転生のタネ
(またこれか)
まさかもう目を覚まさないだろうと思っていた俺は我が目を疑った。
季節は春。暖かで穏やかな季節。
俺はまた。
ネズミになっていた。
(どうなってるんだ?)
全ては長い夢なんじゃないかと思う、全く理解が追いつかないが、また俺はネズミとしての生を手に入れた。
しかし、知っていますとも。
また俺は追われる側になってしまった。
しかしそれは始まりに過ぎなかった。
狐に食われる、狐になる。
狐がワシに食われる。ワシになる。
大空を自由に飛び回れるようになったかと思えば一月ほどで体が動かなくなる。死ぬ。
またネズミになる。
ヘビに食われる。ヘビになる。
蛇が山猫に食われる。
一月で死ぬ。
ネズミ→イタチ→ワシ→死
ネズミ→山猫→死
ネズミ→タカ→死
ネズミ→ヒキガエル→狐→死
ネズミ→狐→死
ネズミ→イタチ→死
ネズミ→死
最終捕食者になると死ぬのかと思って、イタチやネズミで頑張って生きたとしても2週間から一月程度で死んでしまう。
変わり種だとネズミじゃなくてイノシシに生まれ変わった時もあった。
だけど結局イノシシも一月で死んだ。
何回目の狼かもう忘れたが、狼だった時、ようやく気付いた。この乗り移り現象の本質に。
体が動かなくなった頃、喉が渇いてヨロヨロと水を飲みに行ったこと。
もう何があっても驚かないと思っていたが、水面に移った自分の姿には、さすがに腰を抜かした。
なんと、狼の頭の上には、見たことも無い、
【キノコ】が生えていた。
いわゆる椎茸とかのようなキノコではないが丸っこい傘に軸が伸びている。
傘の上には丸い玉が乗って雪だるまのよう形になっている。
あまりのショックに残っていた気力を振り絞り、キノコを前脚で振り落とした。
しかしそこで意識を失った。
そしてまたネズミになる。
俺はキノコの件が気になって狼の時、最後に水を飲んだ泉に向かった。
(もし仮説が正しいとすれば…)
脚は自然と速くなった。
運良くネズミの脚でもそこまで時間はかからない。
そして、泉に着くと仮説は正しいと確信した。
そこにはやせ細った狼の死骸と、ネズミの噛み跡がある食いかけのキノコが落ちていた。
つまりはこの乗り移り現象は不思議な魔法のたぐいなどではない。
俺は人間から、ネズミに生まれ変わったのではない。
最初からオレの正体は食われることで宿主を変える【寄生キノコ】だったのだ。