9話 朝がやってきました④
……葉月絵梨の場合……
ピピピピ……ピピピピ
目覚ましの音にきづかないまま、絵梨はベッドの中で気持ちよさそうに眠っていた。
ピピピピ……ジジジジ……バキューン
最初に鳴った目覚ましの横に並んでいる2つ目、3つ目の目覚ましたちが、覚醒したかのようにけたたましい音を鳴らし始める。まるで目覚ましのオーケストラである。
それでも絵梨は、変わらずベッドの中で気持ちよさそうに眠っていた。
グワングワンジリリリリリ
4つ目の目覚ましが他のアラーム音と比べ物にならない騒音を鳴らし始めると、ゆっくりとベッドから手が伸びていく。伸びてきた手は慣れた手つきでポンポンポンポンと4つの目覚ましを止めていく。
騒音のような音が止むと、達成感に包まれた手はベッドの中に戻っていった。
もちろん手の持ち主である絵梨は、いまだにベッドの中で何もなかったように眠っている。
無意識のうちにモーニングルーティーンであるかのように目覚ましを止めていたのだ。
騒音が止み静けさが訪れた部屋に、しばらくして一人の来訪者が現れる。
「絵梨ー。起きてるか」
もちろん絵梨を起こすために渋々派遣された瑞希である。
「…………」
瑞希の声に、眠ったままの絵梨からは反応がない。
「やっぱり起きないか……はぁ」
布団にくるまっている絵梨は起きる気配がなさそうであった。
「しょうがない。アレをやるか」
ニヤッと口元に笑みを浮かべた瑞希は、ゆっくりとベッドから距離をとっていく。
「よーし。いくぞ」
短距離選手のようにクラウチングスタートの構えをとると、掛け声と共に瑞希は一気にベッドに飛び込んでいった。
もちろん狙いは絵梨の眠るベッドの上だ。
大の字に体を開いて飛び上がった瑞希が、そのまま布団の上に飛び込む。
絵梨にとってはいきなり隕石が落ちてくるような衝撃だろうか。
「きゃ……ナニ……何?」
衝撃の大きさに、さすがの絵梨も飛び起きる。
何が起きたのかまだ理解できていないようだ。
「ハハハハ……さすがの絵梨も起きたな」
横では衝撃の原因である瑞希が楽しそうに笑っていた。
「ハハハじゃないわよ。瑞希」
「あれ? 怒ってる?」
「当たり前でしょ」
瑞希を睨む絵梨の顔は完全に鬼と化していた。