狼の憂鬱
勝負には負けたが、賭けには勝った。
意識が戻ると今度は狼としての生活が待っていた。
イタチよりもよほど大きな体を手に入れたのだ、流石に今度は何かに襲われるということは無いだろう。
襲ってきた狼は、2頭だったが目が覚めた時は自分一頭だけで、もう一頭の姿は見えなかった。
仲間がいた方が心強いと思ったがこればかりは仕方がない。狼になれただけでも御の字だろう。
何と言っても狼は、森の生態系の頂点。襲われることはほとんどないはずだ。
とはいえ、狼生活も楽ではなかった。
獲物を捕れるようになるまでに7日くらいかかってしまった。それまでネズミ時代にお世話になった樹の実で食いつなぎ、最初に何とかウサギを捕まえた時は嬉しさのあまり遠吠えしてしまう程だった。
一度慣れてしまえば、意外と何とかなるもので、悲しきかな、ネズミ、イタチと小動物を経験したことで皮肉にも獲物の居場所や行動がなんとなくわかるようになっていた。
3度目の正直。(今度こそ狼としての生を全うしてやる!)
そう固く決意した。
しかし、そうは問屋が卸さない。
狼になって一月ほどが経ち、季節が冬へと向かう頃、異変は起きた。
なにか調子が悪い。そう感じ始めてから日に日に体が動かなくなってきたのだ。
なにかの病気を疑うも、狼の病気なんて知る由もないし、知ったところで病院も薬局もない森の中では仕方がない。
体が動かなくては獲物が捕れない。獲物が捕れなければ病気も治りようがない…
自然の中で病気になることは、死と同義であることを俺は今更知った。
樹の実も秋の終わりとともに姿を消し、いよいよどうにもならない。
目下の問題は。
(病死するとどうなるか)
食われれば乗り移れる。では、それ以外は?というのが当然の疑問だ。
本当に死ぬかもしれない。いや、今までが不可思議な力で渡って来ただけで、本当はもう死んだ命なのだ。
そう思うと少しは死の恐怖から逃れることができた。
空腹と疲労で動けなくなった頃、空からは雪が舞い降り始めた。
無情にも体に積もっていく雪。
考える気力もなく。徐々に霞む視界。
俺は静かに目を閉じた。