6話 朝がやってきました①
怒涛の一日が終わり、それぞれに朝がやってきた。
……七海マコトの場合……
ピピピピ……ピピピピ
聞きなれたスマホのアラーム音で目を覚ます。
枕元のスマホを見ると時刻は6時半、起きる時間。
「う……うーん……」
腕を思いっきり伸ばして体を動かしながら、寝ぼけた意識を起こしていく。
「はぁー……そっか、昨日は新しい管理人さんが来たんだ」
マコトの頭の中には男子禁制の寮にやってきた新しい管理人の姿と昨日の病室での話や、帰ってきてからの一悶着が蘇ってくる。
「……大丈夫かな」
マコトの心を不安が覆いつくしていく。
「とにかく起きないと……うん?……いい匂いがする」
部屋の中にまで漂ってくる匂いがある。
それも引き寄せられてしまう匂い、静香さんが入院してから久しくなかった感覚であった。匂いに引きずられるように部屋を出たマコトがリビングに行くと、テーブルの上にはこんがりと焼き目のついたトーストやスクランブルエッグ、サラダなどの朝食が用意されていた。
「すごい」
マコトとしては久々に見るまともな朝食であった。
「おはようございます。マコトさん」
キッチンからエプロン姿の弘樹が顔を出す。
「おはようございます。朝からすごい料理だね」
「そんなことないですよ。勝手に冷蔵庫を開けて作らせてもらいましたけど……よかったですか?」
「それはいいけど……あまり食材がなかったよね」
管理人がいない間はほとんどが外食で、誰もちゃんとした朝ご飯を作っていた覚えがなかった。
「卵やハムがあったので、なんとか。パンでよかったですよね? 一応キッチンにパンが置いてあったのでトーストにしてみました」
「ありがと」
「あと……これなんですけど」
弘樹の手にはマーガリンやジャム、蜂蜜などが持たれていた。
「たくさんあるんですけど……好みが分からなかったので」
そう言って、次から次へとテーブルに並べていく。
「それ、全部使うんです」
「え?」
「私たちって好みがバラバラなので、絵梨はイチゴジャムをつけますし、久美は蜂蜜がお気に入りで、瑞希にいたってはマーガリンだけですし」
「そうだったんですか。それでこんなに」
納得したのか、それぞれの皿の横に弘樹はジャムやマーガリンを置いていく。
「冷めないうちに食べてください」
そう言って、弘樹はキッチンへと戻っていった。
「いただきます」
席に着くと、手を合わせてマコトはサラダを一口食べる。
「おいしい」
ドレッシングのかかった普通のサラダなのに、どこか懐かしい味がした。
静香さんが作るサラダと同じ味。やっぱり祖母と孫、家族なのだと、マコトはしみじみと感じていた。
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