罠の主
目をつぶり、じっと聴き入ると徐々に近づいてくるのがわかる。
足音から複数人、おそらく3人であるが…
(やけに足音が軽い。子どもだろうか)
何か話しているが聴き取れない。
甲高い声で聴き慣れない言語だ。
相手は気になるが、下手に動いて止めを刺されては仕方がない。
縄が外れるまではとりあえず死んだふりをしておくべきか…
(だが、やはり気になる!)
気付かれないように、薄っすらと目を開ける。
そして、目に映るその姿に俺は驚愕した。
人間ではなかった。
(ゴブリン!?)
小学生程度の背丈、緑がかった肌、尖った大きな耳と鼻。
着ているのは貫頭衣だろうか、粗い布に身を包み、片手に身の丈ほどの棒を携えている。
見た目はまさにファンタジー世界のゴブリンだった。
別の世界だったとは思っていたが、まさかゴブリンがいる世界だなんて。
だが驚いてばかりもいられない。
相手が未知のモンスターだろうと、人間だろうと状況は然程変わっていない。
まずは逃げられるかどうかだ。
ゴブリンの3人組はこちらを見て騒いでいる。存外の大物に興奮しているのか、それとも取り分を巡って争っているのか。
話が終わったのか、静かになると、3人の中の1番背の高い個体が近づいてくる。
そして棒で狼の体をつつき始めた。
しかし死んだふりは続行だ。油断して縄を外してくれれば、逃げ出す体力は僅かに残っている。
死亡を確信したのか、突くのは辞めてくれた。しかしゴブリンの手は縄ではなく、狼の頭に伸びた。
(いや!そっちは駄目だ!)
キノコが生えているのをすっかり忘れていた。そりゃ捕まえた獲物の頭にキノコが生えていれば気になって取ってみたくなるのが人情だろう。
取られてはまずいととっさに手に噛みつこうとしたが遅かった。
キノコは既にゴブリンの手にかかっていた、頭を動かした時の拍子でキノコは狼の頭から完全に分離してしまった。
そしてその瞬間俺は意識を失った。