物語の導入
初めましてsasamiと言います。
不定期で筆は遅いのでご容赦ください。
「いよいよですね。」
「ああ、まさか本当にここまで来るとはね」
ドームのステージへと繋がる階段その手前でアイドルとマネージャーとおもしき男性並んでいた
「アナタがスカウトしたんですが?」
「まさかあの時スカウトしたやつがアンドロイドだとは思わなかったけどな」
「【美少女】が抜けてますよ。」
大型スクリーンを見上げれば大きく映されている【第50回アイドルキャップ決勝戦】
の文字と左右に分かれて映される2人の少女、その下には【連覇か史上初か】という煽り文句
「あんまり気にすんなよ」
「分かってます。ワタシのやるべきことは全力で歌い全力で踊る事。ただ一つですから。」
ステージから溢れるライトの光で輝いた金髪を靡かせそう宣言するカノジョはとても眩しかった
「すみませーん、ANさんスタンバイおねがいします」
「ハイ、今行きます。」
スタッフに呼ばれ光輝くステージへと向かうアンを見る
「…いつもここまでしか来れないな、俺は」
自然と溢れた愚痴のような何かにアンはピタリと足を止めた
「…どうした?」
「…いえ、一つ言うことがあるのを思い出しました。」
こちらに向き直り綺麗なアイスブルーの瞳でこちらを覗き込む
「…後じゃダメなのか?」
「今がいいんです。」
「言ってみろ」
「……今日この舞台に立てるのは貴方のお陰です。感謝しています。」
「そうか…夢は叶いそうか?」
「…わかりません。でも」
「でも?」
「胸が熱くなる感覚は確かにあります。」
「…お前はもう機械の心じゃないな」
「ワタシもそう思います。」
「ほらそろそろ行け、あの光の先にお前を待ってる人達がいる」
ハイと返事をしそのまま階段を一段一段登る
「トオル。見ていてください。これがワタシとアナタの最高のステージです。」
「ああ、しっかり見といてやるよ」
彼女の背中を眺めながら自分と彼女の出会いを思い出していた。
★★★
「ハァ、俺が担当ですか」
背もたれが破れ中のクッション素材が見えて来ているソファーにタバコの匂いが充満する室内、壁の塗装は剥げて来ており所々黒ずんできている。
お世辞にもいい部屋とは言えないこの残念な部屋が我が社【Mikageプロダクション】の社長室である。
「しかし、突然ですね社長」
「お前ももうここに勤めて3年だろ?そろそろ担当の1人や2人持ってもいいと思ってな」
今の電子タバコが一般化しているこの時代紙タバコを喫煙している目の前の初老の男性
お前も吸うか?と紙タバコを片手に語りかけてくる。吸わないんで。と遠慮すると、そうか。とあっさり引き下がった。
「でもウチの所属って燐子以外いなくないですか?」
「ああ、だからスカウトしてこい」
「…は?」
ウチの事務所は再開発地区ネオ・ナゴヤの中心部にある雑居ビルの3階の一室だけ、いわゆる弱小芸能プロダクションだ。実績もないし、増してや設備も殆どというか全くない。そんな芸能事務所にスカウトされてくれる娘なんているのだろうか。
「いただろうが、燐子が」
「アレはちょっと事情が違うじゃないですか。まぁ、一応ウチの所属ですけど。」
「1人行けたら行けるだろ」
「…はぁ」
「今年は燐子もいるしウチもIDCに登録するからそれを話せば大丈夫だろ。いざとなればパス見せれば通報なんてことにはならねぇよ最悪迎えに行ってやる」
「まぁ、捕まりはしないでしょうけど…」
パスとは芸能界の関係者のみが持つ特別なカードのことだ、営業などに行くときもコレがないと入ることができない。芸能事務所の関係者を騙って若い子を騙す大人を取り締まる為に作成された代物でコレが有れば疑われる心配も格段に下がる。
それに今の芸能界というよりはアイドル界には一つのブームが到来している。
全日本アイドル頂上決定戦アイドルキャップ
通称IDC。文字通り日本のアイドルの頂点を決める大会が今年で節目の50回を迎える。
昨今の日本のアイドルは年々レベルが上がっている。というのも過去のアイドルとは違い最新鋭のAIを搭載した採点制度があり平たく言えばライブなどに勝敗がつく。
今やアイドルは一種のスポーツであり華でもある。憧れる若人も多いだろう…とはいえ
「でも社長、もうIDCの登録まで一週間もないですよ…」
「それはお前がなんとかしろ、てわけで俺はこれから用事あるから担当決めたら連絡しろよ」
そういうと社長は片手を上げ煙草を咥えながら社長室を出て行った。
そんな無茶な。
頑張って続けたいですね。