1話 百物語の記憶
「この扉を抜けたら、貴方は元の世界に戻れます。この世界での記憶を消された状態で、ですが。」
狐面を被った少女が言う。
僕は足を止めて、少女を見る。
「異世界旅行は、楽しかったですか?」
楽しむ余裕なんて全くなかったな。何度も死ぬかと思った。
いや、ここは本音をいおう。
僕は、心のどこかで、ちょっとだけ楽しいと思ってしまったんだ。
「私の道案内は、ひとまずこれで終わりです。あとは自分で歩いて帰ってください。」
そうだ。僕は現世に帰らなくちゃいけない。現世に続くといわれた扉を見つめる。
「帰りたくないのですか?」
そう。僕は現世に帰りたくない。ここでの記憶を、忘れたくないんだよ。
「この世界にいたら、死にますよ。」
それはどこの世界でも同じだよ。どこにいたって、死ぬときは死ぬんだ。
「そうですね。確かにその通りです。」
少女が笑った。狐面に隠れて顔は見えなかったけど、肩の揺れや声の震えに、狐面を取った微笑みを幻想した。
「じゃあ貴方は、帰らないという選択をしますか?」
少女が、両の掌を空へ向ける。まるで、何かを天秤にかけるように。
「ゆっくり選んでいただいて結構です。私は貴方の選択を尊重しますので。」
長い時間をかけて、答えを出す。丸1日かかったような気がするし、2分もかからなかったような気もする。考えている間、少女は待ってくれていた。
「そうですか。わかりました。」
僕の答えに、少女は簡潔に応える。
「貴方の選択を、尊重しましょう。」
少女の後ろには、真っ赤に燃える山「朱嶽」があった。
「明日から修学旅行ですね。皆さん、どこに行くか、知ってますか~?」
担任の辺野の声が、教室に響きわたる。
「「「京都ーー!」」」
クラスメイト達の声が重なる。賑やかで、平和なクラスだ。
「忘れ物は絶対にしないようにね。」
「「「はーーい!」」」
何気ない、平和な日常。
そして翌日、バスで京都に向かう途中、突然道路に亀裂が入り、僕たちは地面に吸い込まれていった。
初めて小説投稿します。
本当はもうちょっと第1話で書きたかったのですが、朝のちょっとした時間でしか書けない都合上、予定より短く切って投稿することになりました。
毎日投稿はおそらく無理ですが、毎日少しずつ進めていこうと思います。
( `・ω・´)ノ ヨロシクー!