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第一話 志を果たしていつの日か帰らん(三)

 僕はスマホの画面にあるヘヴンズフォンというアプリを恐る恐るタップした。おじさんの天使が言うように、お友達リストに母だけの名前があった。

 「これ、本当に母に繋がるんですか?だって母はスマホを携えて旅立ったんじゃないんですよ。やっぱり新手の詐欺なんじゃないんですか?タップしたら僕の情報が全て盗まれるような仕掛けになってるんじゃないんですか?」

 「かなんなぁ自分。せやから天使はそんなセコイことせえへん言うてるやろ?グズグズしてたら、自分のお母ちゃん閻魔様の所に着いてまうで。そうなったら、もうお母ちゃんとは喋れへんで。」

 そうおじさんの天使に言われ、ようやく決心がついた僕は、思い切ってヘヴンズフォンのお友達リストにある母さんの所をタップした。

 普通に数回呼び出し音がなると電話が繋がった。

 「も、もしもし。か、母さん?」

 「拓郎?電話待ってたよ。」

 「ん?待ってた?どういうこと?」

 「昨日の夜、私の遺骨を抱いてあんなに泣き叫ぶものだから心配になっちゃってね。何とかしてあげなきゃと思ってヘヴンズフォンというのをお願いしたんだよ。」

 「そうだったんだ。母さんありがとう。」

 「ねえ拓郎、ちゃんとご飯食べてる?」

 「うん。食べてるよ。」

 「そうなのね。食べてるんだったら母さん安心したよ。拓郎、急に居なくなってゴメンね。」

 「そうだよ母さん。僕、独りぼっちになっちゃったよ。これからどうやって生きていけばいいの?」

 「大丈夫。あなたは今までもちゃんと生きてこられたんだから。周りの人への感謝さえ忘れなければ生きていけるよ。」

 「ねえ、母さん?」

 「ん?」

 「僕、母さんに謝りたかったんだ。今までゴメンね。母さんはたくさんの優しさや愛情を注いでくれたのに、それをないがしろにするような子供で。」

 「いいんだよ。親というのはね、子供が幸せでさえいてくれたら、それで満足なんだよ。」

 「でも僕は母さんに何も恩返しが出来てないよ。」

 「馬鹿な子だねぇ。親が子供に見返りなんて求めてないよ。ただただ幸せに生きてくれるだけで充分なんだよ。」

 「母さん、最後にもう一度だけ会いたい。」

 「ゴメンね。それは出来ないよ。でもね、空から拓郎のことは見守ってるから、淋しい時は空を見なさい。そろそろ時間だね。じゃあ本当にさようなら。拓郎、私の子供に産まれてきてくれてありがとうね。」

 「母さん、母さん、か…。」電話が切れた。もう一度母に電話しようとヘヴンズフォンのアプリをタップしようとしたが、既に画面からは消えていた。アプリをダウンロードしようと試みたが、どこを探してもそのサイトは見つからなかった。アプリを探しながらまた泣いた。泣き疲れた僕は子供のように寝入ってしまった。

 

 目が覚めるとおじさんの天使はいつの間にか消えていた。

 「あれ?おじさんの天使は?ん?夢?僕は昨夜から長い夢を見ていたのか?おじさんの天使も母に電話したのも夢だったのか?夢の中でおじさんの天使と話し、母に電話していたんだ。きっとそうだ。夢に決まっている。よくよく考えてみると天使なんていやしないし、亡くなった人と話が出来る訳ないものなぁ。」そう思った僕は自分自身を納得させようと幼子がイヤイヤをするように首を左右に振った。とその時だった。僕の目が一つのモノを捉えた。

 「ん?」

 それは、タバコの吸い殻が一本だけ入っている縁側の灰皿だった。

 「ん?吸い殻?あのおじさんの天使は本当にいたのか?」

 訳が分からなくなった僕は、気分転換を兼ねて散歩に出掛けた。

 散歩をしながら、おじさん天使のことや、LINNEとかいう怪しいアプリで亡くなった母と電話で話したことを必死に思い出そうとしていた。しかし、思い出そうとすればするほど、記憶が曖昧になってきた。

 「やっぱりあれは、夢だったのか?今まで母にありがとうと素直に言えなかった後悔が、あんな夢を見させたのか?」

 そんなことを考えながら何処とはなしに歩いていると、いつの間にか母が丹精込めて耕していた畑に辿り着いていた。

 「あれ?いつの間に畑に?」何だか奇妙なことばかり起こるなと思いながらも、母が大切にしていた畑を眺めていた。どの野菜も生命の息吹をふつふつと感じさせるほど立派に育っていた。

 「やっぱり母さんは凄いな。あんなに沢山の人達に慕われて、そしてこんなに沢山の野菜を立派に育てて、そして何より僕をちゃんと育ててくれて…。」

 そう思うと、また涙が出てきた。


 つづく

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