ」


「あん時の公爵様はな、確かに手当り次第ものを破壊しまくっていたけど、世界を滅ぼすほどじゃなかった。もちろん、あのまま放置していたらいずれ世界を滅ぼせただろうけど……でも────実質、世界を滅亡に追い込んだのは精霊なんだ」


 当時の状況を思い出しているのか、ルカは珍しく表情を硬くした。


「精霊はみんな公爵様の怒りや悲しみと共鳴するように────災害を起こし続けた。火山の噴火、地震、津波、台風……まるで狂ったかのように自然を壊し、俺達に牙を剥いた」


「自然が損なわれれば、自分達もタダでは済まないというのにね……」


 『これは一種の自傷行為だよ』と語るグランツ殿下に、私は目を白黒させた。

そうしてまで父の力になろうとしたのかと思うと、なんだか複雑で……。


 お父様を大切に思ってくれるのは嬉しいけど、世界の滅亡を手伝うのはちょっと……出来れば、止めてほしかったな。

それで、お父様と互いを助け合いながら生きてほしかった。


 父にも精霊にも辛い思いや痛い思いはしてほしくなくて、世界滅亡という選択肢を悲しんだ。

でも、ふと────自分がもし逆の立場だったら同じことをするかもしれない、とも思った。

大切な人を失うだけでも辛いのに……誰かに殺されたなんて知ったら、我を忘れそうだから。

『そうなると、私も人のことは言えないかも……』と苦笑する中、ルカが教科書を閉じた。


「ま、とりあえずお前には精霊師の才能があるかもってこと。確かめるのはもっと先になりそうだけどな」


「精霊と接触するには、それなりの準備が必要だからね。公爵にだって、話を通さないといけないし……」


「ある意味、ソレが一番の問題だよな。絶対、反対されそ〜」


 『とんでもない親バカだからな』とゲンナリするルカに、グランツ殿下は力なく笑った。


「まあ、頑張って説得してみるよ」


「おう。でも、ダメだった場合はこっそりやろうぜ」


 悪戯っ子のように微笑み、ルカは『三人だけの秘密だからな!』と小声で言う。

そんなことをしなくても、ルカの声は私達にしか聞こえていないというのに。

でも、こういうやり取りは凄く新鮮で楽しかった。


「何にせよ、精霊の方は一旦保留だね。当分の間は魔力コントロールと魔道具の発動練習に専念しようか」


 今出来ることを提示し、グランツ殿下はチョークを置いた。

と同時に、黒板の端っこへ移動する。

恐らく、見やすくするためだろう。


「まずは魔力のおさらいから」


 パンパンと手を叩いてチョークの粉を払い、グランツ殿下は左端に書いた図を手で示した。


「既に知っていると思うけど、魔力は自然から派生して出来た力だ。だから、自然豊かな場所であればあるほど強い力を使える。というのも、目に見えない力の欠片────マナが沢山あるから。私達はコレを体内に取り込むことで、魔力化しているんだ」


「まあ、魔力なしの奴らは酸素や二酸化炭素なんかと一緒に吐き出しちまうけどな。魔力へ変換するための力が備わってないから」


 でも、一応体内に取り込むことは出来るのね。

初めて知ったわ。マーフィー先生はあまり詳しく教えてくれなかったから。


 基礎中の基礎しか習ってなかった前回を思い出し、私は『結構身近にあるエネルギーなんだ』と考える。

────と、ここでグランツ殿下がこちらへ足を向けた。


「ベアトリス嬢の魔力は凄く豊富みたいだから、本来慎重にやるべきなんだけど、幸か不幸か害のない無属性。恐らく、暴走しても大して問題ないだろう」


 『ちょっと体調を崩すだけ』と言い、グランツ殿下は私の前に立つ。

と同時に、手を差し出してきた。


「そういう訳で────ちょっと強引にコントロールのコツを覚えてもらうね」


「早い話、実践だ。ベアトリスは既に魔力を探知出来るみたいだし、直ぐに扱えるようになると思うぜ」


 さっきのムズムズとした感覚を示唆しているのか、ルカは『俺の魔力に反応しただろ?』と笑う。


「まあ、物は試しだ。やってみろ」


「え、ええ」


 正直上手く出来る自信はなかったものの、やってみないことには何も分からないため、おずおずと殿下の手を取る。

────筈が、イージス卿に妨害された。


 い、いつの間に目の前へ……?さっきまで、廊下に居た筈じゃ……?


 グランツ殿下と私の間に割り込むオレンジ髪の青年を見つめ、目をぱちくり。

『何かあったんだろうか?』と困惑していると、イージス卿が困ったように笑った。


「申し訳ありません、第一皇子殿下。公爵様より、お嬢様を殿方から遠ざけるよう言われていて……」


「でも、これは講義のためなんだが……」


 『やましい気持ちなんて一切ないよ』と語るグランツ殿下に、イージス卿は眉尻を下げる。


「すみません。さすがに────皇族の腕は斬り落としたくないので、引き下がって頂けると助かります」


「ん……?えっ?斬り落とす?」


「はい。公爵様が『ウチの娘に触れた者は全て斬れ。例外はない』と言ってまして……」


「……」


 おもむろに扉の方を振り返り、グランツ殿下は何とも言えない表情を浮かべた。

かと思えば、素直に手を下ろす。


「私はまだ腕を失いたくないから、ここで引き下がるよ。それにベアトリス嬢の魔力量だと、弾かれてしまうかもしれないし」


 『無駄骨に終わるかもしれないことに腕は賭けられない』と主張し、数歩後ろへ下がった。

触らないという意思表示をするグランツ殿下の前で、イージス卿はようやく肩の力を抜く。


「じゃあ、俺はまた部屋の外に出ていますね」


「ええ、疲れたら遠慮せず休んでね」


「ベアトリスお嬢様こそ、無茶をなさらないでくださいね。公爵様はもちろん、俺だって凄く心配しますから」


「分かったわ。ありがとう」


 こんな風に温かい言葉を掛けられるのは、まだ慣れてなくて……少し照れてしまう。

僅かに頬を紅潮させる私の前で、イージス卿は軽くお辞儀して部屋を辞した。

そのまま警備に戻った彼を他所に、グランツ殿下は自身の顎を撫でる。


「それにしても、困ったね。これじゃあ、魔力コントロールの実践が出来ない」


 『参った』とでも言うように(かぶり)を振るグランツ殿下に、私は小首を傾げる。


「それって、ルカじゃダメなんですか?」

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