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協力者の正体

 何とも言えない心境に陥りつつ、私はゆっくりと顔を上げる。


「あっ、えっと……恋とかは全然……ただ、その……馬車を手配したのに、第二皇子がなかなか帰ってくれなくて……ずっとハラハラしていました」


「あー……確かにしつこかったですね。お嬢様に是非お礼を言わせてほしいって、何度も食い下がってきて……もしかしたら、お嬢様に惚れているのかもしれませんね。な〜んて、冗談……」


『────直ぐに帰る』


 ユリウスの発言に思うところがあったのか、父は食い気味に答えた。

『えっ?』と声を上げる私達の前で、彼は後ろを振り返る。


『今すぐ、帰り支度を始めろ』


『えっ!?ですが、まだ魔物の討伐が……』


『それは私の方でどうにかする。とにかく、今日中にここを()つぞ』


 サンクチュエール騎士団の方にそう宣言し、父は腰に差した聖剣へ手を伸ばした。

が、案の定聖剣は抜刀を拒否。


『いいから、抜けろ』


 そう言うが早いか、父は無理やり聖剣を引き抜いた。

神々しいとすら感じる純白の剣身を前に、ユリウスはガクリと項垂れる。


「力ずくで抜いちゃったよ、この人……」


「公爵様、凄いですね!」


「もはや、人間じゃないだろ」


 キラキラと目を輝かせるイージス卿と呆れたように(かぶり)を振るルカに、私は苦笑した。

────と、ここで父がこちらを向く。


『明日の朝までには戻る。しっかり戸締りをして、待っていなさい』


「は、はい。どうか、お気をつけて」


 完全に父のペースへ持っていかれ、私はただ頷くことしか出来なかった。


 本当は止めるべきなんだろうけど、ユリウスの様子を見る限り無理そうだし……。


 『もう勝手にしてくれ』と自暴自棄になる緑髪の青年を一瞥し、私は水晶に小さく手を振った。

すると、父も手を振り返してくれて……通信が切れる。

どうやら、ユリウスの魔力を使い果たしたみたいだ。


「はぁ……とりあえず、お出迎えの準備でもしておきます」


 数ヶ月ぶりの帰還となると、色々手配しなくてはいけないようで……ユリウスはのそのそと立ち上がる。

『今日は徹夜だなぁ……』と嘆きながら水晶を持ち上げ、退室していった。


 えっと……私も何かお手伝いした方がいいかしら?

でも、この場合は逆に邪魔になるかも……?


 『ありがた迷惑』という言葉が脳裏を過ぎり、私は悶々とする。

その間にも、着実に時間は過ぎていき────気づけば、ベッドの上だった。

どうやら、考え事の途中で眠ってしまったらしい。

『子供って、本当にどこでも寝るわね……』と苦笑しつつ、私は身を起こす。

と同時に、頭を撫でられた。


「もう起きたのか?まだ眠っていてもいいぞ」


 そう言って、シーツを掛け直すのは────銀髪の美丈夫だった。

ベッドの脇に腰掛ける彼は優しい手つきで私を寝かせ、ポンポンとお腹を叩く。

寝かせつける気満々彼の前で、私はパチパチと瞬きを繰り返した。


「お、お父様いつからそちらに……?」


「さっきだ」


「えっ?じゃあ、もう朝に……?」


「いや、まだ深夜三時だ」


「あれ?でも、朝に到着するって……」


山を越えて(最短ルートで)来たから、予定より早く着いた」


 深夜の山越えを苦とも思っていない様子の父に、私は絶句した。

いくら世間知らずの私でも、夜間の移動……それも登山などは危険だと知っているから。


「それでは、かなり疲れているのでは?お父様こそ、お休みになった方が……」


「娘の顔を見ていれば、疲れなど吹き飛ぶ」


 『全く問題ない』と言ってのけ、父はそっと私の目元を覆った。

早く寝なさい、とでも言うように。


 お父様の手、ひんやりしていて気持ちいい。


 スッと目を細める私は、眠気に誘われるまま意識を手放した。

────そして再び目を覚ますと、もうそこに父の姿はなくて……ちょっとだけ、ガッカリする。

でも、ずっと寝顔を見られるよりかはマシかと思い、気持ちを切り替えた。


 とりあえず、身支度を済ませなきゃ。


 と思い立ち、侍女を呼んで黄色のドレスに着替える。

ついでに髪も結ってもらい、いつもより少し豪華なアクセサリーを身に着けた。

『お父様と久々の食事だから』と気合いを入れ、私は食堂へ向かう。

その途中、遠征帰りの騎士と何度かすれ違い、挨拶を交わした。


 皆、疲れ切った顔をしていたわね……まあ、予定より早く帰ってこられて良かったと口を揃えて言っていたけど。

やっぱり、住み慣れた土地を離れるのは嫌みたい。


 『寂しくなっちゃうものね』と思いつつ、私は食堂へ足を踏み入れた。

と同時に、絶句する。

だって────昨日出会ったあの人が、食卓に居たから。


「えっ?あの、これは……?」


 不機嫌そうな父とニコニコ笑顔の青年を交互に見やり、私は戸惑う。

何が起こっているのかイマイチ掴めずにいると、青年がおもむろに席を立った。


「やあ、こうして会うのは初めてだね。私は────グランツ・レイ・ルーチェ。一応、この国の第一皇子だよ。先日はウチの弟が失礼したね」


 『今日はお詫びのために来たんだ』と言い、グランツ殿下は優雅に一礼した。

皇族にも拘わらず、このように礼儀を尽くすのは偏に父が偉大な存在だから。

ちょっと(へりくだ)りすぎている気もするが、先日の騒動を考えると妥当な対応に思えた────ものの、問題はそこじゃなくて……


 ルカの協力者って、第一皇子だったの!?


 第二皇子の行動を制限出来るくらいだから皇室の関係者であることは分かっていたが、まさかそんな大物だとは思ってなかった。

『そりゃあ、ルカも自信満々に大丈夫って言うよね』と驚いていると、グランツ殿下が頬を緩める。


「ベアトリス嬢は本当に愛らしい子だね。公爵が溺愛するのも、分かる気がするよ」


 『うんうん』と納得したように頷くグランツ殿下に対し、父は眉を顰めた。


「ベアトリスが愛らしいのは、当然のことです。わざわざ言わなくて、結構です。あと、勝手に話し掛けないでください」


「う、うん……?挨拶するのも、ダメなのかい?」


「はい、ウチの娘は人見知りなので。本来であれば、視界に入るのも腹立たしい……」


「お、おお……これは重症だね」


 若干頬を引き攣らせながら、グランツ殿下はまじまじと父を見つめた。

『本当にあの公爵なのかい……?』と驚く彼の前で、私はハッと正気を取り戻す。

と同時に、お辞儀した。


「申し遅れました、ベアトリス・レーツェル・バレンシュタインです。第二皇子殿下の件は、その……ありがとうございました」


 昨日のことはもちろん、これまで足止めしてくれていたことも含めてお礼を述べた。

『ただでさえ、公務で忙しかっただろうに……』と思案する中、グランツ殿下は小さく首を横に振る。


「いやいや、私は当然のことをしたまでだよ。罵られる謂れはあっても、お礼を言われる謂れはないさ。弟の無作法を許してしまった時点で、私も同罪だからね」


 未然に防げなかったことを悔いているらしく、グランツ殿下は物凄く申し訳なさそうにしていた。

かと思えば、場の空気を変えるように明るく笑う。


「あっ、ちなみに今回はきちんと文書を送って正式に訪問している。そうしないと、公爵に追い返されてしまうと思って」


「……」


 図星だったのか、父はフイッと視線を逸らした。

案外分かりやすい反応に、グランツ殿下は『ほらね』と肩を竦める。


「それより、そろそろ食事にしないかい?昨日から何も食べてなくて、お腹ペコペコなんだ」


 『弟の後始末に追われていてさ』と嘆き、グランツ殿下は小さく肩を落とす。

すると、父が私を手招いた。


「ベアトリス、こっちに来なさい」


「は、はい」


 促されるまま父の傍に歩み寄ると、いつものように抱き上げられた。

『まだまだ軽いな』なんて言いながら隣の席に下ろし、父は優しく頭を撫でる。


「何が食べたい?」


「えっと……じゃあ、サラダを」


「分かった」


 慣れた手つきでサラダを取り分け、父はプチトマトを私の口元に運ぶ。

なので、つい食べてしまった────グランツ殿下より早く。

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