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転生したら○○だった!?  作者: 薬師丸
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角のある熊

再び狼に寄生していた俺はあることを考えていた。

 (このままここにいていいのだろうか?)

 【寄生キノコ】として2年目の春を迎え、多くの生き物に寄生してきたが、同じ場所に留まっていてこの辺りの生態系は大丈夫か心配になってきたのだ。

 本来、この【寄生キノコ】が寄生後に宿主をどう行動させているのかわからないが、この地域の狼やワシといった上位捕食者をだいぶ食い散らかしてしまっている自覚があった。

 とんでもない生態の【寄生キノコ】を広めてしまうリスクはあるが、ここに依存するのも考えものだ。

 上位捕食者は個体数がそもそも少ないので、一頭あたりの影響が大きいはずだ。


 この場所を離れよう。そう決意するまでに時間はかからなかった。

 生態系への影響うんぬんもあるが、それ以上に今いるのが元いた世界なのか確かめたいという気持ちが大きかった。

 まだ見たことはないが、どこかに人間もいるかもしれない。

 人間を見つけたところでどうなるものでもないが、元人間としては気になるところである。


 移動については、今が狼であるというのも丁度よかった。長距離を移動するのであれば鳥の方が都合が良いが、鳥の体は扱いが難しく空はかろうじて飛べても、獲物を捕るとなるとかなり難しく、鳥の燃費が悪いのも相まって直ぐに力尽きてしまうのだ。

 前世では空を飛べる鳥に憧れもしたが、やはり現実は楽ではないようだ。


 どれくらい移動した頃だろうか、川を越え山を越え、7日くらい移動した先で事件は起きた。


 移動に疲れ木陰で休んでいた時のこと、地鳴りのような音と何か重いものが倒れる音で目を覚ました。


 音の先を見ると、遠くの方で木々の梢が揺れているのに気づいた。

 何かが近づいてくる。木々の隙間や茂みからシカやウサギといった森の動物たちが飛び出してくる。


 (違う。こいつらじゃない…)

 逃げる動物たちの奥から現れたの黒い大きな影。

 恐怖心よりもそれが何なのか気になる好奇心の方が勝ってしまったのか、俺はその影から目が逸らせなかった。

 そして直ぐに、さっきの動物達と一緒に逃げなかった事を後悔した。


 現れたのは黒い巨大な熊だった。

 しかもただのクマではない。

 目は赤く光り、眉間からは長く鋭いサーベルの様な角が生えていた。口は唸りをあげるたびに牙をのぞかせている。

 今までにも、熊はここでも珍しくはないが、明らかに普通のそれではない。

 

 (野生失格!野生失格!)

 (さっさと逃げればよかったんだ!)

 一目でとんでもない相手だと理解できた。宿主の狼のものなのかそれとも自分自身のものなのかわからないが、本能が奴には勝てないと訴えかけてくる。


 こちらに気づくと、耳をつんざく声で吼えた。


 本来であれば、何に食われたとしても乗り移るわけだから、勝てる勝てないは割りとどうでも良いはずだ。

 しかし、馬鹿げた話かもしれないが、「こいつにだけは食われるな!」と第六感が叫んでいたように思えた。


 急いできびすを返すが、大熊は異常な速さで追いかけてくる。

 本来の熊の動きではない。

 こちらが避けた木々や岩を薙ぎ倒すように向かって来る。


 必死になって逃げた。

 ここまで必死に逃げるのは久しぶりだなと思った。

 自分が【寄生キノコ】だと気づいてからというもの捕食者からの襲撃に対し本気で抗うことはしなかった。

 自ら食べられたいとは思わないが、どうせ再寄生するだけだという気持ちがあったからだ。


 だが今は違う。

 なぜだかはわからないが、この熊だけには食われたくない。その一心で森を駆けた。


 すると。

 自分でも驚くほど加速した。

 今まで何度も狼に寄生しているわけだから、狼がどれくらいの速さで走れるかわかっていたが、それとは比べ物にならない速さである。

 しかも、目の前の木を難なくその速さでもかわすことができた。


 自分でも不思議に思うほど体が自由に動いた。

 気付けば俺は大熊を遥か彼方に置き去りにしていた。


大熊からの追跡の気配はない。

 見知らぬ森の中、ようやくの思いで見つけた木の洞から俺は顔を出した。


 いったいあの熊は何だったのか。

 元いた世界の熊どころか、転生してからすら見たことのない角のある熊。

 

 いよいよ自分が別の世界に転生したんだと思えてきた。

 それについては、多分そうだろうと思っていたので驚愕することでもないが、角大熊のような危険な生物までいるとは…

 

 (それにしてもなぜ食われては行けないと感じたのだろう)

 

 考えたところで答えはでない。

 だいぶ角大熊からは離れたと思うが、念のためもう少し遠くまで移動したほうが良い。

 そう判断した俺は、森の中を歩き出した。


 試しに少し走ってみたが、角大熊から逃げていたときの体が異常な速さでも動いたあの感覚はもうなかった。

 (やはり火事場の馬鹿力だったということか?)



 


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