第49話 とある軍人の休日の1日。 後半戦
後半。
終わったセッカが向かうのは図書館で新刊の確認と
本屋や古本屋の行脚だった。
「こんちゃーす!グランハート印刷の新刊来てますかー?」
「おお、セッカちゃんいらっしゃい。既に来てるよ。
あと古本も少し入ってるよ?」
この店長もかなり曲者だ。
セッカは既にお得意様どころか、この界隈では
本を買い集める軍人として有名で、少しとは
少なくとも100冊単位だ。
それらを現金で一括買いしてくれる顧客ナンバー1で
それによって今では王都の本屋は
他の本屋が仕入れていないような、希少な本でも
むしろ誰もこんなの読まないんじゃないか?
なんて奇特な本でも仕入れる。
それをセッカが買っていくからだ。
しかも複数冊買う事すら珍しくない。
「じゃあ全部」
セッカも大概だった。
ほぼノールック、タイトルすら見ずに買うくらい酷かった。
この日だけで購入した本は新しいもの、古いもの
混ぜて全部で417冊。
本を買い終わると終わるとセッカは、いつもの喫茶店、いつもの席に陣取る。
ここも軍部同様、自分好みの店にすべく調理場に乗り込み
色々やらかした結果、軍部以上に甘味などが揃った寛げる場所となっていた。
レシピ?セッカにとっては自分で作らずとも
それが買えるなら、それで良いと思っていた。
お店もそれが売りに出来る上、かといって他の人に教える事も無い。
そしてセッカは対価を求めなかったが
店は売上が上がった事もそうだし
レシピを教わった事からの礼として、セッカの席は万年予約席になっていて
セッカ以外が座ることは無い席を用意していた。
店としては一番奥の端っこで、客入りにもそう影響は無いが
最近は外に列が出来る事も不思議では無いが
セッカは予約席があるから並ばないで入ってそのまま
何も言わずに予約席に座る。
そして本を取り出し、全て読んでいく。
……………これ仕事?と思った人。
これは仕事ではありません。
ただ魔導無線は常に装備しているので
何かあれば即座に飛び出していくだけで
まぁ待機と言えば待機なんだけど………。
「いいんだよ、詰所に居てもここに居ても
すぐに出られるか出られないか次第なんだから。」
そしてその日のお勧めの甘味と
最早これしかセッカが飲まないアイスカフェオレ、無糖が出てくる。
そして本を読み、飲み物が切れれば自動的に
新しいものが追加で置かれる。
そしてこの席には、意外と対面に座る人が出てくる。
本から眼を離さずに、軽く話をしては
やってきた人は、1杯飲み物と甘味を堪能して帰っていく。
やってくるのは暗部の人物だったり
王都に居る情報を取り纏めている人だったり
軍人だったり様々だ。
セッカはこうして様々な情報も取り入れるし
ここで新聞も読む。
セッカ曰く「情報がうんちゃらを制する」らしい。
そして夜遅くまで本を読み続けて、机に代金を置いていく。
基本毎回銀貨1枚、日本円なら1万円だ。
店長からすれば、いただきすぎなのだがセッカはこれは評点だと言っている。
どちらかと言えば甘味に対する評価で
手抜きなどをされた時、セッカは銅貨1枚だけ置いていく。
日本円なら100円で、その時は店長が慌てて厨房へ駆け込み
何か手抜きをしていないか、失敗はしていないかと確認すると
大抵、手順を省いていたり忘れていたり
焼きすぎなどだったりと、甘味が不味いと言う事としているが
今日は大変よく出来ました!という時は
なんと金貨1枚、日本円で100万円を置いていく。
ここでもセッカは上客だが、雑貨屋の稼ぎだけで
最早生きていけるが、軍人を辞めるつもりもないらしい。
いや、だって良く考えてみて欲しい。
これで任務がこれといって無い日の1日だとかそうそうありえる話では無い。
むしろ元々種を沢山使う、と考えた時
雑貨屋で沢山使うし、軍人として戦闘でも使う。
これでそもそもここに招いた天神様の為にもなっているし
任務がなければ、それこそのんびりと過ごせている。
セッカにはほぼ不満自体無かった。
しいて言うなら酒場や食堂で酒を呑むと、未成年と間違われる事位だ。
お昼はこの喫茶店で過ごすので、無く
夜はまた軍の食堂で過ごす。
大抵夜は特中隊が揃って食べている事が非常に多い。
何しろ酒の席になるからだ。
セッカが居ると、食堂には存在しない酒が出てくるからだ。
流石、某雑貨店の店主。
「っていうか、狙いは絶対55年物ですよね……?」
特に王様やエンデバー陸軍中将の夜の楽しみともなっている
55年物のシングルモルトウィスキー狙いだ…。
「当たり前だ、諸外国で今では1本白金貨1枚なんて
高級酒をタダ酒以外で飲む気は無いな。」
「少佐って一杯貰ってそうなイメージですけど?」
「軍人なんて、五十歩百歩だ……。
将官佐官なんて貴族であって、貴族としての年給と
軍人としての年給を足すから一杯貰ってそうなイメージがあるだけで
ただの騎士としての佐官なんて、対して変わらないぞ?」
「ヴォルフ少佐はこう言ってますけど、二等騎士兵の方々の
数倍は違いますからね?」
「数倍……。」
「その数倍が1杯の酒で軽く消え失せるこの蒸留酒の
存在の方が俺は恐ろしいけどな……。」
「ストレートで飲むからでは…。
せめて割りましょうよ、炭酸水とかで……。」
「勿体無い…。」
「えー、タダ酒を勿体無いとか言われても…。」
「と、言うか小隊長は酒好きですよね……。」
「モチのロン!酒は百薬の長!」
こうして晩酌も出来るのも、仲間内で飲めるというのも
セッカが軍人を辞めるつもりも無い所だった。
最初の頃を覚えているだろうか?
意味の解らない、ただ社長の甥と言うだけで
上司として偉ぶって、最後にはセッカを殺した男を。
それとは違う、1つの会社としての形で
セッカは特中隊を捉え、上司であるウルフ少佐と
仲も悪くはなく呑めると言う事も楽しんでいた。
そしてそこから離れた位置で、その楽しそうな輪の中に
自分が入れていない事を嘆くものも居た。
アマンダ・フォン・エンデバー曹長
そしてアニー・フォルメニア軍曹の2人だった。
2人は小隊の人員と共に食事を取る事も無かった。
何しろ現在、この2人はセッカ達と着ている制服が変わっていた。
今は陸軍から、空軍に出向していた。
近年、と言うより原因は紛れも無くセッカだ。
空軍のここ最近の酷さに、大元帥である国王を含めた
将官との会議において、陸軍、空軍、海軍の縦割りな組織構造が問題視されていた。
そしてディメンタール王国軍は、出向プログラムを作り
陸軍、空軍、海軍の中で出向を行い
一時的に出向いて任務を行なう、まぁ交流みたいな所から初めて
徐々に縦割構造にメスを入れようというものなので
その第一期生にアマンダとアニーが選ばれた上
その行き先は空軍だった。
そこは予想以上の酷い場所だった。
唯一安堵出来るのは、自らの部屋とこの全ての軍人が利用する食堂。
それ以外には存在しなかった。
それも同じ陸軍から来た2人が揃っているだけであり
完全に孤立していた。
しかしこれはエンデバー陸軍中将、お爺様から与えられた
試練として受けたものであり、キチンとそれを理解している筈だった。
こうなった経緯を含め…。
だがこの2人は少し勘違いをしていた。
ウルフ少佐は、今はまだセッカの横にも後ろにも立つ資格は無い。
マリア大尉は、目の前の事を放り出していく人はいつかどんなに重要な事でも放り出す。
そう怒られた事をアマンダは未だ覚えていて
陸軍に戻るまでは、あそこに近づいてはいけないとも考えていた。
それは任務内の話であって、アマンダがやらかしたのもセッカの任務中だ。
セッカが呑んでいる以上、とっくに勤務時間は終わっている。
むしろプライベートで陸軍と空軍が一緒に食事をしている。
そう皆の目には映るだろう、とかまでには思い至らなかった。
そしてアマンダも、アニーも、セッカもこの時はまだ
考え至る事は無かった「二度ある事は三度ある」と言う事に………。




