魔導士学園入学試験へ
マナス魔導士学園。
この世界の中心、魔導都市マジクスに学び舎を構える魔導士の養成学校。
世界中の魔導士見習いが学園に集まり、最後は一流の魔導士として巣立って行く。
「ちなみに創始者は私だ。覚えておくといい」
「なるほどぉ…それでマナスってついてるんですね」
鼻高々に補足をすると、アリスは真剣な面持ちでそれに返した。
私が言うのもあれだがこの娘、純粋過ぎてちょっと心配になる。
いや別に嘘を言ってる訳では無いんだけども。
話を学園の事へ戻そう。
勿論、夢見る少年少女の全てが入学出来る訳では無い。
磨いても光らないであろう原石は振るいにかけられ落とされていく。
その為の入学試験である。
私とアリスに与えられた時間は僅かなものだったが、私の持てる全てを駆使し、なんとか合格出来るであろうレベルに育て上げた。
ドジっ娘の呪いも意外と気合いでなんとかなりそうだ。
「アリス、ハムちゃん。頑張って来てね。
美味しいお夕飯を用意して、良い報告を待っているわ」
「ありがとうママ。行ってきます!」
「あ、そうだ、アリスこれを」
そう言ってマーサがアリスに手渡したのは、薄ピンク色の石が入った小さな袋だった。
これはこの世界の所謂御守りってやつだ。
「ありがとうママ…私、絶対合格するから!」
「えぇ。私の可愛いアリス。行ってらっしゃい」
アリスはマーサに大きく手を振り、背を向けて歩き出す。
私はアリスの肩の上だ。振り返りはしないが小さな片手を上げ、ヒラヒラとさせた。
私は伝説の魔導士だからな。何事も背中で語るのだ。今は小さな背中ではあるが。
マーサに別れを告げ、徒歩と魔導機関車を乗り継ぎ三日。
漸く私とアリスはこの世界の中心、魔導都市マジクスへと到着した。
少し前までは私もこの都市で暮らしていたというのに、遠い昔のように思えてやけに懐かしさを感じる。
「これが…魔導都市、マジクス…」
ふと見上げると、アリスは目をキラキラと輝かせながら立ち尽くしていた。
それもそうか。田舎育ちのアリスにとっては、初めての都会なのだ。
輝くネオン、飛び交う魔導具、沢山の人、高い建物の数々。
これらを見るのは初めてなのだから、テンションが上がってしまうのも無理は無いだろう。
「見えるかアリス。最奥に見える一際馬鹿でかい建物。
あれがマナス魔導士学園だ」
「私達の…スタートラインですね!」
「うむ!それでは行くぞ!」
私達一人と一匹は、意気揚々と魔導士学園への道を踏み出していくのだった。
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「あの、エミリア様」
「なんだアリス」
「これ、学園の門ですよね?なんか、その、別の街の入口の門とか、お城の門とかでは無くて…」
「そうだな。学園の門で間違いない」
「ほぇ……」
まあ、私は見慣れていたからもう何も思わないのだが、確かに“学園の門”として考えたらこれは巨大な方だろう。
アリスの例えた通り、城や何処か別の街の入口と言われた方がまあしっくりくる。
すっかり門に圧倒され、ぼさっと立ち尽くすアリスの頬を軽く抓り、前進させる。
門の前には門番が一人立っている。
実に屈強そうなスキンヘッドの男だ。
「何用だ。答えろ」
「え、え、えっと、あの、その、入学の、えっと、うぅ…」
あ。ダメだ。完全にスキンヘッドにビビってる。
仕方ない、ここは私が。
「コホン。今日は魔導士学園の入学試験だろう。
彼女も受験生だ、私はその使い魔」
「やけに知能の高い使い魔だな…。
まあ良い、それなら受験番号の書かれたカードを持っているな?出してくれ」
「あ、は、はい!これです!」
アリスは大慌てでポケットから受験カードを取り出し差し出した。
服のポケットって。もう少し落とさなさそうな場所にしまっておいたらいいのに。
スキンヘッドのカード確認が終わり、学園の中へと通される。
前方にすぐ見えるのは、噴水のあるこれまた馬鹿でかい広場。
受験生は皆この場で待機のようだ。
「あの人達が…同級生になるんですね…」
「全員では無いし、アリスも気は抜けないけどな。
それに、仲良く楽しくなんて思ってないようなのも多いからな」
「はひ……」
「ねえ、そのハムスター貴方の使い魔?」
そう声を掛けてきたのは栗色のロングヘアを真っ赤なリボンでツインテールに結んだ少女だった。
同じく受験生だろう。
「あ、は、はい…。そうです…」
「へえ、凄いね!一人前になる前から使い魔が居るなんて羨ましい!
あ、あたしの名前はシエラ。同じ受験生同士宜しくね」
「あ、アリスです…よろしくお願いします…」
アリスとシエラという少女が握手を交し、にこやかに談笑していると、急にアリスに肩をぶつけて通りすがる人影があった。
「ひゃ…っ」
「アリス大丈夫!?」
ギリギリの所でシエラに助けられ、尻もちはつかなかった。
シエラはすぐさま何食わぬ顔で去ろうとする人影の腕を捕まえる。
「…何かしら」
「あのねぇ貴方。ぶつかっといて謝罪の一言も無いわけ?」
「あらごめんなさい。低レベルな子は存在感薄くて見えないのよ」
どこまでも挑発的で生意気な少女に、シエラは今にも殴り掛かりそうな勢いで怒っている。
アリスは「もういいから」と必死にシエラを抱き、制している。
私は一人、その少女の姿に目を奪われ、呆然としていた。
漆黒のロングヘアに雪のような白い肌。
澄んだエメラルドグリーンの瞳。
私は、その人物を知っていた。