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10話 朝がやってきました⑤


……柳瀬弘樹(俺)の場合……


 ピピピピ……ピピピピ

 目覚ましの音が鳴ると、俺は布団から起き上がる。

 昔から朝ご飯は自分で作らないといけなかったので、自然と朝には強かった。


「さて、どうしようかな……」

 パジャマを脱いで着替えるとキッチンに向かう。

 冷蔵庫の中に食材が入っていないのは、昨日のオムライスを作った時から分かっていた。

 4人の寮生は料理が得意ではないようで、ほとんど管理人である祖母が作っていたのだろう。祖母が入院してから、どうやって暮らしていたのだろうか。これはガッツリ買い出しが必要になりそうだ。


「うん、考えていてもしょうがない。やるぞ」

 祖母が使っていただろうエプロンをつけると、冷蔵庫をあけて卵を取り出す。あとはハムに……パンがあるのでなんとかなりそうだ。

 トースターに入れたパンも綺麗に焼け、ハムエッグやレタスのサラダと一緒に並べると、徐々にリビングのテーブルの上は華やかになっていく。


「おはようございます」

 並べていると最初にマコトさんが起きてくる。


「……おはよう」

 その後に少し眠そうな久美ちゃんと

「おっはよー」

 と、煩いくらい朝から元気な瑞希がやってきた。


 3人とも、俺が作った朝ご飯に満足してくれたようで、美味しそうに食べてくれている。

 今まで誰かに手料理を振る舞う機会なんてなかったけど……自分が作った料理で誰かが笑顔になってくれることがこんなに嬉しいとは思わなかった。


「なにボーっとしてんの? 弘樹も食べなよ」

「え、あ、うん。そうだね」

 瑞希に促されるまま俺も席に着いて朝食を食べようとすると……。

 ジリリリリ

 部屋の方から騒音のような目覚ましの音が響いてくる。


「何?」

 あまりの音に俺は持っていたパンを落としてしまうが、目の前の3人は聞こえていないかのように黙々と変わらず朝食を食べ進めている。


「スクランブルエッグもーらい」

「……駄目」

「いーだろ。ちょっとだけだから」

「……駄目」

「こら。喧嘩は止めなさい」


 もしかして幻聴? 俺にしか聞こえていないのか?


「あのー……聞こえてますよね?」

「何が?」

 口の中にスクランブルエッグを詰め込んだまま瑞希は言う。


「何がって……さっきの騒音だよ」

 気が付けばいつの間にか騒音は鳴りやんでいた。


「あぁ……あれね。あれは毎朝のことだから」

「毎朝?」

「そうそう。あの音は絵梨の部屋にある目覚まし時計のアラーム音ってこと」

「アラーム……音?」

 あんなに近所迷惑なアラーム音がこの世にあったとは……というか、あの音で起きてこない絵梨ちゃんって何者だ。


「そろそろ起したほうがいいわね。瑞希、悪いけど絵梨を起こしてきてあげて」

「えー……私が?」

「いいから。お願い」

「……分かったよ。やれやれ」

 マコトさんのお願いに、瑞希は渋々といった様子で絵梨ちゃんを起こしにいく。

 瑞希がリビングを出て行ってからしばらくして、部屋から隕石が落ちたような物凄い音がすると、絵梨ちゃんの叫び声と怒号が聞こえてくる。

 静かになったと思ったら、二人は一緒にリビングに現れた。

 絵梨ちゃんは誰が見ても機嫌が悪そうで、瑞希は何故か頭を摩っていた。


「…………」

 機嫌が悪いまま席に座ると、何も言わずハムエッグを食べ始める。

 なるほど、絵梨ちゃんは醤油を使わない派のようだ。メモメモっと。


「何があったの?」

 隣に座った瑞希にこっそりと尋ねてみた。


「あぁ……ちょっとね。起こし方が荒かったかな……」

 そう言って未だに頭を摩っている。そういえば少し赤くなっているような。


「絵梨。朝ご飯はどう?」

 機嫌の悪い絵梨ちゃんにマコトさんが話しかける。


「……普通」

 そう言うと絵梨ちゃんの視線が食卓の上を右往左往する。きっと何かを探しているのだろう。俺にはそれが何か分かった気がした。


「はい。イチゴジャムだよね」

「…………」

 俺の差し出したジャムの瓶を無言のまま受け取る。


「絵梨。お礼くらい言いなさい」

「……ありがと」

 マコトさんに怒られると不満そうに絵梨ちゃんは言う。

 男嫌いはまだまだ解消してはくれないようだ。


 朝食も終わりキッチンで一人片付けをしていると、玄関から声が聞こえてきた。


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