第3話 幼少期その2
「多分、あれは夢だったに違いない……。うん、忘れよう……。」
と、言うより現当主であり陸軍少将が暇な訳が無い。
普段はエンデバー伯爵の私兵である、領主軍に
稽古をつけてもらう事が多くなり、本を読む時間や
座学などの時間も設けられていた。
ちなみにここで魔力の多さもさながらに
素地が出来なかった場合は女中になるコースもあったらしいけど
そちらよりは、軍人の方が合ってるそうで
基本的には稽古に座学に下級学校。
暇な時は、領主の館で働く方々のお手伝いをしている。
まだ満6歳とはなっていないけど、ただ飯を頂くほど
図太い神経はしていないのです。
しかし、私は少々ミスをしてしまったのですよ……。
「セッカちゃん?何か私達に隠し事をしていませんか??」
ある日、アマンダさんとその奥様、大奥様やメイドの皆様に
追い詰められていたのですよ…。
「奥様、絶対に何かあるに違いありません!」
「そうね、この髪のサラサラ加減にツヤツヤとした感じ。
決して若さだけだとは思えません」
「肌も少し奥様方とも違います!」
「な…なんの事でしょうか?」
「そうですか、セッカちゃん?私達には話せないと。
そう仰るのですね?」
「うう……。」
流石、女性達の目つきが違う。
と言うかアマンダさんまでだ……。
私の肌や髪が、いくら伯爵家のお風呂を借りているとは言え
メイドさん達も借りているのですから?
入る事自体はおかしくないのですが
どうにも私の石鹸やシャンプーなどに気が付いたご様子。
実は【種】から出来る実は自由度が高く、育てていく事で
石鹸やシャンプー。
私が触ったものなら実をつける事が出来ると言う
チート仕様でもあるのですが、欠点は土が必須だという事。
ただアイテムボックス持ちの私は、常に土の入った鉢や壷を持っていて
そこで生やしているから、バレないと思っていたのですが…。
「セッカさんの部屋は花も無いのに、床に土が落ちているのは
何故でしょうか?」
「そういえばお食事の後、何か食べていらっしゃるのを見た事も…。」
メイドの皆が、私の目撃証言を次々と上げていく。
と、言うか周囲を気にしながら飲み食いもしている筈なのに
何故知っているんだろう……。
「さ、セッカちゃん。私達に出すもの。あるんじゃない?」
あ、これ逃げられないパターンだ。
絶対解ってる。
多分もう下調べすら済んでいて、嘘でもつこうものなら。
半ば、お裁きのような状況だった……。
「お…、お納めください……。」
石鹸にシャンプー、コンディショナーにトリートメント。
その他化粧品から、調味料に至るまで引渡し
その後、エンデバー少将の執務室に連れていかれた。
「ふむ。セッカはまだこの屋敷から出るのは下級学校に行く際と
領兵との訓練だけだった筈だが…。
何故これだけのものを……。」
「で、出来ればお人払いを……。」
無能であると偽っていた私が、能力を吐露すべきだと思った。
まぁ、異世界転生者とかは言わないですけど?
天神様が言うと、大抵一生飼い殺しになると言っていましたし?
まぁ聞いた少将は、その内容に驚きはしたが
そのまま秘匿するように、私に言った。
ただ後で思えば、多分この時点で私が異世界の人間である事を
察していた気がする。
奥様方の盛り上がりを収める方法が思いつかず
結局、そもそも私はエンデバー家から食事と寝泊りする場所は
与えられてはいても、これは私のものだから
キチンと対価を支払って、分けてもらいなさい。
と言う場所に落ちつく事となった。
まぁ、しかしそれで落ち着く訳が無い。
何しろエンデバー伯爵家が総出で髪はサラサラツヤツヤ。
その上メイドさんまでとくれば、噂が立たない訳が無い。
ただ、エンデバー少将がその辺りは手を売ってくれていた。
実は似たようなシャンプー等が遠国で売られているのだそうで
それを買ってきたと喧伝した事で収まったそうだ。
しかもそれは事実で、ディメンタール王国から遥か離れた
ゲーテルエード王国のグランハート領、と言う所で
実際に石鹸にシャンプー、リンスにコンディショナーにトリートメント。
ボディシャンプーなどが売られているのだそうだ。
「絶対転生者か転移者の類だよね…。」
しかもこの話から僅か1ヵ月後には商業ギルドが大量に仕入れ
王都などで、瞬く間に広がったそうだ。
ただ値段はとんでもなく高かった。
それもあって、エンデバー家ではまぁ比較的安い値段で
私から個人的にお譲りし、対価を受け取るという
商業ギルドを介していないので、本来なら厳罰物と言うか
この状態がそもそも闇商人に近いけど
まぁ個人的な間柄である事からも、見逃されるだろうと
少将も、家の中であればと黙認した。
本来は取り締まる側ですからね?
なので、家の中で家の人間以外には譲らないようにとも言われた。
それは食事にも変化がもたらされていった。
料理長の腕は素晴らしいのに、塩と酢と砂糖と香辛料に香草。
あとは素材の持ち味、と言えば
塩が薄いか強すぎるか、酸味の暴力だったり
砂糖を固めた砂糖菓子、と言うのがこの世の中の料理らしいけど
適度な塩加減に、脂もしっかり落としたメニューに
私の調味料が加わった事などで、毎日の食事が現代に近づいていった。
やはりディメンタールには醤油も味噌もあり、米も存在する事も知り
転生者か転移者が、派手に商売をしている事が解った。
パスタまでなら解るけど、この世界ではガレットくらいにしか
使われない蕎麦粉から、蕎麦として乾麺まであると言われたり
お酒の一部が「日本酒」ってそりゃダイレクト過ぎだった。
しかも辺境伯で大佐って……。
しかも別名が「神殺し」と言うらしく、絶対遭遇したく無いと思った。
そして、私とアマンダさんが満12歳となる年初め。
私は下級学校の推薦を無事勝ち取り、上級学校への進学が決定した。
同時にエンデバー伯爵が、家督を息子で
アマンダさんのお父さんである、ハイゼル・フォン・エンデバー氏に譲り
少将はそのまま軍に残ると同時に昇格を果たし、エンデバー陸軍中将となった。
そしてエンデバー中将夫妻は、隠居であり軍の仕事の利便性の為に
王都にあるエンデバー家の王都邸へと引っ越し。
私とアマンダさんも上級学校の進学の為に、共に王都へと引っ越す事となった。
上級学校の入学には試験は無いけど、退学と言うものはある。
特にこれから私とアマンダさんが入る国軍科は、9割が退学と自主退学で占められる。
あまりの厳しさもそうだけど、やはり色々とあるらしい。
特に派閥争いが厳しいそうで、入学早々それを味わう事になるとか
そこまで難しくは考えていなかったのは、やはり私の甘さだったらしい。