ドジっ娘に拾われました
ーートントントン。軽快なリズムの音が聞こえる。それに凄く暖かくて良い匂いがする。私はハムスターとしても死んだんじゃなかったのか。ゆっくり身体を起こし、キョロキョロと辺りを見回す。見た所、誰かの家のようだ。そうか、私は拾われたのか。助かったのか。
一日に二度も死を経験しなくて良かった、と安堵を覚えながらもう一度辺りをよく見てみる。台所で料理をする人物と、私の横でうたた寝する少女。おそらくこの少女に助けられたのだろう。お礼を言いたくて、少女の頬に擦り寄ろうとした時だった。
「あーーー!!アリス!アリス!起きなさい!ハムちゃんが!!!」
「ひゃぁ!?」
私の目覚めに気付いた料理をしていた女性がとんでもない大声で叫んだ。ハムスターとしての本能か、思わず私の身体も硬直する。続いて少女が派手な音を立てて椅子ごと吹き飛ぶ。なんていうか、ちょっとした地獄絵図。
やっとこさ硬直が解け、ブルブルッと体を震わせてから女性と少女へ目をやる。何度もごめんねと謝りながら少女に手を差し伸べる女性。多分母親だろうな。少女は大丈夫と言いながらもフラフラの状態で立ち上がった。
「えへへ…ごめんねハムちゃん、いきなりびっくりしたよね?ママはいつもすぐ大声出すし、私はドジが酷いしで…」
「別に気にしてない。それよりも助けてくれてありがとう。あと、厚かましいお願いかもしれないけど何か食べ物が欲しいな」
別に生き物が喋る事は珍しい事でもないので、躊躇なく言葉を返す。しかし、少女と母親は目を丸く見開いてお互いの顔を確認し合っていた。
「…見た事ないとでも言うのか?この魔力が普及した世界で、喋る生き物を」
「えっと、此処はとても田舎で…魔力の才に恵まれた者も産まれにくいし、自然の魔力も薄くて、魔導具とかもそんなに流通してないから…」
なるほど。言われてみれば私が目覚めた森も全然草木が喋らなかったな。生前私が居たのはこの世界の中心とも言える魔導都市マジクス。魔導という物に当たり前に触れて生活していたが、未だに魔導の普及していない田舎もあると小耳には挟んでいた。此処がその場所という事か。
「えっと、この辺では珍しくてびっくりしたけど、勿論喋る生き物が沢山いる事は知ってるよ。ハムちゃんもそうなんだよね?」
「まあ、ちょっと訳ありだけどな」
「訳あり…?」
この二人に私の事を話してもいいものか。少し悩んだ後、覚悟を決めて二人へ向き直る。
「事情を説明する代わりに私を此処に置いて欲しい。この身体で出来る事は少ないが、やれる事は手伝いもしてやる」
「ママ…」
「それはアリスがあなたを抱えてきた時からそのつもりだったから構わないわ」
二人の意志を確認し、二人と一匹で頷き合う。そして私は一番大事な事を伝えた。
「とりあえず、話す前に餓死しそうだから食べ物を。あと、鍋、吹きこぼれてるぞ」
「え?わぁ!」
ドタバタと慌てて火を消しに行く母親。言うほど大惨事でもないのにどうしようどうしようと走り回る少女。私もしかしなくてもとんでもない家に拾われたな。少女が走り回って椅子にぶつかったり何やら二次被害も起きている。
そんな様子を眺めながら、此処に拾われた事は幸か不幸か。先はどうなるのか。なんて小さな脳みそで考えていた。