お勉強の時間です
「ではまずアリス君。魔法が発動する仕組みはわかるかな?」
「えぇっと、魔力と魔力は引き合うから、それで吸収して、それを変換して…えと」
「うん。まぁ、大体は合ってるな」
アップルパイで小腹を満たし、ほっと一息ついたのち、座学へと移った。
今日やるのは魔導の基礎中の基礎だ。これがわからなきゃ話にならない。
「生き物は産まれながらにして体内に大なり小なり魔力を宿している。まぁ、この村の者のように限りなく少ない者も居るが、ゼロでは無い。
そしてまた、自然の中にも魔力は漂っている。そしてそれらは惹き付け合う関係性にある」
解説をしながらブラックボードにカツカツと文字と図を展開していく。
勿論、この姿では直接書くのは難しいので魔法でチョークを動かして書いている。
アリスは真剣な面持ちで私の話を聞きながら板書をしている。
学ぶ気があるのは良い事だ。うむ。
「私達が魔法を発動するには、体内の魔力だけでは不可能だ。体内の魔力をプラスとすると、自然の魔力はマイナスというように性質が違う。
このマイナスの魔力を体内に取り込み、プラスの魔力と練り合わせ、魔法を形にしていくんだ」
「なるほどです…!」
コクコクと頷くアリス。
多分半分くらいしかわかってなさそうだが…まぁいいだろう。
「ちなみに、昨今普及している魔導具は、擬似的に作り出したプラスの魔力を装置に内蔵し、自然のマイナスの魔力を取り込んで動く仕組みだ」
(そのシステムを開発したのはまぁ、私だけどな)
心の中でそっと付け加えておく。
大事な事だからな。安売りはしないが大事な事だ。うん。
「エミリア様。大まかな仕組みはわかりましたが、属性魔法はどういう原理なのでしょう?」
「む。いい質問だな」
いい質問、と褒めただけでアリスの顔がパァっと明るくなる。
実にわかりやすいな。
「先程説明したプラス魔力とマイナス魔力。大まかに括るとこの2種に分かれるが、その中で更に細かに属性が分かれているんだ。
そして互いに同じ属性の魔力しか取り込む事は出来ん。
つまり体内に何属性の魔力を宿しているかで使える属性が決まるわけだな」
「…なるほど…」
ちなみに私は勿論全ての属性が使える。
なんてったって伝説の大魔導師だからな。
まぁ、私みたいに体内の魔力の種類が無くても他の属性の魔法を使う術はある。
魔導具を使えば良いのだ。
魔導具は勿論、生活を豊かにする便利道具だけでなく、戦闘向きの魔導具も沢山ある。
それらを使えば、例えば水属性の魔力を宿してなくても水属性の魔法が使えたりするってわけだ。
「…あと確か、魔導具って魔力増幅型のサポートアイテムとかもありましたよね?」
「おぉ、よく勉強しているな、アリス。その通りだ」
魔力増幅型サポート魔導具。
これは体内に宿す魔力量が少ない者が魔法を発動する際に使うサポートアイテムだ。
形は様々だが、杖とか魔導書タイプが多いかな。
この世界には産まれ持った魔力が少なくとも、冒険者になりたいという人達も居る。
そんな人達の為に私が開発したのがそのサポートアイテムってわけだ。
「あとアリス。詠唱についてはわかるか?」
「あ、はい…えっと…確か、強い魔法程詠唱が必要、でしたっけ?」
「まぁ正解だな。例えば初級魔法のウォーターボールなんかは大抵の人間が詠唱無しで使える。
が、魔法のレベルが上がれば上がるほど、詠唱が無ければ発動出来ない」
「エミリア様でも?」
「私は例外だ」
その言葉にアリスは神でも見ているかのような表情をする。
悪くは無い気分だ。
一通り基礎を説明したところで窓の外を見ると、日も落ちていた。
「よし、アリス。今日はここまでにしよう。お疲れ様」
「ありがとうございました!」
魔導師学園の入学試験の日まであと一ヶ月。
果たしてこの僅かな時間で少女を合格ライン到達レベルまで育てる事が出来るのでしょうか。
ドジっ娘の呪いの少女と元伝説の魔導師のもふもふハムスター。
一人と一匹は幸せそうに一つのベッドで眠りにつきます。
月明かりに照らされて、彼女達が見る夢はきっと、理想通りの素敵な未来の夢でしょう。
現実の試験の日に、何が待っているかなんて知らずに。