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第5話 土下座のド は 土鍋のド

「お願いします、絶対に何もしないでください」

 私は土下座して、アマンダさんに言った。


「えー、これ学校の行事よね?」

「ですから絶対に料理の作業工程に係わらないでください!」


 アマンダさんは天然系の料理が駄目なお方だ。


 まず材料は麦、水、塩。

 そして何の変哲も無い土鍋に、洗った麦、水、塩を入れ

 蓋をして火にかける。


 これだけで毒物を作り出すスペシャリストだ。


「セッカちゃん、酷い!!」

「アマンダさん、これが現実ですよ?」


 私は過去にアマンダさんが作った失敗作を

 アイテムボックスに入れて持ち歩き、料理を作りたくなった

 アマンダさんを毎回諭している。


「どこで麦と水と塩から紫色の物体や、自然にはありえない

 蒼い色をしたお粥が出来上がるんですかねぇ…。」


 隠し味、と言って色々入れる系ではなくレシピ通りに作って

 こうなる、だから天然系だ。


「美味しい料理を作りますので、何卒。

 何卒、上級学校に居る間に料理はなさらないでください。

 あと御貴族様の令嬢が、料理に興味を示してはなりません。」


 最後のはただの言い訳に過ぎないが

 1回、匂いを嗅いだだけで私は嗚咽し気絶した。


 ちなみに中将が、これを見て国軍の研究所に持ち込んだ所

 類を見ない毒物で、これを空から散布でもしたものなら

 都市が壊滅するのでは?とも言われていて

 それ以降、アマンダさんは料理が禁じられてる。


 だと言うのにやりたがる困ったお嬢様だ…。

 ちなみに紅茶に砂糖を入れたり、レモンを入れたり

 ミルクを入れたりでは決して反応しない辺り

 この天然系毒製造お嬢様のスキルの極悪さが伺える。





 私はすぐにテントを種から蔦を生やし、一瞬にして作り

 椅子や机を続々と設置。

 真ん中にキャンプに行った際に触れた、焚き火台などを設置し

 そこに炭を入れて、夜の寒さ対策の暖にもします。

 普通に焚き火を炊くのはNG。


 これが任務なら、煙を出すのは御法度なので

 あえて炭で対応します。


 サッと野営準備をした所で、飲み物を出し

 アマンダさんを座らせた。


「いいですね!絶対そこから動いてはいけません!

 これが評点になるとしてもです!

 上級学校にはあまりの危険さに、軍部から

 警告が言っている筈ですから、アマンダさんが料理しなくても

 多分減点にはならない筈です!むしろ作る方が

 減点対象になる可能性、大ですから!!」


「セッカちゃんがさっきから酷い事しか言わなくなってる…。」

「世界平和の為です!我慢してください!!」

 人類最強兵器の量産お嬢様をなんとしてでも

 止めなければならない、これも私のある意味任務だったりする。



 さて、夕飯を作る訳ですが

 こういう野営は任務遂行中と同様と判断しなければならないので

 あまり匂いの強いものは作れない、と言うのが一般的です。


 魔物を引き寄せる事もあるのですが

 それ以上に匂いで色々とバレることもあるそうなので

 アルミホイルに野菜や魚を入れて

 バターに塩胡椒を入れてホイル焼き。

 密閉するので匂いを閉じ込めやすいのですよ。


「あまり匂いを出すのは良くないので

 あとはパンと果汁で済ませましょう。」


 さっと食べ、灯りが漏れないように蔦テントの入口を閉め

 中で灯りをつけて食べる。


 一応換気用の穴を真上につけて

 灯りは漏れないような形にしたので、大丈夫だとは思うけど

 蔦テントの表面に種をつぷつぷ植えてから就寝。


 これでテントを襲ってくれば蔦に拘束され

 攻撃してくると、それに反応し防御してくれる。

 唯一、火属性に弱いので

 私達は耐熱素材のマントを上にかけてベッドで寝る。



「何か野営とは名ばかりのように思えますが……。」


「体力や精神を削るのが目的ですから。

 私達は普段通りに出来る限り近い環境で過ごす事で

 ここで出来る限り防いで置かないと

 この後がありますから…。」


 これはあくまで校舎へ移動するだけであって

 こんな所で疲弊していたら、やっていられないというか

 これは歓迎行事みたいなものであって

 授業かどうか、と言われると微妙だ。

 ただ厳しさを植えつける行事である以上

 それを感じさせないように、感じないように

 出来る限り過ごすのが、対策でしかないらしい。





 そして2日目にして、早くも泣き言が

 各所で出始めている。


「俺は貴族なんだ、なぜこんな目に。」

 そもそも大半が貴族ですよ?


「どこまでいくんだ…。」

 いや、学舎って言ってるじゃないですか…。

 と言うか6泊7日も知らなかったですか…。


 それにテントで寝ても、寝具もベッドも無い。

 しかも面倒臭そうな、組み立ての居るテントで

 元に戻さなければいけない上

 土の上に寝ているから、身体はバキバキ。


 私とアマンダさんはそれを横目に

 朝食にサンドイッチとサラダにフルーツ。

 匂いがしないよう暖かい珈琲や紅茶を避け

 常温のものを飲んでいるけど

 テントがしっかりと保温してくれた事で

 暖かく過ごせた。

 春先とは言え、まだ夜は薄ら寒いですからね。


 こうしてまた行軍が再開され、日が暮れる前には野営という

 状況が、徐々に体力を奪い精神力を蝕む。

 ただ本来の軍役はこんな物では無い筈です。


 だからこそ、真っ先にこれを体験させておかないと

 授業なんて耐えられ無い訳ですよ。



 そして3日4日、と進んでいくにつれて

 まずは野営地に着いた時に、残っている人数が少なくなっていく。

 私達はぐっすり寝ているけど、皆魔物などに供えて

 半分寝ている状態や、組んでいる人は夜番を置いて

 起きたりもしているからでしょうし

 何よりこの行軍、速度がそれなりに早いのです。


 大体野営地の間隔が200キロメートルくらいと見ていて

 そこを朝6時から、日暮れ前の大体午後4時くらいまで掛けているので

 大凡移動時間は10時間。

 ちなみにお昼休憩なんてありません、食べながら移動ですから

 いわゆる糧食に頼る事になります。


 私やアマンダさんは共にアイテムボックス持ちと言う事もあって

 飴やチョコ、またスポーツドリンクなどや

 私が用意した黄色い栄養補助食品やバナナや羊羹を利用し

 消化しやすい、食べ易いもので栄養補給をしています。


 うん、利用出来るものはなんでも利用するから。

 さて、200キロを10時間で踏破するとなれば

 時速20キロで移動しないといけない事になります。


 しかも先導しているヴォルフ中尉は緩急をつけているので

 事実上はもっと早く走っている事になります。


 この行軍は40キロの荷物を背負って、マラソンランナーや

 ママチャリの全力くらいで走る行軍であり

 それを11歳から12歳の子供にさせた上で

 昼は用意せず、夜だけ材料を用意。

 テントも組み立ての面倒なものを用意したり

 薪を用意したりなど、ついてからも体力などを使う上

 夜の危険からも身を守るべく、気を張り続ける。


 そういう過酷なものであり、それを7日間続けるのですよ。


「セッカちゃんがそういうと、何か不正してるように

 思えてしかたないんだけど……。」


「楽をするのと、サボるのは似て非なるものです!」

 6泊7日の行軍の後、私達はついに学舎についた。

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